羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。
<今週の芸能人>
「できることといったら、それくらしか……」 オアシズ・大久保佳代子
『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日系、11月26日)
6月6日放送の『週刊さんまとマツコ』(TBS系)で、明石家さんまとマツコ・デラックスが“いじり”について話していた。
さんまはオンナ芸人に「さんまさん、ブスいじりしてください」と頼まれることがあるそうだ。芸人の仕事として考えるならば、これを頼んだオンナ芸人は「ブス」をネタにしてテレビに映ろうと思っているわけだから、さんまとしては協力してあげたいはずだ。
しかし、さんまはそれをしないと話しており、その理由は「言ったほうが損をするやろ」。お互い合意の上で、ショーとしてブスいじりをしても、視聴者に「さんまは女性差別をしている」と思われてしまったら、笑いも生み出せず、自身のイメージも低下してしまう。自分が損をするならやらない、ということだろう。
これまで一部のオンナ芸人は、ルックスや非モテをネタ、もしくは自分のキャラクターの一つにしてきた。それを「笑えない」と思う人が増えた今、これから世に出てくる若手のオンナ芸人は、何か違うキャラで勝負してくると思われる。が、困ってしまうのは、すでにこれらのネタで一時代を築いたオンナ芸人ではないだろうか。時代的に笑えないからといって、これまでのキャラを封印して全く違うキャラになった場合に、視聴者はついてくるのかわからない。かといって、時代に逆らって、ルックスや非モテ売りを続けるのも得策とは言い難い。
時代の変化に対応するのはなかなか難しいことだと思うが、やっぱり売れている人は違う。11月26日放送『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日系)に出演したオアシズ・大久保佳代子は、「コンプライアンスに抵触せず、人を傷つけず、共演者にも損をさせないのに、従来のキャラを貫く」方法を見せてくれた気がした。
大久保サンといえば、性欲が強いキャラ、下ネタが好きなキャラとして一世を風靡。性欲について語っても、実際のセックスについて口にしないのが大久保サンの賢さだと私は思っているが(実際のセックスの話だと生々しすぎる)、今の時代だと、こういう話がコンプライアンスに抵触する可能性がないとは言い切れない。
しかし、大久保サンは2つの方法で、この難題をクリアしていると思った。まず1つ目の方法は「見る人に判断をゆだねる」ことだ。
大久保サンは同番組で、京都の高級ホテルに泊まって1人でダラダラする企画に登場していた。ロビーの窓から外を眺めたとき、大久保サンは菜々緒ポーズのようにおしりを突き出した。ここで「私のおしり、どうですか?」などと口にしたら下ネタになってしまうし、見ている側のスタッフや出演者が大久保サンを褒めたとしても、このやりとりをセクハラだと感じる視聴者もいるだろう。
そんな中、大久保サンは無言でおしりを突き出していたのだ。これによって、彼女の行動をエロとみなすか、偶然そういう格好になったと思うかは、見ている側の判断にゆだねられる。
同番組司会の有吉弘行はエロだとみなしたようで、「アピールの仕方が古いね」とツッコんだが、これも時代に即しているといえるだろう。ひと昔前なら「そんなもの見せるな!」というように、「おしりの見た目が悪いから見せるな」といった意味合いのコメントが飛んだかもしれないが、それだと視聴者が不快に思ったり、セクハラだと感じるかもしれない。有吉は見た目という“危険ゾーン”には触れず、ツッコむことも忘れなかったわけだ。
2つ目の方法は「あえて求められていないキャラを演じる」こと。部屋に備え付けられた檜のお風呂を前に、大久保サンは「見えたな、これは入浴シーンあるな」とつぶやく。「(入浴シーンを撮られても)いいんですか?」とスタッフに聞かれた大久保サンは「いいんです、いいんです。私にできることといったら、それくらいしか(ない)」「皆さん楽しませることできないんで」「片乳くらいは大丈夫なんで」と答えていた。
大久保サンに番組がオファーしたのは、芸人として面白いことを言ってもらうためであり、入浴シーンや胸を見せてもらうのが目的ではないだろう。それがわかっているからこそ、あえて“求められていないキャラ”もしくは“勘違い女”を演じて、笑いを誘ったわけだ。
この“勘違い女”キャラも、ひと昔前であればオトコ芸人が「何勘違いしてるんだ、ブス!」くらい言ったかもしれない。しかし、さんまも語っていた通り、今の時代にそんなことを言ったら、自分の評価を下げることは彼らもよくわかっているから、大久保サンがツッコまれる可能性は低い。実際に、同番組司会の有吉とマツコ・デラックスはただ笑っているだけだったし、大久保サンもこの展開を想定していただろう。
結果として、大久保サンの言動はコンプライアンスに抵触せず、人を傷つけず、共演者にも損をさせない笑いを見事に成立させたといえるのではないか。
売れている人というのは、既存キャラの大看板は変えないものの、時代の流れを察知して、少しずつ芸風を合わせて変化させていくのだろう。老舗の味も、実はずっと昔から同じ味というわけではなく、マイナーチェンジを図っていると聞いたことがあるが、それは芸能人も同じことなのかもしれない。
エロという万人受けするネタのキャラ化に成功したこと、また、それをテレビでやっても問題ないように表現する方法を編み出したこと。大久保サンって、天才なんだと思うばかりだ。