• Wed. Jan 26th, 2022

『最愛』5つのキーワードで読み解く! 新薬「850」の数字、弁護士バッジや白川郷の意味を徹底解剖

 真犯人は? 伏線がどう回収される? 大ちゃんと梨央の恋の行方は? 回を追うごとネット界隈で考察がヒートアップしていた10月期の連続ドラマ『最愛』(TBS系)が12月17日についに最終回を迎えました。

 伏線は、次々ブラックボックスが開き一気に回収され、大ちゃん(松下洸平)と梨央(吉高由里子)が手をつないで物語は幕を閉じました。今回はこの『最愛』を、物語中の印象的なキーワード(シンボル)からあらためて考察してみたいと思います。

キーワード1:弁護士バッジ

 さて、物語の中心を貫いたのはある意味「連ドラのセオリー通り」加瀬賢一郎で、「台風の夜の死体遺棄共犯」「昭殺しの犯人」「しおり不審死」の全てに関与していました。

 ドラマ公式のあおりも手伝って「真犯人は誰?」とネット上では考察が大盛り上がり。例えば「主要キャスト12人の顔写真があるポスタービジュアルにヒントが隠されているのでは?」や「タイトル表記『最愛』の『最』の中にある又が不自然に下がっているのはなぜ?」などとネット上の考察班がさまざまな独自見解を公開していました。

 答えとなる「加瀬賢一郎」で当てはめると、最の字の「不自然に下がった又」が含まれる「賢」一郎が犯人では? という見立てがありました。それで合っていると思うのですが、ここでは見たままの「最」を上下に分けて、「日を取る」とした上で、答えをより強固なものにしてみたいと思います。

 ドラマ本編を通して、加瀬さんの胸元で一際目立っていた「弁護士記章」(バッジ)。そのつけ外しのタイミングも意味深に映り、あれこれと惑わされたバッジの存在ですが、その図像は天秤と向日葵(ヒマワリ)です。

 天秤は公平・平等を表し、ヒマワリは正義・自由の象徴とされます。英語では「sunflower」で、そのまま太陽=お日さまの花。その「日」を持つ仕事に就く加瀬さんを選び取れば正解だったという見立てです。

 また、加瀬さんがホシであることが確定し、大ちゃんはじめ警察に追われましたが、まんまと逃げおおせ雲隠れしました。こうなると弁護士の仕事を続けるのは不可能で、このまま辞めるしかなく、「日を取る」=「バッジを外す」、あるいは「(あくまで)法の下だけの正義(ヒマワリ=日)は取り払った」と考えることもできそうです。

キーワード2:新薬「SND850」の数字

 数字に注目すると、梨央が開発した新薬SND850は、8+5+0で13。映画『13日の金曜日』の印象が強く、この数字には不吉というイメージばかりが先行しますが、もともとは地上の王の数字です。13=トランプのキングでも王になりますが、これについて自然界では亀の甲羅が詳しく表しています。

 亀は万年といわれますが、万年とは久遠=永遠、時の概念を意味します。甲羅には周縁ぐるりと小さめの六角形が24(時間を表す数字)あり、中に大きめの六角形が13あるのです。24(時間)は13(地上)を守っているという表しが亀の甲羅なのです。

 その地上は現世となるので「現世利益」の薬にはぴったりの数字。また、この13はドラマの中でさりげなく補強されています。

 第4話、梨央の中傷記事が出た直後の定例役員会の時、申し出ていた治験の中断を覆し改めて治験参加を希望した被験者のハンドルネームが「Rina-w319」でした。3+1+9は13です。

 最終話エンディングの手をつなぐシーンがまさに象徴的ですが、「つなぐ」あるいは「結ぶ」「継ぐ」、そして「守る」が『最愛』の主要テーマになっていました。会社を母・梓(薬師丸ひろ子)から「引き継ぎ」、会社を「守る」ための最善策を取ることになった梨央。

 創業家が経営から退くという決断に至り、その辞任会見に臨む直前、兄・政信(奥野瑛太)のネクタイを梨央が締め直してあげるシーンは、個人的にはこの最終回で最もぐっときた場面で、長らく続いたきょうだいの確執が完全に解消され和解し和合、つまり「結ばれた」とわかる1コマでした。

