下世話、醜聞、スキャンダル――。長く女性の“欲望”に応えてきた女性週刊誌を、伝説のスキャンダル雑誌「噂の真相」の元デスク神林広恵が、ぶった斬る!
2022年、あけましておめでとうございます。とはいえ年明け早々、新型コロナウイルスの新株・オミクロンで感染者が急増するという事態に。いつまでつづくのか、そして明るいニュース、話題はないのか!? と叫びたくなるが、しかし新年発売号の女性週刊誌はもちろん明るくない。各誌ともに年末に急死した神田沙也加特集を組んでいるから。それだけ衝撃だったということだが、新春第一弾は、そんな各誌の特集を比較してみたい。芸能人の自殺報道について、今回もいろいろな問題、議論が噴出したことも含めて。
第584回(12/23〜1/5発売号より)
1位「独占 松田聖子 慟哭の『私のせいで』 沙也加さんの遺骨から離れられない」(「女性セブン」1月20・27日号)
2位「聖子 無言の対面に嗚咽…『新母娘だけの墓』探し 涙の奔走!」(「女性自身」1月18・25日合併号)
3位「独占キャッチ! 神田沙也加さん 元ジャニーズ彼氏と破局したワケ 叶わなかった“最後の宿願”」
「神田沙也加さん 母との愛憎35年の人生」(「週刊女性」1月18・25日合併号)
神田沙也加が急死したのは昨年の12月18日のこと。この時期、女性週刊誌はすでに正月合併号が発売されており、沙也加急死の一報は間に合わず。そのため新春一号目で全誌がこれを扱っているが、共通するのが3誌とも沙也加の母である松田聖子の存在について大きく扱っていること。もちろんその存在の大きさから当然の切り口だが、中でも聖子の様子に詳しかったのが「女性セブン」だ。
新年を迎えた聖子だが、ひとりで外出はおろか立っていることもできないほど憔悴し切っているという。そして聖子の知人の話として、聖子の様子をこう記している。
「聖子さんのリクエストでAさん(夫)が真っ白な洋菊の花束を買ってきて、家の中の祭壇に供えています。聖子さんはその祭壇から離れようとせず、花が大好きだった沙也加ちゃんにずっと話しかけています」
そして、こう続くのだ。「聖子は沙也加さんのお骨を抱きながらこう繰り返しているという。『ぜんぶ私のせい』」
まるで見てきたような描写。よっぽどこの情報源に自信があったのだろう。タイトルにも堂々“独占”の文字が躍る。それだけでなくお通夜の後、沙也加のもとを離れず泣き続けた聖子は、神田正輝の胸を借りることもあったことも報じている。
そして記事には、遺書が2通残されていたこと、また恋人の俳優・前山剛久の裏切りが沙也加を苦しめていたこと、複雑な母・聖子との関係、葛藤が紹介されるが、最も注目すべきは、最近になって明らかになったという沙也加の病気、そして死の直前の様子が芸能関係者のコメントとして明らかにされていることだろう。
「喉の病気です。信頼する人(恋人)の裏切りと病気で追い込まれた彼女は、ここ数か月心療内科に通い、薬を服用していましたが、札幌を訪れる際に薬を自宅に置き忘れて、パニックになったともいわれています」
そんな「セブン」とは対照的だったのが「女性自身」だ。巷間伝えられてきた沙也加と聖子の確執だが、しかし2人は心底では固くつながっていたという。それを証言するのはデビュー当時の聖子と仕事をしていたカメラマン・YAHIMONときはる氏だ。
その証言によれば、沙也加が17年12月の舞台『屋根の上のヴァイオリン弾き』に出演した際、YAHIMON氏が9年間実母と会っていないことを知った沙也加は「子供に会うのを嫌がる母親なんて絶対にいません!」と言ったという。当時、沙也加は村田充と結婚したばかりで、母娘不仲説がさかんに報じられていた時期だ。沙也加と聖子との関係の別の一面が垣間見られる証言だが、記事はその後、沙也加の墓問題に(これはさまざまな選択があるという推測にすぎないなので省略)。
最後に「週刊女性」だが、特集2本立てだ。まず1本目は沙也加のこれまでの男性関係にスポットが当てられる。母親の聖子同様、恋多き女性だった沙也加。記事ではそんな沙也加の過去の恋人が羅列され、結婚願望が強かった沙也加だが、それが叶わなかったことも死の一因と仄めかした。
そして最もクローズアップしたのが、昨年夏まで付き合っていた元ジャニーズJr.の秋山大河。「週女」は秋山を直撃する。結果、秋山の自宅マンションのインターホンを鳴らしたが、応答はなかったという空振りだったが、しかし、これはいかがなものか。いや、関係者に直撃するなと言っているわけではない。相手が違うのでは、ということだ。
沙也加の急死の直後から、その存在が急浮上したのは現恋人の俳優・前山剛久だ。「週刊文春」(文藝春秋)が2号続けて、前山と沙也加の関係、確執を報じ、前山が沙也加を罵倒する音声、前山と元カノとのLINEのやりとりまでもが暴露された。
沙也加の死について報じるなら、すでに別れて、沙也加の死とは関連などない(現時点でそれを指摘する材料はない)秋山を直撃する必要などないだろう。しかし「週女」は秋山に対し「彼女への思いをきくため」直撃しようとした。もちろん現在、秋山がジャニーズ事務所を“クビ”になっていることも関係あるだろう。弱いものいじめであり、「週女」の安易さも感じるものだ。
さらに、さらに、それだけでなく、「週女」は3年前に別れた元夫・村田充の様子までうかがっていた。
「昨年12月下旬の夜。都内のレンタルスタジオから、神田沙也加さんの元夫で俳優の村田充が出てきた。村田は一緒にいた男性と笑顔で話していた」
大きなお世話だ。「文春」報道によって、ネットなどで前山のバッシングが起こり、前山は芸能活動を休止する事態となっているが、しかし沙也加の死に大きな関係が指摘されている以上、彼の存在を取り上げその肉声を得ようとするのは必然だ。しかし秋山や村田は違うだろう。
今回、沙也加の亡くなった翌日12月19日、厚生労働省は異例の報道自粛を呼びかけた。そして情報番組『めざまし8』(フジテレビ系)では、MCで俳優の谷原章介が「神田正輝さん、松田聖子さん、この度はお騒ぎ立てて本当に申し訳ありませんでした」「今日で神田さんのことについての報道は、『めざまし8』では一線を引いて終わらせたいと思います。本当に失礼致しました」と、なぜか謝罪までして呼応してみせた。沙也加のニュースを報じたテレビ番組、ニュースの最後には、とってつけたように「いのちの電話」の紹介が表示された。
もちろん自殺の理由は本人にしかわからないものかもしれない。しかし一方で芸能人の存在、そしてその生き方は人々に大きな影響を与える。今回、沙也加の死に関し、“自殺”という言葉が隠蔽されたことに象徴されるように、芸能人の自殺報道をタブーにしてしまうのはいかがなものか。ネットでの前山バッシングは大きな問題だが、しかし事実を隠蔽し封じ込めるのはもっと危険だ。今後も議論と検証を続けたい。