今年3月、サンドラ・ブロック(57)が「引退するつもりはないけれど、今はカメラではなく(11歳と8歳の)子どもたちを見ていたい」と女優業からしばらく離れることを発表した。
4月には、ジム・キャリー(60)が「もうおなかいっぱい。十分やったし、もう(自分は頑張らなくてもこのままで)いいんです」と発言。よほど運命を感じる脚本に出会わない限りは俳優としての仕事はしない、と事実上の引退を発表した。
2人は納得してハリウッドから離れた形だが、業界にはびこる女性蔑視、セクハラ、男女不平等に嫌気が差して去っていった女優は実に多い。人気女優でも40歳を超えると出演オファーがガクンと減るのは有名な話で、ハリウッドから突き放される形でスクリーンから離れていった女優も少なくないのだ。
今回はそんな業界の体質に幻滅したり、納得できないままハリウッドを離れていった4人の女優たちを紹介しよう。
デブラ・ウィンガー(66)、「1時間半前から鏡の前でメイクするのは不自然」
『愛と青春の旅だち』(1982)『愛と追憶の日々』(83)『永遠の愛に生きて』(93)で3度もアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた演技派女優のデブラ。
セックスシーンは演じないというモットーだったが、リチャード・ギア主演の『愛と青春の旅だち』に出演する際、セックスシーンに関する取り決めが記載されていない契約書にサインしたため演じなければならなくなったり、撮影期間中に「顔がパンパンだから」という理由でダイエットピルを飲むよう手渡されることがあったそうで、次第にハリウッドの”システム”に強い嫌悪感を抱くようになっていったという。
熱血女優でもあった彼女は、監督や脚本家に対して自分の意見を主張し台本を書き換えさせたり、共演者と衝突することが多く「扱いにくい女優」だと問題児扱いされていた。このことについてデブラは、「もし私が男性だったら、自分の意見を発言する素晴らしい人、完璧主義者と褒められたはず」と憤りをあらわにしている。
40歳だった95年、マーロン・ブランドやジョニー・デップと撮影していた映画『Divine Rapture』が、制作途中財政難に見舞われ中断。ギャラも未払いとなり、これを機に引退を決意した。
引退から7年後、デブラは英紙「ガーディアン」のインタビューに応じ、「この上ない解放感だわ」「もうオーディションを受けたり、電話が鳴るのを待たなくていい、他人の批評に頼らなくてもいい。好きなことをしていい。好きなところに行き、好きなことを言える」「私は幸せになるためにたくさんのお金が必要だとは思わないし」と心情を吐露。
「40歳になるとハリウッドで仕事をすることは難しくなる」「女優は撮影時間の1時間半前から鏡の前に座りメイクとヘアセットをしなければならない。本当に不自然なことだと思う」と、女優の外見を重視する業界の体質を批判した。
その一方で、「ハリウッドの同世代や少し上の世代の女性たちを見ていると、問題を作っているのはあなたたちじゃない、と感じることが多い」「自分の年齢を受け入れられず、若く見えるように顔や体に手を加える。そして、実年齢より若い役を演じることにプレッシャーを感じてる」「手術で10歳若返ろうとすることに価値は感じられない。大きな代償を払うことになるから」とも発言。ハリウッドを変えるには女優の意識改革も必要なのだと声を上げた。
「自分のタイミングで自分らしい方法でカムバックするかも」と語っていたデブラは、2001年、再婚相手のアーリス・ハワードが監督した『Big Bad Love』で女優業にカムバック。ここ数年はテレビドラマで活躍している。
ヒット作『トップガン』(86)に出演したことで注目を集め、『恋人たちの予感』(89)など恋愛コメディに出演したことで人気が爆発。「元祖ラブコメの女王」と呼ばれるようになったメグ。
彼女もまた「40歳の壁」にぶち当たった一人だったが、ハリウッドから離れようと思った大きな理由は理不尽なバッシングを受けたことだった。
