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『ザ・ノンフィクション』現実を知らなかった40代の息子「ワケあり人生と部屋探し ~無理とは言わない不動産屋~」

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。5月8日の放送は「ワケあり人生と部屋探し ~無理とは言わない不動産屋~」。

あらすじ

 高齢、生活保護受給、精神疾患など、住まいを借りるのが難しい人々の部屋探しを手伝う横浜のアオバ住宅社。会社には看板らしい看板もないが、口コミで客は絶えない。代表の齋藤瞳は1人で会社を切り盛りしている。

 生活保護で暮らす高齢の母親と双極性障害とADHDがある中年の息子の家族は、長年借家の庭付き平屋で過ごしてきたが、家主の都合で引っ越しを余儀なくされる。齋藤も新居を探すものの、生活保護を受給している旨を伝えると、ことごとく断られてしまう。

 息子は聴覚過敏だといい、集合住宅への転居に気乗りしないようで、家探しは難航する。齋藤の進め方に対し、スタッフへ不満も口にしていた息子は、自身で家を探してみるも、不動産会社側に生活保護受給世帯の場合9割は断られ、さらに精神疾患がある場合はほぼ断られる、と厳しい現実を告げられていた。それもあったのか、齋藤が選んだ団地への転居を決める。

 ほかに、2年前に母親を亡くした24歳と15歳の姉妹は生活保護がネックで家探しが難航して齋藤を頼る。亡くなった母親はうつとパニック障害があり、姉がヤングケアラーとして家のことをほぼ任される生活で、姉自身も精神的に参っていたようだ。

 姉妹が入居するアパートでは、隣人の80歳女性が部屋の掃除を手伝っており、姉妹も交流を喜んでいた。齋藤は今回のように入居者同士をつなげたり、入居者たちに清掃の仕事をあっせんしたり、定期的に集まるなど人の輪を作る活動に注力している。

都営住宅は倍率50倍、一方で東京の空き家は81万戸

 『ザ・ノンフィクション』では以前に、住宅探しが困難な人に向け住居を仲介する兵庫の「おせっかい不動産」を取り上げていた。その放送を見たときに、都道府県が提供している公営住宅(都営住宅、県営住宅等。所得に応じ家賃が変わる)になぜ入居しないのだろうかと思ったが、今回調べてみたところ、公営住宅は相当狭き門のようだ。

 アオバ住宅社のある神奈川県の公団住宅の抽選結果を調べてみると、定員割れになっている物件は稀で、ほとんどが5倍以上、数十倍になっている物件もいくつもあった。東京(都営住宅)はさらに過酷で、ある抽選会では平均倍率が49.7倍というありさまだった。

 一方で、住む人のいない空き家は増えつつある。総合情報サイト「プレジデント オンライン」の記事「都市部では廃墟マンションが急増中…問題の背景に横たわる日本人の『新築信仰』という病」によると、東京は「空き家率」こそ低いが、そもそもの住宅の数が多いため、約81万戸の空き家があるという衝撃の数値がある。

 空き家は安全・防犯上問題があるし、人が住まない家は劣化が急激に進んでしまう。ならば、生活に困っている人と空き家がもっとうまくつながればいいのだが、そう簡単にはいかない現状があるのだろう。

 庭付き平屋に長年過ごしていた親子の家探しは、息子のこだわりが強いようで難航していた。しかし、番組後半で息子自身が不動産会社に連絡し、生活保護の受給者かつ精神疾患のある借主だとほぼ紹介できない、という厳しい現実を身をもって知ったことで急展開していったように見えた。

 家探しはよほどの金持ちでない限り、(1)理想の家を思い描く(2)理想と払える家賃のギャップに落胆する(3)理想と家賃をすり合わせる、といった過程を踏む。おそらくこの息子は、家探しが初めてだと思われ、理想と現実のギャップを認識してなかったので、長く迷い続けたのではないだろうか。

 最初から息子自身にも家探しをお願いしていたほうが、早めに「現実はかなり厳しい」ことを知れて、齋藤も半年もかけずに済んだのではないかと思った。齋藤の仕事は苦労が多い割に金銭的なメリットは期待できないことは想像がつくので、せめてストレスをためないでほしい。

『ザ・ノンフィクション』79歳マダムの決断

 さまざまな境遇にある老若男女が出てきた良回だったが、特に印象深かったのが82歳の女性、小川だ。フランスで娘と暮らしていた小川は、娘と折り合いがうまくいかず、3年前にテレビで齋藤の活動を知ったことで、家探しをお願いしたいとエアメールを送る。

 現在は齋藤の用意した横浜の部屋に暮らしながら、齋藤の会社で清掃の仕事を行い、一人暮らしをしている。

 食事のときも背筋がピンと伸びていて、きれいにヘアメイクをした小川は「おばあさん」ではなく「マダム」だった。日本で暮らしていたら、なかなかこんな80代にはなれないだろうと、美の国、大人の国である「フランスの力」を感じた。

 小川が一人暮らす家も、額縁に飾られた絵がそこかしこに並び、一方で生活感を感じさせる日用品は見えるところには置いておらず、美意識の高さをうかがわせるものだった。

 そんな小川の佇まいや暮らしぶりは只者ではないが、何より79歳で暮らしを変えようと思った決断がすごい。その年齢で、一緒に暮らす娘と折り合いがつかない場合は「時々誰かに愚痴を言ったり、ガス抜きをしながらやり過ごす」ことを選ぶ人が多いように思う。もちろん、関係の悪さの程度もあるのだが、やり過ごす以外の選択もあるのだ。小川にはよりよく生きていたいという凛々しさがあって、見ていて背筋が伸びた。

 次週は「NYフェスティバル2022受賞記念 ボクと父ちゃんの記憶」。若年性アルツハイマーの父とその家族の別れを見つめた同作は21年10月に放送され、その後国際メディアコンクール・ニューヨークフェスティバルのドキュメンタリー・普遍的関心部門で銅賞を受賞した。次週は同作と、家族のその後について伝える。