「『カルト』と呼ばれる新興宗教の信者である両親の元に生まれた私は、子どもの頃からずっと(うさんくせぇ……)と思ってきた」――「脱会くん」ことライター・DJ2世がつづる、みんなに知ってもらいたい、2世信者だった私の日常と本音。
これは青春の1ページ――私はとあるカルトと呼ばれる宗教の元2世信者である。子どもの頃から熱心な宗教教育を受けていたのだが、心の底ではまったく洗脳されずうんざりしていたので、大学生になって一人暮らしを始めたら、脱会すると心に決めていた。
きっと読んでくれている皆さんの中には、宗教から脱会したくて悩んでいる方もいることだろう。今回は、鳥かごの外に見える大空に憧れ続けながら過ごした私の青春と、その顛末である。
◎「DJ2世 a.k.a 脱会くん」少年〜高校時代
高校時代、私は“限界”を迎えていた。
嘘と詭弁ばかり言う大人たちと、どんどん洗脳されロボットのようになっていく友人たち。振り返れば、どれほどの時間を宗教に奪われてきたのだろう。オレの人生、うさんくさい時間が長すぎる。今ならまだやり直せるはず!
この頃の私は、もはや宗教にではなく、脱会に一縷の希望を抱いていた。
宗教を脱会することは、これまで属していた信者コミュニティとの決別を意味している。子どもの頃からそういったコミュニティに出入りしていたので、気づけば携帯の電話帳には信者の知り合いばかり。仲のいい知り合いの信者とも会えなくなるのだ。本当に一人でやっていけるのか……不安は尽きない。
何より、自分が脱会すると、親が悲しむだろうと思った。実は私は生まれてからずっと、その宗教を信じているフリをし続けていたので、親からすれば、脱会なんて寝耳に水。そんな“爆弾”を家庭内に持ち込むのは、大問題だろう。
断っておくが、カルト宗教2世の脱会者には、自分の親が嫌いな人もいるが、私は実は親が大好きである。そこらへんうまくやってきた。1世の大人たちは、とにかくおかしな人もたくさんいたが、私の親はまだマシなほうというか、至極善人で、騙されやすい人という印象である。脱会して騙し討ちしてしまうことには、恐ろしいほど気が引けた。だが仕方がない、我々は信じているものが違うのだから……!
その頃、ブルーハーツばかり聞いて「自由」に感化されていた自分自身を、私は止めることができなかった。
◎深い理由はないが、バレない気がした
ついに私は大学生になり、一人暮らしを始めた(親の金で)。宗教と距離を取った生活をしているうちに、だんだん「名前だけ残しておいて、脱会しなくてもいいのでは?」という気もしてきたが、そもそも脱会したら親にわざわざ確認の連絡がいったりするものなのだろうか?
宗教内の気の許せる友達数人に「脱会したらバレるのかな?」と質問をしてみたところ、全員「バレないっしょ。もしバレるなら皆脱会できなくなっちゃうじゃん」とのことだった(自分もなぜかその感覚であった。「親に連絡するなんて、ひどいことをするところではないだろう」と感じていただけで、深い理由はない)。
なるほど、それもそうか。もしバレないのであれば、やってしまったほうがいい。脱会方法はネットで調べたところ、FAXを送るだけでできるとのこと。脱会通知書のテンプレートも、ネットからダウンロードした。ほかにも内容証明を送るなどの方法があるようだったが、面倒そうなのでやらなかった。
こうして私は脱会する計画を立てた。20歳の誕生日を迎える前日に脱会をし、20代になった私が朝日を浴びる時、私はまっさらな人間になる!
◎ついに決行
決行日当日、USBメモリを握りしめた私は、宗教の有名施設の近くのコンビニにいた。あの使い方がよくわからないコピー機からUSBに保存していた脱会通知書をプリントアウトし、署名と捺印をした(その場でやるスタイル)。
コピー機の使い方に四苦八苦しながらも、FAX機能で電話番号を打ち込み、もうやっちまえと半ばヤケクソ気味に送信ボタンを押した! それはまるで映画『アルマゲドン』で核爆弾のスイッチを押す主人公・ハリーのようだった。
正直FAXを1枚送信しただけなので、達成感など何もなかったが、その後、宗教施設の前で自分と脱会通知書との記念写真を何枚か撮り、私は帰路に就いた。
その後ハイになった自分は、ドサドサと宗教グッズを捨てた。そして気分がよくなった自分は、眠りについた。20歳の朝を迎えた日、少し大人になれた気がした。親から、誕生日おめでとうメールが届いていたのが少し切なかった。
◎その後、急展開――
しかし事態は急展開を迎える。脱会して2日後、親から「脱会したと聞きました」という旨のメールが届いた。なんと綿密な市場調査(ガバガバ)を行って一大決心をしたのにもかかわらず、2日でバレたのである!
