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ニューヨーク:移民に投票権! アメリカは移民とどのように向き合ってきたか

ByAdmin

12月 16, 2021

 ニューヨークの移民が投票権を得た。

 先日、東京都の武蔵野市で外国籍住民が住民投票に参加できることとなったが、ちょうど同じ時期、ニューヨーク市では移民に地方選での投票権を与える法案が可決された。これにより2023年から永住権(グリーンカード)、または労働許可を持つ移民80万人が市長選、市議選、区長選などに投票できることとなった。州知事選を含む州レベル、大統領選を含む連邦レベルの選挙には投票できない。

 対象となる移民80万人には、1.4万人の日本人も含まれる。

 ニューヨーク市には2万人の日系移民が暮らしている。そこから米国市民権を取得済みの人と未成年を除く14,000人が新たに投票権を得る。この人たちはニューヨーク市の地方選と、日本の選挙(在外選挙)の両方に投票できることになる。

 ちなみに他国からの移民に比べると、日本からの移民の米国市民権取得率は極めて低い。その理由は前々回のコラムに書いた。

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無資格滞在 → 労働許可 → 投票権
 ニューヨーク市の移民都市振りをチェックしてみる。

 ニューヨーク市の全人口880万人のうち、実に38%が外国生まれの移民だ。街ですれ違うニューヨーカー10人のうち4人近くが移民という計算になる。

 移民は

(1)  米国市民権を取得して米国籍者となった人(すでに投票権を得ている)
(2)  永住権もしくは何かしらの滞在資格を持つ人(今回、投票権を得た人)
(3)滞在資格を持たない人

に大別できる。

 滞在資格を持たない移民は、かつては不法移民(Illegal Immigrants)と呼ばれたが、近年は「Undocumented Immigrants」(書類に記載されていない移民)と呼ばれる。このグループには子供の時期に親に連れられ、もしくはすでにアメリカで働いていた親と再会するために単身で渡米し、滞在資格を得られないまま成長した若者たちが含まれる。

 彼らは通称「ドリーマー」と呼ばれる。オバマ政権時代にドリーマーを出身国への強制送還から守り、進学と就職を許可するDACA(Deferred Action for Childhood Arrivals)という法が作られた。ドリーマーたちはより良い将来を得るために、政府に身元を把握されるリスクを冒してDACAに申請した。オバマ大統領が任期を終了した後、反移民の共和党政権となる可能性があり(実際、そうなった)、大きな賭けだったがドリーマーたちは大学進学や就職を果たし、結婚して子供をもうけた。

 ドリーマーたちの不安は的中し、トランプがDACAを停止した。勉学や仕事を中断させられただけでなく、ICEと呼ばれる移民局の捜査官に捕まらないよう、自宅にこもる生活を強いられた。アメリカの将来を担う学生、すでに社会の一員として働いていた人々が強制送還と、それに伴う家族離散を恐れる日々に引き戻された。米国市民や永住権保持者などと結婚、またはアメリカ生まれの子供がいる人は家族をアメリカに残し、本人のみが送還されるのだ。

 さらに言えば、ドリーマーの中には救急救命士など医療従事者もおり、コロナ禍の最中に貴重な労働力をアメリカは失っていたことになる。なんと愚かな政策であったことか。

 現在、DACAは復活している。今回の新法により、ニューヨーク市に暮らすドリーマーのうち労働許可を持つ人たちも投票権を得た。社会に貢献し、納税する彼らは地方政治に参加する資格があると認められたのだ。

移民から政治家に
 昔からアメリカには元移民(*)の政治家が少なからずおり、国務長官や各省の長官の座にまで上り詰めた人たちすらいる。現在も多くの移民政治家がおり、ミネソタ州選出のイルハン・オマル下院議員もその一人だ。

イルハン・オマル下院議員(wikipediaより) オマル議員の一家は、議員が8歳の時に祖国ソマリアの内戦を逃れて出国。4年間をケニアの難民キャンプで過ごした後に渡米し、ミネソタ州に定住。同州には全米最大のソマリア系コミュニティがあり、現在4万人以上のソマリア人、ソマリア系アメリカ人が暮らしている。

 オマル議員はイスラム教徒としてヒジャブを着けていることから、ミネソタ州に落ち着く前に暮らした州では学校で虐められたと語っている。ミネソタに移った頃には英語も上達し、活発に地域活動に参加し、やがて大学に進み、後に政治家となった。ちなみに議員となった後も「虐め」は続いており、つい先日、共和党の極右議員がオマル議員をイスラム過激派の自爆テロリストだとするジョークを発し、現在、大きな問題となっている。

 幼い時期に移民した人であれば英語に母語の訛りもなく、第三者には「アメリカ人」にしか見えないこともある。けれど彼らは他者が理解できない同胞の苦労を知っており、コミュニティを代表して社会的弱者である移民の暮らしを改善していく。その際、祖国の文化、移民としての体験が必須となる。

 ニューヨーク市の移民投票権法案を起こしたのも、ドミニカ共和国からの移民であるイダニス・ロドリゲス市会議員だ。同議員も9歳でニューヨークに移住している。今、ニューヨーク市の移民のうち、最大の人口を持つのはドミニカ系だ。つまり今回の移民投票権法はドミニカ系コミュニティが政治的、社会的に声をあげるのに大きく役立つのだ。

