• Mon. Jul 4th, 2022

いつも明るく笑っていた義母だったが……家計簿に書かれていた“本心”

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

義母の苦しみに気づいてあげられなかった

 林田由佳さん(仮名・43)の義母が、二度目の脳梗塞を起こしたと連絡がきたのは2カ月前のことだった。

「半年前に最初の脳梗塞を起こして、がんばってリハビリをしているところでした。それが2度目の脳梗塞によって、回復が絶望的な状況になってしまいました。もう意思疎通もはかれません」

 医師からは、看取りを視野に入れた施設に移ってはどうかと伝えられた。林田さん夫婦は夫の実家に行き、施設探しや転院の手続きに奔走した。

 義母はもう自宅に戻ることはないという現実に、悲しみをこらえながら必要な書類などを探していたとき、林田さんは義母の家計簿を発見した。義母は元の状態には戻らないという医師の言葉がよみがえり、林田さんは面影を探すようにページをめくった。

「すると随所に走り書きのようなメモがあったんです」

 林田さんの目に飛び込んできたのは、義父に対する憤りや怒りの言葉の数々だった。

「私たちもこれまで夫の実家に行ったときに、何も感じていないわけではありませんでした。義父が義母に対して言葉を荒げたり、バカにするような物言いをしたりすることがあったんです。義母はいつも明るく笑っている人だったので、私たちもさほど深刻にとらえていなかったのですが、おそらく私たちがいないところでは、もっとひどかったのでしょう。義母はずっと義父の言葉に傷つき苦しんでいたんです。義母が倒れたのも、そんなストレスが積み重なったからではないでしょうか。笑顔の裏の苦しみになんで気づいてあげられなかったんだろう……」

 というのも、林田さんも結婚後、夫からモラハラを受けていて、悩みを義母に相談していたのだ。

「実の両親には心配させたくなくて相談できませんでした。義母は私の話を親身になって聞いてくれて、息子である夫より私の味方でいてくれました。無自覚だった夫に私が傷つく言葉を指摘して、根気よく夫の言動を改めさせてくれたんです」

 義母のおかげで、夫のモラハラ的言動は少しずつ減っていった。一時は離婚も考えるほどだった夫婦関係も改善した。

 林田さんは、義父にはもちろん、夫にも義母の家計簿は見せていない。

「見せてしまうと夫のショックが大きくて、義父との関係も悪くなるのではないか、私一人が胸にしまっておけば済むと思ったんです」

 ところが、義母の回復が絶望視され、義母がこれまでの義母ではなくなると、そのことを受け止められないのか、夫に不穏な様子が見られるようになった。

「夫も、義母が死に向かっているのがつらいんだとは思います。以前のような暴言を発することはありませんが、ちょっとしたことで気分を害するようになりました。義母のことで悲しい思いをしているのは私も同じなのに、夫の態度でよりつらくなるし、不安が大きくなるんです。これまでなら義母に相談できていたのに、それももうかないません。義母がいなくなったら、この先どうなってしまうのか」

 義母を苦しめていた義父に対する気持ちも複雑だ。義父は昔の人なので、自分のしたことを反省することはないだろうと諦めている。ただ、義母を苦しめた義父の世話をしようという気にはとてもならない。夫がやればよいと思う。

義母を不幸だと決めつけるのは間違いなんじゃないか

 闇の中にいるようだったある日。つけっぱなしにしていたテレビから、つらい思いを抱えている人に向けた心理士のアドバイスが流れてきて、画面に見入った。それは、「ネガティブな気持ちがあふれそうになったときは、それらの気持ちを紙に書き出して客観的に見るとよい」というものだった。

「それを聞いて、ハッとしたんです。もしかすると、義母もそうやって自分の気持ちを家計簿に吐き出して、つらさを乗り越えようとしていたんじゃないだろうか……。義母はただつらかっただけではない。それを乗り越えようという強い気持ちがあったのではないか。私が義母を不幸だと決めつけるのは間違いなんじゃないかと思いました」

 林田さんは、義母の強さの理由が理解できた気がした。義母の家計簿から、この難局を乗り越える勇気をもらった。

 やっぱり義母にはかなわない――。そう思って、前を向こうと決めた。