覚醒剤の使用や密売などで逮捕起訴され、通算12年を塀の中で過ごした後、その経験を基にさまざまな活動を続ける中野瑠美さんが、女子刑務所の実態を語る「知られざる女子刑務所ライフ」シリーズ。
115年ぶりの刑法改正
おかげさまで、懲役太郎さんとの対談も好調です。
3回目の時に、「刑法改正」のお話が出ました。刑法……。超久々に聞きましたが、今までの「懲役刑」と「禁錮刑」がなくなり、「拘禁刑」というのができるそうです。なんと明治40(1907)年から115年ぶりの改正なんですね。
前にも書いてますが、「懲役」とは、「刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる」(刑法第12条の2)ことです。
この「所定の作業」が「刑務作業」なんですが、映画やテレビドラマで見るようなズラッと並んで工場で何かを作るだけやなくて、チョーエキ(受刑者)の食事を作ったり、洗濯をしたり、掃除をしたりすることもあります。拘置所に移されて、未決勾留者さんたちの食事づくりや洗濯、掃除をすることもあります。
禁錮刑は、この「所定の作業」がない刑で、ひたすらぼんやりしてもいいらしいですが、そんな人は見たことなかったし、実際にほとんどいなかったようで、今回の改正でなくなるんですね。
まあ前から関係者(笑)の間では、「チョーエキ(懲役刑)はめちゃ意味ない。獄中(なか)では『次はバレないようにやろう』としか思わない」と言われてました。
懲役は法律で決まっていない
そもそも懲役の意味(目的)って何なのか、編集者さんに聞いたら、調べてくれました。なんと「法律では決まっていない」そうです。日弁連の公式サイトには「その人が再び罪を犯すことのないように教育する目的」(教育刑)と、「犯罪に対してその責任に見合った苦痛を与える」(応報刑)の2つの考え方が書いてありました。「法律」ではなく、あくまでも「考え方」なんですね。
少年院とかは、まさに「教育刑」のための施設ですね。二度とやらかさないように、めちゃくちゃ厳しく指導するんです。おかげさまでウチの息子も軌道修正できました(笑)。
でも少子化で、少年院もどんどん減ってますね。懲役太郎さんによると、今は少年1人に対して先生(法務教官といいます)が2人ついている施設もあるそうです。
「応報刑」とは、いわゆる「目には目を歯には歯を」ちゅうやつです。今のムショは100パーセントそれです。やらかしたことに対して、万引なら何年、覚醒剤なら何年、人を殺したら死刑とか、ですね。
少年院はとにかく罪に向き合わせて、ビシビシといろいろ考えさせるんですが、ムショでは何も考えずに言われたことだけをします。食事や医療の不満とかイジメとかあるから、反省なんかしません。ひたすら時間が過ぎるのを待つだけですから、更生はムリですよ。今は、犯罪そのものは減ってるそうですが、2020年の再犯率は過去最高やそうで、それはムショでは反省できないからでしょう。
今回の「拘禁刑」の目的は、ちゃんと「改善更生」と決められているそうで、刑務作業やなくて「更生のための改善プログラム」を選ぶこともできるんですね。
まあ今までも「どうやってクスリ(違法薬物)から脱出するか」「性犯罪をなくす」みたいなミーティングとかはあったんですが、これからは工場に出ないでプログラムをひたすら受けられるコースとか、学生さんの勉強や高齢者の福祉支援とかのコースもできるそうです。
新しい制度がスタートするまでまだ3年くらいかかるらしいですし、従来のプログラムを受けても痴漢は減らないみたいですけど、これからは更生を期待できるかもしれませんね。
懲役太郎さんは、「これから俺は『拘禁太郎』です」とオチをつけてくれました(笑)。この3回目対談は、クスリをやめることについても盛り上がったので、そのお話もまた。