富と権力を振りかざし、少女たちを性的人身売買した罪で2度も逮捕された米大富豪ジェフリー・エプスタイン(享年66)。彼にあっせんしてもらった少女を性的暴行したという疑惑が持たれている者の多くは世界的なセレブリティや政治家だが、その中でもセレブ中のセレブといわれていたのが、英国王室のヨーク公アンドリュー王子(61)だ。“エリザベス女王の最愛の息子”と呼ばれ、手厚い庇護の下にいた彼が、英王室のメンバーとしての役職や名誉職をすべて女王に返上。事実上、「殿下(HRH = His Royal Highness)」の称号剥奪だと報じられている。
エプスタインの性奴隷だった女性ヴァージニア・ジュフリーは、2015年、自分をうそつき呼ばわりしたエプスタインを名誉毀損で訴え、「未成年だった時にアンドリュー王子と性行為をするよう強要された」と主張。この時、バッキンガム宮殿は、「ヨーク公(アンドリュー王子)は未成年者と不適切な行為はしていない」と正式に否定する声明を出した。
エプスタインが拘置所で不審な死を遂げた19年8月、ヴァージニアの主張が再び注目されるようになり、スキャンダルへと発展。王子は11月に英BBC局の単独インタビューに応じ、「性的暴行などしていない」と真っ向から否定したが、事実を追及されて都合が悪くなると「記憶にない」としらばっくれ、その態度に批判が殺到。王室の権威をこれ以上失墜させるわけにはいかないと思ったのか、王子は同月、当分の間公務から離れると表明。その後、英王室を離脱したヘンリー王子夫妻の話題で持ちきりとなり、アンドリュー王子の疑惑への世間の関心は薄れたかのように見えた。
しかし被害者であるヴァージニアの怒りは収まることはなく、21年8月にニューヨークで、「ここニューヨークで、未成年だった17歳の時、アンドリュー王子による性的暴行を受けた」と民事訴訟を起こした。王子は否定し続け、「原告(ヴァージニア)は(1度目の逮捕後の)09年にエプスタインから50万ドル(約5700万円)の和解金を受け取り、今後、被告となり得る人物を追訴しないことに合意していた」と主張。訴訟を却下するよう求めた。
今年1月12日、このアンドリュー王子側の主張を米連邦裁判事が却下。訴訟は継続されることになり、これにより年内に裁判が始まる見通しとなった。
これを受けて、13日、英王室はアンドリュー王子が「女王の承認と同意を得て、軍の名誉職などの役職、王室としてのパトロン(後援者)の役職をすべて女王に返上した」、ここ数年控えていた公務には「引き続き就くことはない」と発表。「今回の訴訟については民間人として自己弁護していく」と突き放すように強調した。
生まれた時に与えられた「王子」と、セーラ・ファーガソンと結婚した時に与えられた「ヨーク公」の称号、22年間所属していた英海軍中将の階級のみ維持するが、王室メンバーとしての公的地位はすべて剥奪されたことになる。英大手メディアは、今回の発表を受けて、王室メンバーに対して使われる敬称「殿下(HRH)」の称号を、今後アンドリュー王子に対して使うことはなくなると伝えている。
王室の権威を失墜させた王子は、事実上英王室を追放された形となった。厳しい対応ではあるが、性犯罪者である可能性が非常に高く、19年11月から公務を離れていたため、英国民の多くは「もっと早く剥奪すべきだった」と冷ややかに受けて止めているようだ。英大衆紙「ミラー」は、王子はこの日が来ることを覚悟していたものの、実際に女王から剥奪を告げられると涙目になっていたという情報筋の話を紹介している。
肝心の裁判についてだが、英タブロイド紙「デイリー・メール」は、王子の弁護士チームは原告に対して精神疾患に関する記録の提出を要求しており、被害者非難という最悪のカードを切るのではないかと推測。ヴァージニアは王子は刑務所に行くべきだと堅く信じているが、彼女の弁護士チームは、王子に刑事罰を受けさせることは難しいとみて、高額な損害賠償によって経済的に破滅させる戦略に切り替えつつあるという。アンドリュー王子側も1,000万ポンド(約15億6,000万円)の和解金を支払うことで、迅速かつあいまいなまま幕を引きたいと考えていると報道した。この大金は、14年にセーラ元妃と共同購入したスイスの高級リゾート地ヴェルビエのコテージを売却して捻出するしかないと伝えている。
61年間自分を守ってくれた王室から事実上追放された形となったアンドリュー王子だが、未成年者に対する性的暴行はこれをもってしても決して許されない悪質な犯罪行為である。民間人になった王子が今後どのように訴訟を進めるのか、注視していきたい。