41歳の時、ヌードになり体当たりで主演したエロティック・スリラー映画『イン・ザ・カット』(2003)に世間は衝撃を受け、メグにふさわしくない役だと批判。本人は「これまで出演した30作のうち、恋愛コメディ映画は7作なのよ」「ヌードになったのはこの作品が初めじゃない」と説明したが、イメージダウンは避けられなかった。
さらに、メグは1991年に結婚したデニス・クエイドと2001年に離婚しているが、破局原因は『プルーフ・オブ・ライフ』(00)で共演したラッセル・クロウとの浮気だとうわさされていた。メディアは『イン・ザ・カット』で演じた役がメグ自身に近いのだろうと面白おかしく書き立て、「とんでもないアバズレ」「ラブコメはもう絶対に無理」と言われるように。
メグは「ニューヨーク・タイムズ」のインタビューで、この時受けたメディアと世間の反応を「悪質」なものだったと回想。「ハリウッドに対する感情はお互い様ってところね。お互いにもう終わり、用なしだって感じたのよ。たぶん」と寂しそうに明かした。
引退時には「燃え尽きた状態だった」「孤独だった」というメグは、年をとるにつれて役を得るのが難しくなり、「暗黙のプレッシャーがあった。見た目についてね」とも発言。どんなに人気がある女優でも、年齢とともに外見が変わるとハリウッドからは求められなくなるという厳しい現実を伝えた。
「私は自分の年齢が好き。今の生活が大好き」とも発言しているが、彼女が美容整形をしていることは明らかで、ここ最近は、外見が激変していることでタブロイドを賑わせることが多い。
世界的な大ヒット作には登場しなくなったとはいえ、女優業から完全に引退したわけでなく、テレビドラマやテレビ映画には出演中。15年には、映画『涙のメッセンジャー 14歳の約束』で監督デビューを果たし、自身も出演している。息子のジャック・クエイドや共演多数の盟友トム・ハンクスも脇役として出演し、話題になった。
インスタグラムでは、更新頻度は少ないが、息子が子どもだった頃に撮影したプライベート写真を投稿するなど息子への応援メッセージを投稿してはファンを喜ばせている。
『ミセス・ダウト』(93)『マチルダ』(96)で知られる90年代の天才子役。いつの間にか表舞台から姿を消した彼女は、ニューヨーク大学に進学し、現在は執筆家、コメディ脚本家として活動している。
マーラは2012年、自身のブログで「監督が満足するまで何度も同じ演技を繰り返すことにうんざりしていた」「オーディションでは人間扱いされず、残酷な言葉を投げられることもあった」と引退した理由を吐露。
16年に出版した自叙伝『Where Am I Now? True Stories of Girlhood and Accidental Fame』では、引退の最大の理由として「自分はハリウッドの美の基準に達していないんだとわかったから、引退した」と激白。
本のプロモーションのため受けた英ITV局のエンタメ番組『Lorraine』のインタビューでは、「ハリウッドはモラルがない世界だとか言われるけど、そんなものなのよ。数字を稼がなくてはならない勝負の世界だから、観客が求めているのは何かを計算しなくてはならないのよね」と前置きした上で、「(だから)ある程度の外見は求められる。”素朴な親友”という役であっても、ある程度の外見でなければならない。成長にするにつれて、私はハリウッドの美しさを持っていないなってわかったの」と説明。
「(子役として)ハリウッドの仕事に疲れていた頃だったけど、(女優として成功するには)自分は無理なんだとわかって傷ついたわ」と表情を曇らせた。
マーラは、女優を続けるのであれば外見を変えなければならないと悩み、一時期は「罪悪感を感じずに顔を整形するために事故に遭いたいな」とまで思い詰めたとのこと。そのため、もう女優は諦めようと決断した時は、「ホッとした。かわいくあること、痩せていることが仕事ではなくなったから。自分の好きなような見た目になれるって思って気が楽になった」そうだ。
