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織田裕二、『踊る大捜査線』随一の名場面で見せた魅力――シリアスとコメディを同時にこなす姿に期待すること

――ドラマにはいつも時代と生きる“俳優”がいる。『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『テレビドラマクロニクル1990→2020』(PLANETS)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、“俳優”にスポットを当てて90年代の名作ドラマをレビューする。

 1997年に放送された刑事ドラマ『踊る大捜査線』(フジテレビ系、以下『踊る』)は、織田裕二演じる、脱サラして警察官になった主人公・青島俊作が、お台場の湾岸署に配属される場面から始まる。

 署に到着すると殺人事件が起こり、青島は現場へ向かう。しかし、捜査を仕切っているのは本庁のエリート刑事たちで、所轄の青島は雑用ばかり任され、自由に捜査をさせてもらえない――といった展開が繰り広げられる。

 同作は、ケレン味のある映像や音楽の使い方、細かい設定や小ネタが無数に散りばめられていて、何度も見返したくなる情報量の多さが特徴だ。これは、90年代にテレビ東京系ほかで放送された『新世紀エヴァンゲリオン』などのロボットアニメの魅力を積極的に取り入れたものとなっていた。

 また、湾岸署を舞台に複数のエピソードが同時に進行していき、その様子を同時に追いかけていくカメラワークは、海外ドラマ『ER緊急救命室』の影響が強くうかがえた。

 その結果、『踊る』は実写とアニメの魅力を兼ね備えたドラマとしても人気作になったといえるが、一番の肝は「正義のヒーロー」ではなく、組織のしがらみの中で翻弄される公務員として警察官を描いたことにあるだろう。

 劇場映画第1作『踊る大捜査線THE MOVIE』(98年)に登場した青島の台詞「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!」に象徴される、会議室(本庁)と現場(所轄)の対立こそが、本作が描こうとしたテーマなのだ。

 もともと、コンピューター会社の営業マンだった青島は、会社組織にうんざりして警察官になった。しかし、正義感が強く被害者救済を第一に考える青島のやり方は、規律を第一にする警察組織とは相性が悪く、いつも衝突してしまう。

 劇中では、本庁は「本店」、所轄署は「支店」と呼ばれる。本店から来た警察官僚にゴマをする署長たちの姿を見て、青島は“サラリーマンみたいだ”と失望するが、皮肉なことに、サラリーマン時代に培った営業力こそが、青島にとって最大の武器となっていく。

 そんな青島を演じた織田は、87年に公開された映画『湘南爆走族』で俳優デビュー。その後、『十九歳』(89年、NHK)や『予備校ブギ』(90年、TBS系)といった若者向け青春ドラマに出演する。思春期のいら立ちを抱える不良に見えるが、人懐っこい愛嬌もある青年という二枚目半のキャラクターが受けて、主演作が増えていった。

 そして、91年に主演を務めた恋愛ドラマ『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)が大ヒットし、織田は俳優として本格的にブレーク。本作で演じた永尾完治は、ヒロインの赤名リカ(鈴木保奈美)に翻弄される優柔不断な青年で、等身大の普通の若者を演じられることも織田の魅力だった。

 その後は、医療ドラマ『振り返れば奴がいる』(93年、同)の傲慢な天才医師・司馬江太郎や、リーガルドラマ『正義は勝つ』(95年、同)で勝つためなら手段を選ばない弁護士・高岡淳平といったダーティーヒーローを演じる。一方、コメディドラマ『お金がない!』(94年、同)では、借金を返済して兄弟を守るために外資系保険会社で働く青年・萩原健太郎を好演。

 シリアスもコメディもこなし、二枚目半の普通の好青年も演じられるというのが、デビュー時から続く織田の魅力だが、『踊る』の青島には、これまで演じてきた全てのキャラクターの要素が込められていた。

 織田の魅力を語る上で欠かせないのは、『踊る』の第6話だ。

 麻薬密売の捜査をする過程で青島は、父親を殺害された過去を持つ柏木雪乃(水野美紀)と再会する。事件のショックで一時、口が聞けなくなった雪乃を青島は懸命にケアしていたが、ロサンゼルス留学時代の雪乃の元恋人・岩瀬修(布川敏和)が麻薬の売人だったため、彼女も関係者だと疑われて、任意同行させられる。取り調べで雪乃は、麻薬の売買とは無関係だと主張するが、警視庁から来た刑事たちに連れていかれそうになってしまう。

 そこで青島の表情は豹変し「柏木雪乃!」「やっぱ、お前、そういう女だったんだ」「ヤク中なんだろ、お前」といったひどい言葉を投げつける。怒った雪乃は青島をビンタ。気まずい沈黙が流れた後、青島は笑って「みなさん、見ましたね?」「職務質問中に暴行を受けました。公務執行妨害で君を逮捕する」と言って、雪乃を逮捕したのだ。

 青島が先に雪乃を逮捕してしまえば、起訴するまでの48時間は湾岸署で勾留でき、本庁が手を出すことはできない。その後、青島は48時間以内に岩瀬を逮捕しようと奔走するのだが、ルールに縛られていた青島がルールを逆手に取り、自分にとっての正義を貫こうとした『踊る』随一の名場面である。

 また、突然、雪乃を罵倒する青島の表情の変化は実に見事で、シリアスとコメディを同時にこなす織田にしかできない芝居だった。

 続く第7話。岩瀬とつながりのある女性の職場を知った青島は、営業マンの振りをしてその女性に会いに行く。偽名と嘘の商談目的を理由にしてスルスルと社内に入り、社員から女性の素行を聞き出していくさまは実に軽妙で、刑事というよりは詐欺師のようだであった。この6~7話で、青島のキャラクターは完成したといえるだろう。

 違法スレスレの捜査を飄々と行う一方で、事件の被害者に優しく寄り添う親しみやすさがあり、自分なりの正義を貫こうとする青島は、正義のヒーローでなくても、新しい時代のヒーローだったのだ。

 また、『踊る』はアニメやインターネットといった、当時はまだ社会の偏見が強かったオタク的なものを、当たり前の文化として受け止めている姿も印象的だ。当時視聴していて、自分と地続きの世界を生きている青年が、テレビの中にいると感じられた。この地続き感があったからこそ、『踊る』と織田は多くの視聴者に受け入れられたのだろう。

 現在、織田は54歳。近年はエリート弁護士を演じた『SUITS/スーツ』(2018年&20年、フジテレビ系)や、銀行の頭取を演じた『監査役 野崎修平』(20年、WOWOW)といった社会的立場の高いシリアスな役が続いており、青島のような親しみやすいキャラクターを演じる機会はなくなっている。昔と同じものを求めるつもりはないが、今の織田だからこそできる新しい庶民派ヒーローを、いつか演じてほしいものである。
(成馬零一)