 図像学的に、ネクタイはそのまま結びの象徴であるとされますが、それでいえば、第2話、白山大学陸上部で大麻事件が発生し寮に取材陣が押し寄せたとき、大ちゃんが優くんをその喧騒から遠ざけようと連れ出し散歩するシーン。大ちゃんが優くんのほどけた靴紐を「結び直す」のですが、その光景は印象的でした。

 思えば大ちゃんは学生時代、タスキを「つなぐ」駅伝選手。このように随所に「結び」のシーンが挿入されていたのです。結びの象徴はもちろん「人と人を結ぶ」ですが、「天と地を結ぶ」、また「過去と未来を結ぶ」表しでもあり、その場合、結び目は「現在(現世)」です。

 また最終回、大ちゃんと梨央が揃って登場するのはたったの2回。しおりの葬儀と朝宮家のお墓参りの霊的なシーンで、偶然にもいずれも2人並んで階段を下りていきます。これは2人が過去へと向かう、つまり「世界を変える30代」でも刑事でもない「あの頃の2人」に向かうということの表しでしょう。

 特に2回目は、白川でのお墓参りのあと、マフラーを巻いた(結んだ)2人が手をつなぎ「ちっちゃい手やな」「あったかい手やな」と互いの手の感触(実体)を確かめ合う……やっとのことで2人が結ばれたことを示唆して終わるのです。

 このドラマで気になるシンボルに「カサ」があります。まずは、台風の夜、達雄さんの背後に「傘」を持って立つ加瀬さんが思い出されますが、梨央の運転手「笠」松も意味ありげです。カサは記号化すれば三角になります。数多の象徴的な意味があり、いろんな考察が可能ですがここでは一点だけ、梨央が育った村、白川郷の合掌造りの三角屋根とつなげて展開させたいと思います。

 ちなみに合掌は両方の手のひらを合わせる礼拝の表現で、右手が「清浄(聖)」、左手が「不浄(俗)」。その合一によって、人間としての純真な祈りが捧げられるとされます。また右手が「未来」、左手が「過去」、真ん中が現在、つまり先にお伝えした「結び」と同義になる解釈もあります。

 この白川郷、ざっくりではありますが、かつての都・京都の中心、御所がある御苑の北東の門、石「薬師」御門からそのまま北東の延長線上に位置します。ちなみに、そのさらに延長には康介が埋められた越中富山。歴史的には「薬売り」が有名です。

 薬の開発に励んだ梨央が育った村を、そういった「薬のライン上」に置いたのが偶然だとしたら驚きです。

 さて、仏教的にみて、創薬に情熱を注ぐ梨央は薬師如来に、足の速い大ちゃんは韋駄天と考察することができます。すると、加瀬さんは「賢の字」がある普「賢」菩薩に当てはめてみたくなり、慈悲の象徴ですから慈愛と正義に満ちた加瀬さんにはぴったりです。ちなみに悪知恵も働いてしまった後藤専務(及川光博)はさしづめ智恵の象徴、文殊菩薩と言えそうです。

 これらは一見こじつけのようですが、神話や叙事詩、また聖書や仏典の類からシェイクスピアの悲劇まで、こういった象徴・図像でがんじがらめなのです。いかに神々(天体、時間の概念、数字など)を地上の生きとし生けるものに降ろして正しく配置(表現)するかが、古来からの「物語」の裏テーマで、これら象徴・図像がきれいに整っていると未来永劫残る「古典」になるともいえます。

 そうなると、『最愛』制作陣は、ドラマ史に残る作品を作るというその一点のみの目標で挑んだのかもしれないと思えてなりません。このような図像学的考察を可能にしてくれる神話的・叙事詩的なドラマは、そうめったにないのです。

 最後に。最愛の「愛」について触れることができませんでしたが、加瀬賢一郎を演じた井浦新さんが、最終回終了後にアップした写真で、その字の成り立ちを体現してくれています。

 漢字字源字典『字統』(平凡社)によると、「愛」の字は「後ろに心を残しながら、立ち去ろうとする人の姿」なのです。

 そして、あのダンテの『神曲』地獄篇冒頭のようでもあります。

人の生の道なかば、
ふと気がつくと、私は正しき道の失われた
暗き森の中を彷徨っていた。

 これから地獄篇……そういうことなんですか? ……加瀬さん。

木下けいいち
フリーの出版専門メンテ屋さん。 世の中のあれこれを図像学的に読み解くのが趣味。 ヘッドホンはGRADO派の変態紳士。