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『上田と女が吠える夜』馬場ももこの女子アナ妬みトークが「ヘタクソ」だと思ったワケ

羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。

<今週の有名人>
「身の丈に合わない」馬場ももこ
『上田と女が吠える夜』(日本テレビ系、5月25日)

 先月、BPO(放送倫理・番組向上機構)が「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティ」に関しての見解を発表した。一部を抜粋すると、以下の通りだ。

「『他人の心身の痛みを嘲笑する』演出が、それを視聴する青少年の共感性の発達や人間観に望ましくない影響を与える可能性があることが、最新の脳科学的及び心理学的見地から指摘されていることも事実であり、公共性を有するテレビの制作者は、かかる観点にも配慮しながら番組を作り上げていくことが求められている」

 BPOは検閲機関ではないが、影響力があることも事実である。その昔、『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)に「全落・水落オープン」なるコーナーがあった。番組側が落とし穴を掘り、何も知らないゲストをそこまで誘導し、落とし穴に落ちる様子を笑うという内容だったが、今後はああいう企画を見ることはなくなるのではないか。

 テレビはコンプライアンスを強化しているし、視聴者のハラスメントに対する視線も厳しくなっている。こうなると、タレント自身も、「人を笑う」方向から、「自分を笑う」方向にシフトするのではないだろうか。

 すでにその傾向は始まっていて、その先駆けは、バイオリニスト・高嶋ちさ子だと思う。彼女がバラエティに進出した際のウリは、主に「キレやすい」「肉が大好きで野菜を食べない」「異常なせっかち」というキャラクターだった。「キレやすい」というキャラは、キレた相手のリアクションも含め、「人を笑う」タイプのエピソードが生まれがちであり、またパワハラに該当する可能性もあるからか、近頃は引っ込めたように見える。一方「肉が大好きで野菜を食べない」「異常なせっかち」というのは、「自分を笑う」に適したキャラだろう。これにより高嶋は、人を傷つけずに笑いを生みだすことができている。

 「異常なせっかち」を例に挙げよう。高嶋は、焼肉屋に向かっている際、道を歩きながら注文をし、店に着いたと同時に食事ができるようにしておくとか、箸を口から抜くのを待てずに咀嚼して、箸を折ってしまったとか、自分の体が完全に車内に入っていないのに車のドアを閉めるため、青あざが絶えないなどのエピソードを持っているが、これらはすべて「自分を笑う」ものであり、誰も傷つけない笑いになっている。

 さらに、彼女が全国各地でコンサートを開催するバイオリニストで、2人のお子さんがいるお母さんであることから、「そんなにせっかちなのは、バイオリンの練習と子育てのため」という、これまた誰も傷つけない“いい話”に変えることもできる。

 しかし、長年、主に女性タレントや新人の芸人などを対象に、「人を笑う」ことをしてきた芸能人が、人を傷つけないで「自分を笑う」方向にシフトするのは、そう簡単なことではない。加えて芸能人として、制作側や視聴者からオリジナルなネタを求められることを考えると、さらに難易度は上がりそうだ。

 これはこれで難しいだろうと思ってみていたら、いいネタを持っている人を発見した。フリーアナウンサーの馬場ももこである。テレビ金沢に勤務していた馬場だが、『金曜ロードSHOW!・特別エンターテインメント 全国好きな嫌いなアナウンサー大賞2017』(日本テレビ系)に出演した際、ぶっちゃけキャラで注目を集める。そこから『行列のできる法律相談所』や『踊る!さんま御殿!!』(いずれも同)に出演するなど“出世”。現在はフリーとなり、活動の場を東京に移したそうだ。

 5月25日放送の『上田と女が吠える夜』(同)に出演した馬場。彼女には「テレビ局50社受けて落ちた」という、人を傷つけないで「自分を笑う」、しかも人とかぶることはまずないオリジナルなネタがある。同番組は、彼女にとって大チャンス……のはずだったが、思ったほど笑いが取れていなかったように私には感じられた。

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 というのも馬場はこのエピソードに合わせて、「いや、本当たまたま、本当たまたま(女子アナ試験に)受かった」と口にする女子アナが「妬ましい」といった発言をしていたのだ。おそらく実話なのだろうが、このネタをチョイスする時点で、ちょっと勉強不足ではなかろうか。

 そもそも、このネタは元TBSアナウンサー・小島慶子が『踊る!さんま御殿!!』などでよく話していて、新鮮味がない。小島はキー局に採用されたが、馬場は50社受けて落ちている。そんな馬場ならではのオリジナルな哀感をもとに「自分を笑う」エピソードがあればいいが、それもなく、単に一方的な妬みだけでなので、印象に残らないのだ。

 また馬場は視聴者だけでなく、番組を制作する側にも「面白い」と思われなくては、次の出演につながらないだろう。「妬み」を武器にするなら、人を傷つけず「自分を笑う」方法を熟考すべきだし、過去に別の誰かが話したネタを二度と口にしてはいけないというルールはないが、もし同じ話をするなら、「自分ならでは」のエピソードで話さないと自分の存在感を示せないのではないか。

 ちなみに同番組に出演していた、元TBSアナウンサーの吉田明世も、「アナウンサーになると妬まざるを得ない」とし、共演者の大久保佳代子から、まだ仕事がそれほどない頃の吉田は、他人を妬みすぎて「肌荒れがひどかった」というエピソードを振られると、「妬んだ数だけ(吹き出物が)出てきた」とオチをつけていた。

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 一般に人を妬むのはよくないこととされている。「人を呪わば穴二つ」ということわざがあるが、人を妬んだ結果、こんなバチが当たりましたと「自分を笑う」ことで、吉田が単なる妬みっぽい人でなく、正直で賢くてユーモアのある人物であることを視聴者に印象づけていると言えるのではないだろうか。

 元キー局の有名アナウンサーがこれだけやっているのだから、地方局出身の馬場は「自分を笑う」方向性で、この上を行くオリジナルエピソードを披露しなくては、視聴者、制作側、双方の記憶に残らないだろう。

 「妬み」ネタは、そもそも「人を笑う」に行きがちなのかもしれない。馬場アナは、「妬み」を今のバラエティ向けにうまく調理できるのか――。しかし同番組を通して見た後、この疑問自体が実は間違っていて、私が馬場という人物を勘違いしているのかもしれないと思うようになった。

 なぜなら、馬場はテレビ局を50社受けたものの、東京と大阪のテレビ局は受けていないといい、その理由を「身の丈に合わない(から)」と明かしていた。推測するに、馬場は「大きなテレビ局は自分には無理そうだから、地方でいいや」と最初から思っていたのだろう。とはいえ、地方のテレビ局も激戦だけに、馬場は50社から不採用となり、しかし、あるテレビ局で内定を得て仕事を始めたところ、そこから全国ネットの番組に出て注目を集め、東京進出も果たしたわけだ。

 そう考えると、馬場は「キー局を全落ち、地方局にも落ち続け、恨みつらみを抱える女子アナ」ではなくて、本当は「地方でいいやと思っていたのに、いつのまにか東京のテレビ局で仕事をするようになった超ラッキーガール」なのではないだろうか。だとすると、妬ましいトークがヘタクソでも不思議はない。なぜなら、妬んでいないからだ。

 テレビの中の馬場を見ている限り、あまり恨みつらみのようなものは感じられない。案外おっとりしているのかもしれないが、彼女に今、ブレークの大きなチャンスが来ていることは確かである。別に「妬み」でなくても、人を傷つけない「自分を笑う」方向の新鮮で面白い話ができればいいわけだから、準備を入念にして、チャンスを生かしてほしいものである。