• Thu. May 26th, 2022

女性ボディビルダーが陥ったジェンダーの皮肉/肥満や女性に向けられる嘲笑/「自分の体は自分のもの」を知る2冊

 ここはサイゾーウーマン編集部の一角。ライター保田と編集部員A子が、ブックレビューで取り上げる本について雑談中。いま気になるタイトルは?

ブックライター保田 アラサーのライター。書評「サイジョの本棚」担当で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。とはいっても、「女性の生き方」にまつわる本がどうしても気になるお年頃。趣味(アイドルオタク)にも本気。

編集部・A子 2人の子どもを持つアラフォー。出産前は本屋に足しげく通っていたのに、いまは食洗器・ロボット掃除機・電気圧力鍋を使っても本屋に行く暇がない。気になる本をネットでポチるだけの日々。読書時間が区切りやすい、短編集ばかりに手を出してしまっているのが悩み。

「強くなりたい」はずの女性ボディビルダーが陥る、ジェンダー規範

保田 2月15日、プロeスポーツ選手として活動していた女性が、配信中に男性の身長や女性のバストサイズについてあげつらう差別発言をしたとして、後にスポンサー契約を解除されました。

A子 ニュースの反応を見ていると、「見た目への批判を受け止めてこそ、人間として成熟する」といった層もいまだ一定数いるんですよね。男女関係なく、望んでいない他人に向かって、外見で人格や人全体まで格付けすることはないと思うのですが。

保田 ということで、「自分の外見と他人からの評価」について考えるのにおすすめしたい本を取り上げたいと思います! 1冊目は『我が友、スミス』(石田夏穂、集英社)です。ボディビル(正確にはフィジーク)競技に飛び込んだ女性を主人公とした中編。登場する女性のほとんどが違った美学を持っていて、各々格好いいんですよ。

A子 1月の芥川賞候補作ですね。ボディビルというと、多くの人にとっては知られざる世界ですが……。

保田 膨大な情報量で解説されているうちに、知らぬ間にボディビルの世界に引き込まれていきます。「別の生き物になりたい」「やればやるほど強くなる」という理由で日々筋トレに励んでいた会社員女性・U野が、トレーナーO島にスカウトされ、本格的な競技大会に臨む話です。

A子 筋トレ自体はコロナ禍の運動不足の解消手段として、あらためて注目されていますが、意外とその延長線上にボディビルがあるんですね。

保田 もともとU野の「別の生き物になりたい」という願望の底には「ジェンダー規範から外れたい」という思いが見え隠れしているんです。しかしフィジークで勝つには「女性らしさ」も審査されるので、髪を伸ばし、ハイヒールを買い、エステにも通うようになる――。

A子 「女性の役割から外れたい」を突き詰めた結果、外見上は旧来のジェンダー規範に絡め取られてしまうなんて皮肉ですね。

保田 U野は初めて自覚した体への愛情や勝利への願望と、競技ルールの間で葛藤しつつ、進む道を模索していきます。葛藤がなぜか常にちょっとコミカルなのも本作の魅力です。また、U野の外見の変化を巡る周囲の反応がリアル。当初、彼女は筋トレによって得られる強さや集中する時間を楽しんでいたのに、周囲から「痩せて美しくなった=彼氏ができた?」と思われたり、「女性は大変だね」と声をかけられたりする。

A子 それは、現実でもありえますね……。「美」が目的ではなく、単に上達や楽しさを求めて運動する女性も多くいるのに、「美のための努力」みたいな言葉にまとめられると、違和感が残ったりします。

保田 そういう悪意のないバイアスって多くの人が経験しているので、ボディビル自体は未知の世界でも共感できるんですよね。声を上げるほどでもないけど、消化しにくい居心地の悪さの切り取り方が秀逸でした。加えてU野が「スポーティーにしろセクシーにしろ(略)この世に物差しは幾つもあっていい」と、美しさのためにやっている人も否定しているわけではない点も現代的です。

A子 美しくあるためでも、楽しむためでも、動機自体に上下はないですもんね。

保田 自分の決めた“物差し”で戦う人には共感こそすれ、対立軸には置かないフラットな視点が読みやすかったです。終盤、U野が一見同じ場所に戻ったようで、螺旋階段を上がったように別の位置にあることをさりげなく示すラストも鮮やかで、読後に爽快感がある一篇です!

保田 趣きは異なりますが、「自分の身体をジャッジするのは自分」という信念を伝える本として、米国女性文筆家のエッセイ『わたしの体に呪いをかけるな』(リンディ・ウェスト著、金井真弓・訳、双葉社)を挙げたいです。

A子 Huluでシリーズドラマ化された『Shrill』の原作ですね。ドラマはシーズン3まで製作され人気を博していますが、原作も米国でベストセラーになっているんですね。

保田 コメディを愛し、コメディアンとして表に立つこともあった著者が半生を振り返る自伝ですが、同時に肥満や女性に向けられる根拠のない嘲笑の視線を、怒りを込めながらユーモアで力強く振り払うエッセイでもあります。本作が書かれていたのは2016年、6年ほど前ですね。

A子 日本と米国では状況が違いますが、6年前は今より「太っている=痩せるべき」という観念が強かったかも。実際BMIなどはあくまでひとつの指標であって、肥満と不健康は必ず結びつくものでもないんですよね。

保田 著者は、上司が肥満を揶揄した記事を掲載した時、「ハロー!私は太っています」という題で反論を同じ媒体に載せたり、テレビ番組で討論したり、匿名で中傷した男性とラジオで話したりと、勇敢に波風を立てる女性。その裏にある信念が綴られています。

A子 矢面に立ち続けている人なんですね。このSNS隆盛期に最前線に立つ人って、相当強い人だろうと思われがちですが……。

保田 エッセイを読むと、彼女は特別に強いわけではない。自身の弱さや間違いもオープンにしています。ただ「いい仕事をする」「自分の選択が未来の社会を築く」ことに誠実で、自覚的なんだと感じました。実際世論も変えてきた彼女の「世界はゆっくりだが必ず変わる」という手応えはきれいごとではなく、実感として伝わってきます。女性全体を励ます1冊です。

『我が友、スミス』

 「別の生き物になりたい」、そんな動機で日々筋トレに励む会社員女性・U野。自己流のトレーニングをしていたところ、元ボディビルダーであるO島から大会への出場を勧められ、本格的な筋トレと食事管理を始める。すばる文学賞佳作、第166回芥川賞候補作。

『わたしの体に呪いをかけるな』

「笑うな。哀れむな。値踏みをするな。わたしの体はわたしのものだ。」
女性文筆家でフェミニストである著者による自伝エッセイ。体型への固定観念、生理や中絶への偏見、ネットの誹謗中傷、ジョークの顔をした性暴力……自分から人生を奪うシステムに、ユーモアと怒りで疑義を呈する。