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オダギリジョーは「テレビドラマの異物」? 朝ドラ『カムカムエヴリバディ』で注目集める存在感

 現在放送中のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』。祖母・母・娘と3世代の女性たちがバトンをつなぐ「ファミリーストーリー」で、昭和から令和まで3つの時代を順番に描いていく。

 1月31日からは「ひなた編」がスタート。 前週まで続いた「るい編」のヒロイン・雉真るい(深津絵里)の娘であるひなた(川栄李奈、幼少時代・新津ちせ)が、どのような人生を歩んでいくのか、今後の展開を楽しみにしている視聴者は多いようで、同日の世帯平均視聴率は番組最高の18.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)を記録した。

 そんな中で今、特に注目を集めている人物といえば、るいの夫であり、ひなたの父親・大月錠一郎だ。「るい編」から引き続きオダギリジョーが演じており、ネット上では連日のように錠一郎の愛称「ジョー」という単語が飛び交っている。

 ジャズトランペット奏者として活躍していたものの、謎の病気によって演奏ができなくなってしまった錠一郎。るいとの結婚を機に京都へ移住し、回転焼屋「大月」を開店するが、店はほぼるいが切り盛りしているため、錠一郎は無職の状態だ。

 2月2日の放送では、るいの第2子妊娠がわかったため、視聴者から「このままじゃ家計がやばい。ジョーは早く働いて!」「回転焼屋だけで家族4人やっていける?」などと心配の声が寄せられた。

 家族の今後を左右する重要な人物を演じるオダギリだが、実は今回が朝ドラ初出演。登場した当初は「朝ドラのイメージないけど、大丈夫?」「オダギリジョーは朝ドラ向きではないような……」といった声も見られたものの、回が進むにつれて「大月錠一郎はオダギリさんにしか演じられないぐらいハマり役!」「昔はクセの強い俳優だと思ってたけど、朝ドラにもピッタリで驚いた」などと、オダギリの演技を評価する声が増えている。

 しかし、かつては“低視聴率男”と言われた時代も。12年4月期に主演した『家族のうた』(フジテレビ系)は、日曜午後9時の放送枠だったにもかかわらず、第4話で3.1%まで落ち込んで打ち切りに。15年10月期には水曜午後11時53分スタートの枠で『おかしの家』の主演を務めたが、こちらも第5話で1.8%を記録するなど、“大爆死”を遂げた。

 そんなオダギリについて、ドラマ評論家の成馬零一氏は以前、サイゾーウーマンのコラムで「テレビドラマにおいて、オダギリの自然な演技は、実は危険な異物なのだ」と評していた。“低視聴率男”から“朝ドラ俳優”として注目を集めるまでの間、オダギリはテレビドラマにおいてどのような存在だったのだろうか? 『カムカムエヴリバディ』で注目を集める今、同記事を再掲する。
(編集部)

(初出:2014年5月14日)

仮面ライダー俳優から個性派へ、アイドル俳優から実力派へ――ドラマでの若手俳優の起用法は、ここ10年で大きく変化した。ジャニーズとイケメン俳優の現在の立ち位置と魅力を、話題の起用作から読み解いていく。

 『極悪がんぼ』(フジテレビ系)、『アリスの棘』(TBS系)、そして『リバースエッジ 大川端探偵社』(テレビ東京)と、今期はオダギリジョーの主演作が三本も続いている。中でもオダギリの個性が、最も生かされているのが『リバースエッジ 大川端探偵社』(以下、『リバースエッジ』)だ。

 本作は「週刊まんがゴラク」(日本文芸社)で連載されている、原作・ひじかた憂峰、作画・たなか亜希夫の同名漫画をドラマ化した作品だ。浅草にある大川端探偵社には、毎回さまざまな依頼人が訪れる。物語は、調査員の村木(オダギリジョー)が依頼を受けて浅草の街をさまようことで、街と人が持つ裏の顔を知るという大人のおとぎ話。監督・脚本は大根仁。テレビ東京のドラマ24ならではの作家性の強い作品に仕上がっている。

