1998年公開の映画『新宿少年探偵団』で松本潤、横山裕と共に映画初主演を果たして以降、俳優としてもキャリアを重ねてきた嵐・相葉雅紀。連ドラ初主演は2009年放送の『マイガール』(テレビ朝日系)で、嵐の中では連ドラ主演デビューが遅れたこともあり、かつては「嵐の演技派」といえば二宮和也や大野智らほかのメンバーを思い浮かべる人も多かったかもしれない。
しかし、今や繊細で優しい演技が高い評価を獲得。特に18年10月放送の主演ドラマ『僕とシッポと神楽坂』(同)で演じた獣医師役は「当たり役」との呼び声も高い。
現在は、10月22日にスタートした主演ドラマ『和田家の男たち』(同)で、義理の祖父・寛(段田安則)、父・秀平(佐々木蔵之介)と同居するネットニュース記者・和田優を演じている相葉。同作の第4話(11月12日放送分)を「エイベックス・アーティストアカデミー」のシアター総合コースディレクターとして演技講師も務める演出家で俳優の秋草瑠衣子氏に見てもらい、気になるシーンをなぞりながら相葉の演技について解説してもらった。
マスクを着けているのに表情がわかる
まず、このドラマの特徴は、アフレコ(映像を見ながら、声を録音すること)を多用している点です。プレスコ(先に声を録音し、後から映像を作ること)の可能性もありますが、相葉さんの演技を見ていると、表情や動きに合わせて声のタイミングを作っているように見えるので、アフレコだと思います。
台詞を言いながらの芝居は、ついついその台詞に頼りがちになってしまいますが、相葉さんは歩き方や動きの速度、さらに表情の微妙な変化で感情の動きを表現していますし、それが繊細かつ正確だと思いました。
特に感心したのは、マスクを着けているシーンが多いのに、ちゃんと表情がわかることです。これはマスクの素材を選んだスタッフの力もあると思いますが、相葉さんのマスクは呼吸をするとかなり動きます。外を歩きながら「誰かに追われているのではないか」「誰かに命を狙われているかもしれない」とドキドキしているシーンでは、マスクが大きく動くことで呼吸が荒くなっていることがわかります。これはコロナ禍だから生まれた、新しい表現方法だなと思いました。
和田家の男3人のシーンでは、段田安則さん、佐々木蔵之介さんという名俳優2人を相手に、対等に演技のラリーができている相葉さん。ラリーというのは、台詞や反応の往来のことですが、相葉さんはこれを絶妙な間の使い方で楽しみながらやりとりしています。
特に私が良い演技だなと思ったのは、3人で朝食を取るシーンで、寛(段田)に「あんたも安易に動くんじゃないぞ」と忠告されたあとの優(相葉)の表情。口に入っている食べ物の噛み方が微妙に変化していて、味わって食べていないことが伝わってきます。人は“心ここにあらず”というほど深く考え事をしている時に、動作が遅くなりがち。相葉さんはこの場面で見事に噛むのが遅くなっていて、リアルで良い演技だなと思いました。
また、寛の元カノ・冬木亜蓮(草刈民代)が和田家を訪れ、寛に復縁を迫るシーンでは、祖父の恋愛のイザコザを目の当たりにしてモジモジしている優と、話を聞きながら引いていく秀平の“差”が出ていて面白かったです。亜蓮に情が移っていく優と秀平の表情に差があるからこそ、このシーンには意味がありますし、思わず「応援します」と即答してしまう優の人の良さも表れていました。
さらに、優や寛らが宅飲みを楽しみ、打ち解け始めたシーンでは、優の「どうしたの?」という声のかけ方がまるで友だちに言っているかのようでした。自分の仕事のスランプも寛のおかげで抜け出すことができ、すっきりと明るい顔色の優が印象的で、友だちと恋バナでもしているような寛との会話が“爽やか”に聞こえます。タメ口で「しょうがないな~」というノリで会話をしても、調子に乗っているように見えないのは、相葉さんの人間力もあると思います。
家事をするために袖をまくっていた優が、帰宅した寛から「あんたはあんたの人生を全うすることが大事だ」と言われて安心するシーンでは、優が袖を直してからソファーにもたれかかります。これも少し細かい演技なのですが、寛の隣にいることに居心地の悪さを感じていたら、そのまますぐに家事に戻ることもできたでしょう。しかし、袖をおろすことで家事を終了させ、“ここからはくつろぐ時間”だということを表現しています。寛との時間に優が居心地の良さを感じていることが伝わり、2人の関係性がこの第4話の間に大きく変化したことがわかります。
相葉さんはドラマ全体を通して、段田さん、佐々木さんという名俳優2人と対等に演技ができていますし、自分をよく見せようとする欲や、演じようとする意志といった自我が見えることもなく、リラックスしてカメラ前に立てていると感じました。テレビ番組のメインMCをはじめ、責任のある仕事を数多くこなしてきた相葉さんだからこその“肝の据わり方”なのでしょうか(笑)。3人の個性が光っている和田家の男たちのやり取りを、最終回まで楽しみながら追いかけたいと思います。
秋草瑠衣子(あきくさ・るいこ)
元宝塚歌劇団男役。フリーの演出家・俳優。2017年文化庁新進芸術家海外研修制度に選出され、パリにて演劇教育についての研修に励む。エイベックス・アーティストアカデミーシアター総合コースディレクター。