――アイドル好きのブックライター・保田と編集部員・B子が、タレントたちの“愛読書”を片手に、人となりを妄想中!? 「サイジョの本棚」前で、おしゃべりが始まります!
◎ブックライター・保田 アラフォーのライター。「サイジョの本棚」担当 で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。趣味(アイドルオタク)にも本気。
◎編集部員・B子 猫と暮らすアラサー。芥川賞、直木賞、本屋大賞あたりを一通りチェックしたい、ミーハーな本好き。最近はノンフィクションばかり読んでいる。趣味(ジャニーズオタク)にも本気。
SixTONES・松村北斗の愛読書:『北海道室蘭市本町一丁目四十六番地』
編集・B子 保田さん、SixTONES・松村北斗の愛読書『北海道室蘭市本町一丁目四十六番地』(幻冬舎)は読んだ? 俳優・安田顕が、自身の父・弘史さんの思い出を中心に、家族や幼少期のエピソード、そして自身が親になった感慨をつづるエッセイだけど、どうだった?
ライター・保田 正直、安田さんについては“TEAM NACS所属の、演技が上手な俳優”くらいの知識しかない状態だったけど、単純に面白かった! 父・弘史さんをはじめ、家族がみんな個性豊かで、まるで昭和の室蘭を舞台にした朝ドラを1本通して見たような読後感。弘史さんの少年時代のエピソードや、祖父の話から室蘭が造船業や製鉄業で栄え、衰退していく地域の戦中戦後史も垣間見えたなあ。
編集・B子 私も読んだけど、単なる“ほっこり家族エッセイ”じゃなかったよね。その理由は、弘史さんがちょっと破天荒なお父さんだったからかな〜と思った。
ライター・保田 “その筋”の人に「どこの組ですか?」と聞かれるくらい強面なのに、お風呂に入る前、裸のまま居間で踊ったり、ふざけたりして小さな息子2人を喜ばせるところとか、基本的には心優しい人なんだよね。ちょっとお酒に飲まれすぎなのが気になるけど……。でも、清濁あわせのむような大らかさが、この本の魅力を深めているんだろうなあ。
編集・B子 ちなみに、弘史さんが顕さんに言って聞かせた「(酒は)浴びるほど、ほどほどに」は、好きな物事に対する姿勢として、ほっくんの座右の銘になっているらしい。“自分を労わりつつも、やりたいことはとことんやれ”って意味で言ったみたいだよ。ジャニーズJr.時代、ほっくんがインタビューで「一番の興味はお芝居」と話してたのを覚えてるけど、とことんやった結果、朝ドラ俳優になったんだからすごい。
ライター・保田 エッセイで書かれているのは何十年も前のことで、当事者たちが笑って話しているので穏やかに読めるけど、妻(当時は恋人)が頑張って貯めていたお金を勝手に持ち出して飲みに使うエピソードなんて、「本当に最悪!」って思った(笑)。でも、1冊通して読むと、顕さんが濃い愛情の中で健やかに育てられて、家族の仲がいいのも伝わるんだよね。
編集・B子 確かに、ちょっと引いちゃうようなエピソードもあるけど、私は弘史さんが「子供に手を上げない」「子供にはなんも、叩かれる理由がない。暴力ふるわれる理由がないんだよ」と、しっかりポリシーを持っているところで安心したかな。当たり前のことだけど、残念ながら、線引きできない親って結構いるから……。
ライター・保田 私は、家庭環境などで若いころは鬱屈していた弘史さんが、クラシック音楽に感動して、人生を大きく変えたエピソードが印象的だった。弘史さんは、舞台に立ったり、映画や音楽を熱心に楽しんだり、芸術やエンタメが人生に与える力を信じているようで、そういう背景があったから、会社を辞めて俳優を目指した息子にも、きっと理解があったんじゃないかな。
編集・B子 一部報道によると、ほっくんはデビューの確約があったわけではないJr.時代に、お父さんが家や車を売って、仕事も変えて、家族で上京しているんだとか。破天荒な中に優しさがある弘史さんとほっくんのお父さんって、なんとなく似ている気がしてきたね。このエッセイを読みながら、ほっくんは自分のお父さんを思い浮かべたんだろうな〜。
ライター・保田 家族が息子の夢に理解があるところも、共感できたポイントかも。いい父子関係だったことが想像できて、勝手にほっこりしちゃうね。松村さんの愛読書になった理由が、ちょっとわかったような気がする!
編集・B子 ところで、『北海道室蘭市本町一丁目四十六番地』を愛読しているほっくんに1冊おすすめするなら、どんな作品がいいと思う?
ライター・保田 著名人が家族の思い出をつづるほっこり系エッセイは、これまでリリー・フランキーの『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(扶桑社)、島田洋七の『佐賀のがばいばあちゃん』(徳間文庫)など、数々のヒット作が生まれてる。だけど、ここはあえて、あらゆる意味で「逆」を描いた吉川トリコの小説『女優の娘』(ポプラ社)を推すよ!