 『リバースエッジ』の演技について、オダギリは「テレビブロス」2014年4月26日号(東京ニュース通信社)のインタビューで「説明的な芝居を一切省いて、できるだけ最小限の芝居で伝えることはできないか」と思い、普段よりも「芝居をいかにしないか」ということに気をつけたと語っている。本作におけるオダギリの役割はゲストを生かすホスト役のため、存在を激しく主張しないオダギリの演技は、適材適所だと言える。

 また、同インタビューの中で、オダギリは、テレビドラマは放送時間帯によっては説明的な要素を芝居にプラスすることもあるのに対し、映画の場合は説明的である必要がないので、何も気にしないで演じていると語っている。なるほど、確かに『リバースエッジ』に比べると『アリスの棘』の芝居は、表情の変化や声のトーンによる喜怒哀楽の表現が比較的わかりやすく、演技のさじ加減を微調整しているのがよくわかる。同時にこの発言は今のオダギリが役者として抱えているジレンマを表しているように思える。

 自然体やナチュラルという言葉で表されるような、まるで演技をしていないかのような脱力系の演技ほど素晴らしいという考えには必ずしも同意はしないが、それが映画やテレビドラマにおける役者の演技を語る際の大きな指標となっていることは確かだろう。おそらく浅野忠信あたりから脱力系ナチュラル演技は賞賛されるようになり、松田龍平、加瀬亮といった線が細いイケメン俳優の得意とする演技のパターンとして定着していったのだが、そんなナチュラル演技の頂点に君臨するのがオダギリジョーであることは間違いないだろう。

 そんなオダギリの出世作が『仮面ライダークウガ』(テレビ朝日系)という、本来なら自然体とは真逆の、キャラクターとしての振る舞いが求められる場所だったのは、今考えても面白い。オダギリの成功以降、いわゆる平成『仮面ライダー』シリーズはイケメン俳優の登竜門となっており、綾野剛、佐藤健、菅田将暉、福士蒼汰といった数々の若手スターを輩出する“男の朝ドラ”といでもいうようなドラマ枠となっているが、まずは平成ライダー第一作である『クウガ』が、オダギリのナチュラル演技を許容したことが、大きかったのかもしれない。

 一方、『リバースエッジ』の記者会見で「民放のドラマですごい低視聴率を獲ってゴールデンはもういやだ。テレビでやるなら深夜かWOWOWだと思った」と、オダギリが語ったことが話題となったが、『家族のうた』(フジテレビ系)が低視聴率で打ち切りになったことは、本人の中では苦い黒星となっているのではないかと思う。

 『極悪がんぼ』の刑事役のように、オダギリのナチュラルな演技は群像劇の時には複数のキャラクターの1人として個性が際立つが、主演の場合、脇役や演出が、オダギリの水準に演技のトーンを合わせないと途端にバランスの悪いものとなってしまう。『アリスの棘』の上野樹里との芝居は緊張感のあるやりとりとなっているが、上野以外の役者がオダギリと絡むと、表情の演技が過剰で記号的なことがあからさまにわかってしまう。テレビドラマにおいて、オダギリの自然な演技は、実は危険な異物なのだ。

 『リバースエッジ』は、そんなオダギリの個性を理解した上でリアリティの水準を築き上げているため、画面上の違和感はまったくない。しかし、それがオダギリに対して作り手が遠慮しているように見えて、全てが自己完結した世界に見えてしまうのが惜しい。多くの人が関わるテレビドラマなのだから、役者と作品が激しくぶつかり合うことで生まれる化学変化が見たいと思うのは贅沢なことなのだろうか。

 おそらくオダギリは、今後も『アリスの棘』のジャーナリストや『S―最後の警官―』(TBS系)の国際テロリストのような、出番は少ないが印象に残る役を卒なくこなしながら、映画や深夜ドラマで本当にやりたい仕事を実現するという方向で生きていくのだろう。それは役者としては絶対に負けないクレバーな戦略だが、深夜ドラマという局地戦でしか彼の個性が発揮されない現実に歯がゆさを感じる。日本のテレビドラマはオダギリジョーという才能を、いまだうまく使いこなせていない。
(成馬零一)

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