気象庁は6月6日に、関東甲信地方が「梅雨入りしたとみられる」と発表。沖縄・奄美地方に続く発表となったが、九州南部より関東甲信越地方の梅雨入りが早かったのは、なんと17年ぶりだという。
毎年やってくる長雨の季節に入り、ネット上には「梅雨は毎日頭痛との戦い」「低気圧で頭が痛いよ〜。薬飲んでなんとか頑張ろう」「頭痛の頻度が高まるから、梅雨は嫌い!」などと、気圧の低下に伴って頭痛を訴える声が続出。同時に、さまざまな“対策法”も投稿されている。
以前、ネット上では「着圧ソックスを穿くと頭痛が和らぐ」という対策法が話題になったが、東京女子医科大学の頭痛外来・清水俊彦医師いわく、医学的に考えると、これは「意味がない」ものなのだとか。
そこで、頭痛が起こるメカニズムから、なぜ着圧ソックスを穿いても意味がないのか、さらに、片頭痛の起こりそうなときに飲むといいドリンクなど、頭痛とその対策について清水医師に解説してもらった記事を、あらためて掲載する。
(編集部)
昨年末より、ネット上で話題の“頭痛対策法”がある。とあるTwitterアカウントが投稿した内容で、要約すると、「低気圧頭痛のときは着圧ソックスを穿くと頭痛が和らぐ」というものだ。この投稿は低気圧頭痛に悩む人々の間で瞬く間に拡散され、半ば事実として受け止められている様子。しかし実際、着圧ソックスを穿くだけで、頭痛が収まるのか? うわさの真偽を、『頭痛は消える。』(ダイヤモンド社)『頭痛女子のトリセツ』(マガジンハウス)など頭痛に関する著書を多数持つ、東京女子医科大学の頭痛外来・清水俊彦医師に見解を聞いた。
医学的に考えて着圧ソックスは意味がない
――気圧が下がると頭が痛くなる、いわゆる“低気圧頭痛”に悩む人の間で、着圧ソックスを穿くと効果的だといわれています。
清水俊彦医師 まずは頭痛が起こる仕組みから話しますね。頭痛は、脳の血管が縮んだあと、膨らむときに発生します。膨らんだ際に三叉神経が圧迫され、頭痛が発生するんです。気圧が低いときは、体全体にかかる圧が弱く、“抑え”が利かない状態なので、脳をはじめ体中の血管が膨らむ。そして膨らんだ血管の隙間からは体液が漏れていき、それがむくみにつながる。つまり、頭痛は脳がむくんでいる状態ともいえます。
そんな状態の中、着圧ソックスを穿いて足のむくみを取ったところで、脳のむくみはとれるのか……。眉唾ですよね。ソックスを穿いたことで足に溜まっていた体液は解消されますが、それはどこへいくのか? 体液は消えませんから、足以外の部位がよりむくむと考えられます。
――足のむくみを取っても、体液の総量に変化がないので意味はないのですね。しかし、この方法が実際に効いたという人もいるのですが……。
清水 ごくごく医学的に考えて、着圧ソックスは意味がないと思います。効いたとすれば、プラセボ効果。インターネット上はまことしやかなデマも多いですね。脳の血管のむくみを取るには、着圧ソックスではなくトリプタン製剤です。これは片頭痛の薬で、血管のむくみを取ります。脳の血管が縮むとともに、漏れていた水分が血管に戻ってくるんです。それが、おしっこになって出てきます。びっくりするくらい尿量が増える人もいますよ。
市販の頭痛薬はいろいろありますが、おすすめするならバファリン。バファリンに含まれる成分・アセチルサリチル酸は、血小板に作用して血管の伸び縮みに関係するセロトニンの異常な放出を防ぐ効果が認められているので、ほかの鎮痛薬よりはマシだと思います。そして、複合成分が多いものほど、薬物乱用になりやすいといわれていますから、単一成分のものがいいです。
日常的には、カフェインやテオフィリン(カフェインの類似物質)を摂取してほしいですね。コーヒーや緑茶で補えます。片頭痛の人は、頭痛発作前、体に体液を溜め込んでいる状態なのでトイレが遠くなるんですが、これらは利尿作用がある。だから片頭痛の起こりそうなときにコーヒーを飲む。1日2~3杯で十分。カフェインにも依存性があるので、飲みすぎないこと。
――飲み物以外に頭痛の対策法はありますか?
清水 糖分は大事です。仕事が長時間になると頭痛になる人がいますよね。デスクワークは脳をとても使うので血糖値が下がり、脳血管が緩みがちになり頭痛になる。だから、仕事中は飴玉をなめてください。チョコレートは血管を拡張させる物質が入ってるからダメですよ。
一番良いのは、コーヒーに砂糖を少し加えた微糖コーヒー。アメリカでは片頭痛の人は一日6食にして血糖値をキープするよう推奨されています。それほど、血糖値は片頭痛の人にとって重要なものなんです。ちなみに、糖質ダイエットは片頭痛の人は絶対にダメ。頭痛が一気に悪化します。
また、ポニーテールや三つ編み、夜会巻きといった髪形は、頭皮を支配する三叉神経が刺激されるため、片頭痛の人には頭痛が起こりかねません。頭皮を過剰に引っ張り続ける髪形は避けましょう。
――片頭痛持ちは女性に目立つような気がするのですが。
清水 女性ホルモンと非常深い関係がありますからね。頭痛のときは、まず脳の血管が縮んで、その後に膨らんでくる。その伸び縮みに関係するのが、脳内物質のセロトニンです。セロトニンが減少すると血管は膨らむのですが、その増減は、女性ホルモン(エストロジェン)と連動する傾向にあります。そのため、月経の前後などに女性ホルモンが激減すると、セロトニンも激減し、血管が拡張します。だからPMSや排卵日に連動して頭痛が起こるといわれているんですね。
そもそも、片頭痛になる人/ならない人は遺伝であり、大体が母親から受け継がれることがわかっています。そして女性の片頭痛の特徴は、“敏感性”なんです。温度差、気圧差、女性ホルモンの増減などを敏感に読み取って頭痛を起こす。
一方、男性の片頭痛に影響するのは気圧と休日。「明日は休みだ」と思ってホッとして寝る。すると、リラックスして副交換神経が優位になり、血管が膨らむ。そして頭痛になります。また、休日は平日より食事の時間が遅くなることで血糖値が下がる。だから、休日でもちゃんと早起きして、食べることが大切です。寝すぎで頭が痛くなるのも、副交換神経が優位になって緩むのと、血糖値が下がっているからです。
――片頭痛と長年付き合うことで、なにか大きな病気になることはありますか?
清水 頭痛の際には、脳が異常な興奮状態に陥っていることが多く、そのような状態を長年、何度も繰り返すことで、脳に興奮がこびりついてしまうんですね。それで、ちょっとした音や視覚的な刺激でも苦痛になったり、寝付きが悪くなったり、感情的になったり、耳鳴りやめまいに悩むこともあります。目つき、顔つきまでも変わってきます。頭痛が引き起こす、そうした悪影響を「脳過敏症候群」と名付けました。だから、片頭痛は痛みがつらいのも事実ですが、それよりもこうした興奮状態が続くことのほうが怖い。表面の痛みだけを取り除いても、あとからツケが回ってくる。
まずはそうならないためにも、飴をなめて、微糖コーヒーを飲んで、市販の頭痛薬をうまく活用して、日常生活から予防をしっかり心がけてください。間違っても、着圧ソックスではありませんよ。
(解説:清水俊彦 取材/文:サイゾーウーマン編集部)
※2020年2月14日初出の記事に追記、編集を加えています。