• Thu. Jan 20th, 2022

逃走万引き犯が捕まった! 「しっかり思い出して」検察庁でGメンが体験したイヤ~な話

 こんにちは、保安員の澄江です。

 ここのところ、人手不足とコストカットによる人員削減の両立を図るため、接客支援や自動精算、認証装置などさまざまな機器が開発されています。新しいシステムが導入されると、それを突破して盗み出すことに喜びを得るようなタイプの挑戦者的万引き常習者が必ず現れることも不思議で、その盲点を突くような犯行を目にする機会も増えてきました。ゲーム感覚なのか、楽しそうに犯行を繰り返す被疑者が多く、その人間性を疑うばかりです。

 先日、会員登録された客が使用できる自動精算機能付きの買い物カートを導入する店舗で、そのシステムを悪用する手口を用いた常習者の検挙報道がありました。

 その被害は、食料品ばかり計60点、合計で1万1千円相当。被疑者は20歳の女性で、頻繁に来店しては、そのたびに多量の食品を盗み出していたそうです。その行為を見咎められて、お店側から警告を受けたこともあったそうですが、彼女が犯行を止めることはありませんでした。同店のシステムには、多数の余罪記録も残されており、蓄積された盗難被害は140万円以上に上っているとのこと。

 被疑者の家族らが、これまでに盗み出した分すべての損害賠償請求に応じる姿勢をみせたことで和解に向けた協議がなされているようですが、店員に注意されても、なお、万引きを頻繁に繰り返した被疑者の心理は理解できるものではありません。被害状況から察するに、被疑者本人の万引き癖(あえて病気とは言いません)は深刻なものに違いなく、再犯抑止に向けた長い戦いが始まったといえるでしょう。成人した娘の尻拭いに奔走する両親の気持ちを思えば、これを最後にしてほしいと願うほかなく、見捨てぬ親の愛情に感心した次第です。

 防犯カメラの性能向上や設置台数の増加により、特定の万引き常習者による被害を特定できるようになったのは大きな進化で、映像をもとに被害申告をして被疑者の特定に至るケースも増えています。半年ほど前、化粧品やサプリメントなど大量の高額商品を盗んだ中年女に車で逃走されたことがありましたが、残された証拠から特定に至り、つい先日、逮捕に至りました。

 今回は、逃走した万引き犯の後日逮捕について、お話ししたいと思います。

 先日、自宅でゆっくりしていると、事務所から電話がかかってきました。声かけ時に逃走して、後日逮捕された女が犯行を頑なに否認しているため、現認者である私の話を直接聞きたいと、担当検事から呼び出しがあったというのです。早速に折り返しの連絡を入れると、なるべく早く来てくれと頼まれ、次の休みの日に出頭することになりました。

 検事調べ当日。検察庁の受付で約束の時間と担当検事の名前を伝え、所持品を含めたボディチェックを受けると、上階の待合室に通されました。待機している間、手錠と腰縄をつけられた人が数人、見張りの官を従えて両脇の廊下を通過していきます。

 そのうち一人の男の顔に見覚えがあり、誰か思い出せないまま待ち時間を潰していると、顔色の悪い痩せた事務官に呼ばれました。縦長の部屋に3人くらいの検事が詰めており、ついたての向こうにある隣の席では、先ほど見かけた見覚えのある男が取り調べを受けています。後方で待機する官は、腰縄の先端を手に揃って居眠りしておられ、そこだけ見れば休憩室の様相です。

「お忙しいところ、すみません。交通費と日当は出るので、少しの間ご協力ください」

 ちなみに、この日の日当は5,000円ほど。受け取りに必要な書類を書き終えると、早速本題に入り、すぐに被疑者の写真を見せられました。手錠をはめ、腰縄をつけられた30歳くらいに見える太目の女の全身写真で、寝起きを襲われたように見える不機嫌な表情が鼻につきます。

「この女、見覚えありますか」
「いや、ちょっとわからないですね」
「では、こちらの写真を見てもらえますか」

 次に差し出された写真は、女が商品をバッグに隠している瞬間を捉えた店内の防犯カメラ映像を接写したもので、写真を見た瞬間、あの日の記憶が蘇ってきました。犯行時には、帽子をかぶりマスクを着けていたため、女の素顔に見覚えがなかったのです。

 もちろん覚えていると伝えると、防犯カメラ映像の解析から割り出した女の行動が秒単位で記載された写真付きの調査書を示され、それを見ていた私の位置や時間などを詳細に聴取されました。

 その時に出した被害届の内容に沿って話をしますが、正直なところ細かいところまで完ぺきに記憶しているわけではなく、かといって適当な説明をするわけにもいきません。

「おわかりだと思いますけど、人を逮捕するということは、大変重いことです。映像と違うので、もうちょっとしっかり思い出してもらえますか」

 見ていた位置を間違えて話してしまい、あからさまに嫌な顔をされ、ついには嫌味まで言われる始末です。言葉に詰まるたび、検事がイラついているように思えて、いつしか自分が悪いことをして捕まったような気分になりました。それに合わせて、隣の席から振り込め詐欺の出し子を調べる会話内容が漏れ聞こえてきて、その被害者が80代の女性であると耳にしたため怒りまでこみ上げてきます。

「今日は、これで結構です。状況次第で出廷いただくことになるかもしれません。その時は、よろしくお願いいたします」

 このまま被疑者が否認を貫けば、証人として出廷して、彼女の犯罪行為を証言しなければなりません。それまで記憶がしっかりしていればいいのですが、日常的に犯罪の現場を目撃していると、みな同じようなことをするので記憶が混同してしまうのです。無論、加齢による記憶の衰えも否定できません。

(きっと、なんとかなるでしょう)

 身支度を整えて席を立つと、私の肩くらいまでしかない衝立の向こうにいる男と、不意に目が合いました。すぐに目を逸らされましたが、その瞬間に男の正体を思い出して、急に鼓動が激しくなります。数年前まで、同じ事務所に所属していた元同僚だったのです。

「おばあちゃん、こんなことしていたら、みんな心配するよ」

 一緒に勤務した時、捕捉した老女を諭す彼の言葉を思い出しました。同じ口で老女を騙し、金を取っていたとすれば、いままでの善行もふいになることでしょう。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)