17年、セクハラや性暴力被害を告発する#MeToo運動がハリウッドから世界中に広がった際、マーラは女性誌「ELLE」でハリウッドの子役が性的に詐取されていると警鐘を鳴らし話題に。
昨年、米紙「ニューヨーク・タイムズ」に寄稿した記事では、その原因を作っているのはマスコミだと指摘。6歳の頃からインタビューで、「ボーイフレンドはいるの?」と聞かれるのがお決まりで、未成年の子どもなのに、「最もセクシーな俳優は誰だと思う?」とか、「売春婦とカーセックスをして逮捕されたヒュー・グラントについてどう思う?」と聞かれたこともあるという自身の経験を語った。
また、12歳にもなっていない自身の画像が足フェチサイトに掲載されたり、児童ポルノに加工されたエロ画像が掲載されるなど、小児性愛者のターゲットになっていたことを当時から知っており、「恥ずかしくてたまらなかった」ともつづった。
撮影現場ではセクハラなどは一切なかったものの、50歳の男性から愛を告白するラブレターをもらうこともあり、自分は子役であるがために性的に詐取されていると感じ続けていたとのこと。このこともハリウッドから引退する要因になったのだろうと世間に衝撃を与えた。
『ビートルジュース』(88)や『偶然の旅行者』(88)、など、コメディからシリアスまで幅広いジャンルをこなすアカデミー女優のジーナ。下積み時代のブラッド・ピット演じる年下男性と行きずりの恋に落ちるアラフォー女性を演じた『テルマ&ルイーズ』(91)は男性社会への反抗を描いた作品として社会現象を巻き起こした。
そんなジーナはキッパリと引退したわけではない。40歳になると映画オファーが激減したため、映画に出演しなくなったのだ。
「ガーディアン」のインタビューで、ジーナは「女優になりたての頃、、女性が主人公の映画に主演しヒットさせていたメリル・ストリープやジェシカ・ラング、サリー・フィールドを見て、私もそうなるんだ、“最高の役”をもらえるようになるんだ。(この業界は)女性にとってどんどん良くなるんだからって期待に胸を膨らませていた」「でも“最高の役”はめちゃくちゃ不足している状態が現実」だと説明。
実際、彼女は40歳以降銀幕からは遠ざかっており、活動の場をテレビドラマに移さざるを得なくなった。そのテレビドラマの世界も厳しく、49歳の時に主演したテレビドラマ『マダム・プレジデント ~星条旗をまとった女神』でゴールデングローブ賞主演女優賞を獲得したが、作品はシーズン1で打ち切りになっている。
こうしたハリウッドの「熟年女優は用無し」と言わんばかりの性差別的な扱いにジーナは憤りを感じ、大衆文化におけるジェンダーの役割、性差別や格差、ステレオタイプの女性像、男性像をなくしたいと決意。
2004年、「ジーナ・デイヴィス・インスティテュート」という機関を設立し、性差別や格差をなくすよう映画会社に働きかる活動に力を注ぐようになった。
17年にハリウッドで#Me Too運動が巻き起こると、ジーナがコツコツ行ってきた活動が注目されるようになり、19年には「長年ジェンダー格差の撲滅に取り組んできた」功績が讃えられ、アカデミー賞の名誉賞にあたるジーン・ハショルト友愛賞を授賞。
今年1月に受けたポッドキャストのインタビューでは、「主演俳優から、彼の恋愛対象を演じるには私は年をとり過ぎていると言われた。私は彼よりも20歳年下なのに」と暴露。
「とても奇妙なことだけど(ハリウッドでは)これが普通なの」「女優のピークは20、30代。俳優のピークは40、50代」「主演俳優が自分を若く見せたかったり、若者層のウケを狙う時、彼らは共演者を自分よりうんと年下の若い役者で固める。だから、恋愛対象役も若い女優に与えられる。40や50歳代ではキャスティングすらされなくなってくるの。恋愛相手には年をとり過ぎているからね」と、ハリウッドの悪しき実態を語り話題になった。