そのメールは「このような結果になって悲しいです。相談してくれたらよかったのに」みたいな内容のものだった。「そうだよね……」と思いつつも、この件ばかりはいくら言っても親とはわかり合えないだろうし、「この期に及んで、そんなことしか言えないのか」と、ちょっとイラッとした。
そこで何らかの返信をすればよかったものの、一切しなかったので、その後、私と親の仲は“世紀末”の様相を呈するようになる。そのわだかまりが解けるのはそれから約3年後のことである。結構、時間がかかった。
◎脱会を振り返ってみて。親バレについて思うこと
人に歴史ありというが、あらためてこうして文字に書き起こすと、なんだか、「ノリで行動しすぎ」「親に迷惑かけすぎ」のただのクソ野郎じゃないかと思った。
しかし、自分の人生を考えると、やってよかったのかな? と感じている。なぜなら、こんなふうに大胆に行動しないと、絶対にあの生活から完全に抜け出すことはできなかったと思うからだ。ずっと宗教とつかず離れずの生活をしていただろう。
また不本意ではあったが、実は親バレしてしまったのもよかった。その後、親と話し合い、お互いに信仰するしないの違いはあれど、「それぞれの道を尊重する」という結論に至る、大きな足がかりになったからである。あの段階で自分が信仰していないことが親に伝わったことで、強制的に話し合う機会を設けなくてはいけなくなった。2世信者にとって、「信仰していないこと」をカミングアウトするのが、実は一番ハードルが高いものなのである。あのとき親にバレていなかったら、いまだに自分は、それを隠して生活していたのかもしれない。
それに脱会してしまうと、もう「いったれ!」という気持ちになり、電話帳から信者の連絡先を全て消したり、家に埃ひとつも残らないまで宗教グッズを捨てたりするのも、気負わずできるようになる。宗教を辞めたい、距離を置きたいと悩んでいる人には、視界に宗教なものが一つも入ってこない生活を、ぜひ一度は体験してもらいたいものだ。
◎脱会するなら計画的に!
「脱会して、大きく変わったことって何?」この体験談を人に話すと、よく聞かれる。「信仰していない宗教から解放された」と、心から言えること以外でよかったのは、正直、「毎月徴収されていた少額のお金を払わなくてもよくなったこと」くらいだろうか。対して、家族や友人たちを捨てなくてはいけないという惨憺たる面があるのも事実だ。
確かに、親元を離れて、教団に名前だけを残した状態で、プライベートでは宗教と距離を取ってさえいれば、脱会しなくてもいいという考えもあるのかもしれない。しかし親との縁はこれからも続くし、ふとしたことで、「自分の人生は一体なんなんだ!」と、自分が信じていないカルト宗教に関わり続けているコンプレックスに押しつぶされ、苦しくなる瞬間は何度もあることだろう。だからやっぱり、脱会することのメリットは大きいと思う。
ただ、もし今、昔の自分と同じように、無計画にいきなり脱会しようとしている学生の2世信者がいるとしたら、親から生活の支援を断ち切られたりするパターンもあるので、オススメできない。私がこのやり方で成功したのは、親が比較的常識のあるほうだったからだ。宗教のことしか目に入っていない1世信者は、何をするかわからない。もし脱会するなら、就職して独り立ちしたタイミングがベスト。そのために学生のうちから準備をしておくといいと思う。
そして、私は自分の今世の人生を賭して、脱会したら普通に周りにバレるということを明らかにしたが、脱会通知書を送る際は、自爆する覚悟をきちんと固めてFAXの送信ボタンを押してみよう。『アルマゲドン』のようにハッピーエンドになるかもしれない(映画だと主人公、死にますが……)。無事を祈っています。
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