“バカ映画”の巨匠・河崎実監督による映画「タヌキ社長」が5月20日に公開される。森繁久彌の「社長シリーズ」のオマージュでもある昭和感が漂う同作で、ヒロインの坂町房子役で主演を務めるのがシンガー・ソングライターの町あかり。
昭和の歌謡曲のエッセンスを取り入れた楽曲が人気の彼女は『町あかり昭和歌謡曲ガイド』(青土社)『町あかりの「男はつらいよ」全作品ガイド』(青土社)などの著書を出版するほどの昭和マニアでもある。そんな彼女が「寅さんを超える理想の男性」と絶賛するタヌキ社長とは? 平成生まれの女子もハマってしまう昭和カルチャーの魅力とは何か? を聞いた。
――主演映画「タヌキ社長」が公開されます。どんな作品ですか?
町あかり氏(以下、町) 日本酒メーカーの社長に恋する女子社員の愛の行方と、ライバル会社の陰謀を描いた喜劇作品です。河崎実監督が自身でもおっしゃっていましたが、“おバカ”じゃなくて“バカ映画”です(笑)。
まず、社長がタヌキなんです。タヌキの着ぐるみなんですよ。もふもふで、股間のアレがブラブラ(笑)。河崎監督は「もうちょっと揺らして!」と大真面目に撮っていましたけど、すごくかわいいんです。信楽焼のタヌキの置物にもアレはくっついているし、あまり違和感はなかったんですよね。私、麻痺しているのかな(笑)。
――町さんは劇中で歌も披露されていますし、共演のお笑いコンビ・レインボーさん、ショウショウさんのネタも満載です。
町 劇中では、私が作詞・作曲した挿入歌の「Am I a bit strange?」とエンディングテーマ「ポンポコポン(お月様の下で)」をほぼフル尺で気持ちよく歌わせていただきました。同僚社員役のレインボーさんのやりとりはコントそのものですし、部長役のショウショウさんによるオフィスでのシーンは昭和感あふれる漫才がたっぷり見られます。撮影現場ではずっと笑いっぱなしでした(笑)。
その他にも吉田照美さん、モト冬樹さん、掟ポルシェさんなど俳優が本業ではない方たちが多く出演されていて、皆さんの芸と才能が詰まった映画になっているのも今作の魅力のひとつだと思います。
――そして、今作は町さんの記念すべき初主演作でもあります。
町 そうなんです! タヌキ社長に恋するヒロインの坂町房子役をやらせていただきました。私は『男はつらいよ』が大好きなので、「マドンナってことでしょ!」って、すごくワクワクしました。
実はちゃんとしたセリフがある役自体が初めてで、お芝居はめちゃくちゃ緊張したのですが、河崎監督は「大丈夫。なぜか歌っている人はできるんだよね。よろしく!」みたいな感じで(笑)。だからヘタにうまく演じようと思わず、普段の私のままでいいんだろうなって信じて演じました。
寅さんに登場する多くのマドンナと同じように、房子も一途な想いを秘めてコツコツ頑張っている女性なんですよね。私もそうありたいし、そういう女性に憧れがあったので、すごくうれしかったですね。
――今作は昭和の香りが漂っていますが、町さんは昭和歌謡曲と『男はつらいよ』マニアとしても知られています。昭和にハマったきっかけは?
町 私は平成生まれですが、中学生の時にテレビで「昭和歌謡曲特集」みたいな番組を見て、すごく面白いな、楽しいなって感じたことがきっかけです。そこからネットで昭和のことをいろいろ調べるようになって、キャンディーズの伊藤蘭さんが『男はつらいよ 寅次郎かもめ歌』(1980年)でマドンナ役をやられていることを知って、『男はつらいよ』シリーズをDVDや動画配信サービスで見るようになってハマっていった感じです。後追い世代なんですよ。
――町さんにとって昭和の魅力って何ですか?
町 語り始めたら止まらないですけど、いいですか? 昭和のカルチャーって、どれも「何コレ?」ばかりで新鮮なんですよ。例えば、歌謡曲はヒットしたら子どもからお年寄りまでみんな知っているし、歌える。それがすごいセクシーで大人なテーマの曲だったとしても。
金井克子さんの「他人の関係」という歌には「今夜くすぐるような指で ほくろの数も一から数え直して」という歌詞がありますが、それを子どもまで歌っちゃう(笑)。たしか『ちびまる子ちゃん』(集英社)でも、まるちゃんがお父さんとお風呂に入りながら「あなたのために守り通した女の操 今さら他人に捧げられないわ」という殿様キングスさんの「涙の操」を歌っているシーンがあったと思うのですが、子どもはなんとなくタブーな感じはわかっているんだけど、戸惑う大人を面白がって歌っちゃうみたいな。今では考えられないほど、ボーダーレスなんです(笑)。
――『男はつらいよ』の魅力は、女性から見てどんなところにありますか?
町 『男はつらいよ』も何も知らない女性がタイトルを聞くと、「ヤクザ映画かな?」「男を慰めるような、男が見て気持ちがいい映画なのかな?」って思うかもしれないけど、実は女の人が幸せになる映画なんですよね。マドンナたちは恋愛や結婚、仕事の大きな悩みを抱えていて、それを寅さんや柴又の人たちが支えてあげて、問題を解決したマドンナが幸せになると共に、最終的に寅さんがフラれてしまうという。
寅さんはいつまでたっても全く幸せになれないんですけどね(笑)。中には受験や就職に苦労する10代の中高生も登場しますし、マドンナたちの悩みに現代の働き盛りの若い女性は絶対に共感できるはずです。昭和のカルチャーって知れば知るほど面白いんですよ!
――ちなみに、寅さんとタヌキ社長はどちらが理想の男性ですか?
町 絶対にタヌキ社長ですね! だって寅さんは安定した職業じゃないし、わがままだし、他人に迷惑をかけるし、問題ありすぎ(笑)。それに比べて、タヌキ社長は日本酒への熱意を持ってコツコツ仕事をするし、人柄が良くって部下にも慕われていてるし、寅さんとは真逆です。しかも、経営者ですから経済力がありますしね(笑)。房子が恋焦がれる気持ちはすごくわかります。寅さんも魅力的ではあるんですけど、個人的には断然タヌキ社長です。
――最後に「タヌキ社長」の見どころを改めてお願いします。
町 ひと言で言うと、本当にアホなバカ映画です(笑)。でも、勧善懲悪のストーリーで本当に素敵な物語です。きっと皆さんはこのコロナ禍の2年間、自分の人生や世の中のことを一生懸命に考え続けてきたと思います。もう、ここら辺で真面目に考えるのを一旦休憩して、自分を甘やかして嫌なことを忘れる時間も大事だと思うんです。この「タヌキ社長」は何も考えずに、ただ「あはは!」と笑うにはぴったりの作品です。ぜひ映画館に足を運んでご覧いただければと思います!
(構成=中野龍/フリーランスライター)
『タヌキ社長』
2022年5月20日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ他 全国ロードショー
監督:河崎実
キャスト:町あかり、関智一(タヌキ社長の声)、ジャンボたかお(レインボー)、池田直人(レインボー)、モト冬樹、吉田照美 ほか
製作:有限会社リバートップ
主題歌:ぼんぼん花―――火
キャラクターデザイン:森野達弥
配給:TOCANA