縁結び神社などがパワースポットとして注目を集める中、一方で相反する存在として忘れてはならないのが「縁切り神社」。良縁を祈願するのが縁結び神社ですが、縁切り神社は人間関係の悪縁を断ち切るパワースポットなんだとか。
男女間のこじれた恋愛や、泥沼の不倫関係、DV、モラハラなどの悩みの解消を願う人や、職場の苦手な上司や部下との関係から開放されたいと願う人は、まさにうってつけのスポットと言えます。
そんな縁切り神社は全国にいくつかあるものの、実は軽い気持ちで参拝するのは危険なケースもあるようだ。有名なパワースポットだから、と観光気分で立ち寄ると、黒い思いに飲み込まれてしまうこともあるとか……。
そこで、パワースポットの書籍などを手がけ、神社仏閣の知識も豊富な某氏に素人が行ってはいけない縁切り神社について話を聞いた。
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(初出:2017年10月28日)
パワースポットの書籍などを手がけ、神社仏閣の知識も豊富なA氏から、素人が行くのは危険な神社を教えてもらうシリーズ第3回。第1回は歴史上の戦場となった神社、第2回は「祟り神」を祀る神社を紹介したが、第3回は、縁切り神社について話してもらおう。
神社といえば縁結びを願いに参拝する人が多いだろうが、世の中には不本意ながら、付き合っている相手ときっぱり別れたいと願う人もいる。例えば会社の上司や先輩。気の合わない身近な先輩につらく当たられ、「転勤や部署替えで遠くへ行ってくれないかな」と願った経験はないだろうか。そんな場合は、縁切り神社にお参りすれば、願いが叶うという。しかし、そうした祈願ばかりではない。不倫の相手が奥さんやご主人と別れるように祈る参拝者もいるのだ。
こうした神社の中には、最近では観光地扱いをされている神社もある。黒い思いが渦巻いているとは知らずに、「パワースポットだから」「せっかくだから」と参拝するのは注意した方がいいだろう。
危険な縁切り神社:安井金比羅宮 【危険度★★★★☆】
昔、花街があった近辺には、縁切りの神社が鎮座することが多いようだ。特に有名なのは、京都は祇園のはずれにある安井金比羅宮だろう。この神社のご祭神は、祟り神としても知られる崇徳天皇。崇徳天皇は、江戸時代の怪談集『雨月物語』でも、天下に大乱を起こそうと企む怨霊として登場するほど、恐れられた神様だ。
それだからか、縁切りの霊験あらたかな神社として、多くの参拝者を集めてきた。境内には、周囲に白い紙がびっしり貼りつけられた、穴の開いた石が鎮座しているが、これが「縁切り縁結び碑(いし)」。
まず本殿に参拝して縁を切りたいものとの縁切りを祈り、その後、社務所で「形代(かたしろ)」をいただいて、願い事を書き込む。そしてその形代を手に持って、祈りながら、碑の穴を表から裏にくぐれば、縁切りが叶えられるという。
次に裏から表にくぐりなおすと、新たな良縁を結ぶことになり、最後に形代を碑に貼りつける。縁切りの対象は人だけではない。「酒を断ちたい」「たばこをやめたい」などの願い事を持って訪れる人も多いとか。
なかなか結婚の決断をしない恋人とスッパリ別れたいと、この神社に参拝したBさんは、碑をくぐる際、何気なく1枚の札に目が留まった。そこには「シャブとの縁を切りたい」と書かれており、「怨霊より恐ろしい」とゾッとしたとか。その後、見事に恋人との縁は切れたという。
大阪城の近く。通称「真田丸」があったとされる場所にあるのが、円珠庵(鎌八幡)。神社ではなく寺院だ。境内には大きなエノキ(榎)がそびえており、鎌八幡大菩薩を宿しているとして信仰されてきたという。真田幸村公が大阪冬の陣に出発する際、このエノキに鎌を打ち込んで戦勝を祈願したところ、見事に勝利を収めた。そこで幸村は、祠を新しく建立してお礼をしたと伝えられる。
現在でも、境内には御神木のエノキが青々とした葉を茂らせ、鎌も打ち込まれている。この鎌の柄をよく見ると、絵馬のように文字が書き込まれているのに気づくだろう。縁を切りたい人が、柄に縁を切りたい対象を書き、打ち込んだのだ。
何本もの鎌が刺さったご神木は、なんともおどろおどろしい印象だが、この寺院では、鎌や絵馬をジロジロ見るのは禁止。興味本位で写真撮影をすれば、住職にカメラを没収されてしまうので、そういった意味でも非常に怖い寺院だといえるだろう。
修験者のC氏はこのルールを知らず、悪気なくぼんやりと絵馬を眺めていたところ、笑顔の住職に「あまり見ないでくださいね」と、穏やかに声をかけられたそうだ。「表情は笑っているんですが、反論を許さない気迫がありました。修験者として、あの住職の胆力は本当に怖いと感じましたよ」と語っていた。
丑の刻参りは、藁人形に五寸釘を打ち込むことで憎い相手を呪い殺すもので、源氏と平家の戦いを描いた『源平盛衰記』に、その起源が書かれている。
嫉妬に狂った女性が、「憎い恋敵をとり殺したい」と貴船神社に参ったところ、「鬼の姿になって、宇治川に浸かれ」と神託があった。そこで、髪の毛を五つに分けて角のように立て、顔と体を真っ赤に塗り、鉄輪(火鉢に置き、ヤカンなどを乗せる三本脚の台。五つの突起がある)を逆さにして頭にかぶり、その三本の脚の先に蝋燭を立てて、口には松明を咥えて宇治川に21日間浸かったところ、鬼となって、憎い相手を呪い殺すことができたという。
この女性こそが、宇治の橋姫だ。その橋姫を祀るのが、宇治市にある橋姫神社。この神社も縁切り神社として名高い。
そもそもは、宇治川の流れに悪い縁を流してもらおうという信仰があったというが、丑の刻参りを連想する人も多いらしく、絵馬には「片思いの相手が恋人と別れますように」といった、怨念を感じずにはいられない願い事も散見される。
宇治市内に暮らすDさんは、この神社の評判を耳にして立ち寄った。「別に願い事があったわけではなく、絵馬を読むつもりなどありませんでした。でも、なぜだか1枚の絵馬から目が離せなくなったんです」。その絵馬の願主の欄には、会社の同僚の名があったという。そして、その願い事は「息子が憎い嫁と一日も早く別れてくれますように」。
「その同僚は、いつもニコニコ穏やかで、人の悪口を言うこともないような人なんです。だからこそ、よけいに怖くて……」
縁切り神社では、思わぬ人の本性に触れてしまうかもしれない。それは幽霊に遭うよりもずっと、恐ろしい体験だろう。縁切り神社を訪れる際は、心して参拝しよう。