イダニス・ロドリゲスNY市会議員(wikipediaより)(*)米国市民権を取得した時点で法的には「移民」でなく、米国市民(アメリカ人)となる。移民としての体験、祖国の文化を重要視し、移民と呼ばれることを厭わない人もいる。

アメリカ:災害国の難民受け入れ
 アメリカは甚大な自然災害のあった国からの難民も引き受ける。2010年にハイチが大地震に見舞われた際、米国はハイチからの被災民と、すでにアメリカに暮らしていたビザを持たないハイチ移民に「TPS」(Temporary Protected Status)を発行した。被災民は期間限定でアメリカに暮らせ、ビザを持たなかった移民もその間は強制送還を免れるビザだ。

 ハイチはそもそも非常に貧しい国で、地震以外の自然災害も多く、かつ政情も不安だ。被災民が祖国に戻るのは困難なことから、ハイチTPSは期限が切れるたびに延長され続けた。

 しかし、これもトランプ政権が終了させ、被災民に祖国に戻るよう令が出された。だが今年5月、バイデン政権はハイチTPSの延長を発表。ハイチではその2カ月後に大統領が暗殺され、8月には新たな大地震が起こった。以前にも増す混沌状態が続いていることから、ハイチTPSは今後も延長されるのではないかと思われる。ちなみにTPSを持つ親からアメリカで生まれた子供も多く、最年長はすでに11歳となっているはずだ。この子供たちの未来はハイチとアメリカ、どちらにあるのだろうか。

アメリカ:揺れる移民対策
多くの移民が切望する米国パスポート(wikipediaより) バイデン政権は米国内に暮らす滞在資格を持たない移民に市民権取得への道を開こうと検討している。この件は、実は共和党ブッシュ(息子)政権時代からの懸案だ。全米1,100万人と推定される滞在資格を持たない移民を放置し続けるわけには行かず、ブッシュ政権は恩赦的に永住権を出すかと思われたが、その時期に9.11同時多発テロ事件が起こり、移民法は逆に強められた。

 オバマ政権はこの問題を解決しようとしたものの、ブッシュ政権の置き土産であった不況からの再生が第一課題となっていた。後に取り組み始めた際には共和党からの反発が強く、子供の時期に渡米した若者、ドリーマーに限定したDACAの導入となった。

 トランプ政権は合法移民へのビザ発行すら厳しくし、移民の締め出しを図った。日本人にもビザ取得や延長ができず、渡米や滞米を諦めざるを得なかった人たちが少なからず出た。 現在、バイデン政権は過剰な締め付け部分を元に戻そうとしている。

 共和党は厳しい移民政策で知られるが、1980年代のレーガン政権時には滞在資格を持たない移民に永住権を出している。不法移民と呼ばれた彼らこそ、アメリカ人が就かない低賃金・重労働の仕事に就き、アメリカ経済の土台を支えていたことに加え、1,100万人もの人々を見つけ出し、強制送還させることが物理的に不可能なことも理由だった。つまりトランプを筆頭に「不法滞在者は全員送還」を唱える政治家は、実際には無理と知りつつ、票獲得のためのイデオロギーとして振りかざしているだけなのだ。

日本:国の未来と移民
 そもそもアメリカは移民無くして成り立たない国だ。移民は労働力と頭脳の両方で経済面を支えている。かつ文化の供給者でもある。世界中の文化が持ち込まれ、他の文化と融合し、新たな文化が生まれ、アメリカと世界にフレッシュな視点を提供し続けている。

 同時に大国の責任として、戦争・貧困・暴力・災害などに苦しみ、祖国にいられなくなった人たちを受け入れる。政府や行政だけでなく、多くのNPO、時には民間企業も難民支援を行う。今、Airbnbがアフガニスタン難民に部屋を提供していることが報じられている。

 とは言え、アメリカの移民政策は完璧ではなく、それどころか破綻していると言われている。アメリカ移住を望む人が多過ぎて全てを受け入れることはできず、それでも国境を突破してやってくる人たちは移民収容所に入れられ、やがて強制送還となる。収容所の内部が時に地獄の様相となるのは、前回のコラムで紹介した絵本『Hear My Voice/Escucha mi voz』(私の声を聞いて)に克明に描かれている。

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 移民希望者の数と、一般市民の心情も込みでの受け入れキャパシティを考えると、アメリカが移民問題の完全な解決法を見い出すことは永遠にないと思われる。だが、バランスを見つける努力は続けられている。ニューヨーク市が移民に投票権を与えるのも、移民を社会の重要な構成員と捉えてのことだ。

 世界全体がここまでグローバル化、言い方を変えれば「狭く」なった今、アメリカに限らず、移民・難民を受け入れずに済む国はもはや無いはずだ。日本とアメリカは移民受け入れの歴史も、世界における立ち位置も大きく異なるが、日本も移民の受け入れに向き合わねばならないのは明白。移民の存在をうまく自国の利益につなげ、移民には第二の祖国としての生活環境を提供。また、先進国として難民の受け入れも行う。日本は今すぐにでも日本に合ったやり方を見つけなければならない。これを怠れば、日本の社会に将来の展望はないと断言できる。
(堂本かおる)

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