編集・B子 「あらゆる意味で『逆』」って、どういうこと?
ライター・保田 『女優の娘』は、母がポルノ出身女優として一世を風靡した赤井霧子であることを隠して、アイドルグループに所属していた娘・斉藤いとの物語。母が死んだことで、自身が「ポルノ女優の娘」だと報道され、一気に注目を集めてしまうんだよね。この母が、お酒に飲まれすぎる女性で、でも、明るくふざけることが大好きで……『室蘭〜』の弘史さんと通じるところがあると思って。
編集・B子 なるほど。確かに『室蘭〜』は父と息子の話だったけど、『女優の娘』は母と娘の話なので「逆」だね。一方で、いとがアイドルだという点は、ほっくんにも重なりそう。
ライター・保田 アイドルとしてのいとは、毎月「人気投票」でランク付けされていて、そこから生まれるドラマを、「ドキュメンタリー」としてファンに消費されている。そんな彼女が、自分の父かもしれない映画監督と共に、母のドキュメンタリー製作に関わることで、それまで避けていた「ポルノ女優であり母である赤井霧子」と、自分の関係性を見つめ直すことになる――というストーリー。
編集・B子 歌やダンスだけじゃなく、個人のバックグラウンドまでもが「ドキュメンタリー」として消費されていくなんて、現実のアイドルと同じじゃん! ジャニーズに「人気投票」はないけど、CDの売り上げやYouTubeの再生回数など、最近は特に“数字”が人気の基準みたいになっているから、他人事とは思えないわ。
ライター・保田 女性アイドルと男性アイドルとのグループ交流シーンは、「現実も似たようなものだろうな……」と思わせるリアルな描写で。私やB子のようにアイドル大好きな人が読むと、身を切られるような楽しみが味わえるかも(笑)。
編集・B子 ちょっと待って? そんな作品を現役ジャニーズに勧めて、本当に大丈夫なの!?
ライター・保田 エッセイとフィクションという点で簡単に比較するべきではないけど、『室蘭〜』と『女優の娘』は、「父と息子/母と娘」「地方/都会」「昭和/平成(令和)」など、さまざまな構成要素が点対称を成している作品だと思うだよね。だから、読み比べることで、『室蘭〜』の新たな面も見つけることもできそうだなと。
編集・B子 なるほど、「書籍のシンメ」みたいな感じ! 一緒に読むことでそれぞれの面白さが引き立つだけでなく、理解も深まりそうだね。
ライター・保田 生き方を含めて商品化されてしまうアイドルという職業のヒリヒリした葛藤、それでもやめられないステージの魔力、そして、アイドル仲間との友情が描かれた爽快な青春小説という面も併せ持った作品だから、芸能界に身を置く松村さんの心にも、響くものがあるかなと思うよ。
編集・B子 アイドルを描いたフィクションを、アイドル自身が読んだらどんな感想を持つのか……かなり気になる。あんまりいとに共感されすぎても、ファンとしては複雑な気持ちになりそうだけどさ。
ライター・保田 私たちは、“アイドルのキラキラした部分”しか見てないからね。裏側まで描かれてる作品を「面白い!」と絶賛されたら、確かにちょっと反応に困るな(笑)。
編集・B子 だからこそ、ほっくんに『女優の娘』の書評を書いてほしいかも。2019年から雑誌「東海ウォーカー」(KADOKAWA)でコラムを連載してるぐらい文章がうまいから、きっとファンに刺さりまくる名文が生まれるはず!
ライター・保田 ちなみに、“ダメ男だけど憎み切れない”を極端な形で戯画化した西村賢太さんの作品群や、弘史さんや祖父の定吉さんが生きた当時の室蘭の時代背景がわかる漫画『親なるもの 断崖』(小学館)もおすすめ。どれか松村さんが気に入ってくれるといいな〜。
『北海道室蘭市本町一丁目四十六番地』(著:安田 顕/幻冬舎)
父ヒロシには、右手の親指がない。若い頃、鉄を延ばす機械でマンガみたいに広げちゃったから。笑わせてばかりの父に、昔話をせがむと――。兄が生まれた時、大喜びして母に菊の花束を贈ったこと。初めて買ったステーキ肉を緊張した母が黒焦げにしたこと……。貧乏だったが、いつも笑顔と幸せがあった。俳優・安田顕の感性が光る、家族愛エッセイ。
『女優の娘』(著:吉川トリコ/ポプラ社)
アイドルグループ「YO!YO!ファーム」の一期生・斉藤いとに届いた、突然の母親の訃報。現役アイドルの母親が一世を風靡したポルノ女優・赤井霧子だった、というニュースは瞬く間に広がり、いとは一躍時の人になる。そんな中、著名な映画監督から、霧子の半生を追うドキュメンタリー映画の案内人に指名されて――。「マリー・アントワネットの日記」シリーズで全女性の共感をさらった著者が、世界の不条理とたたかうすべての人に贈る、真摯な希望の物語。