家庭を持っている女性が、家庭の外で恋愛を楽しむ――いわゆる“婚外恋愛”。その渦中にいる女性たちは、なぜか絶対に“不倫”という言葉を使わない。仰々しく “婚外恋愛”と言わなくても、別に“不倫”でいいんじゃないか? しかしそこには、相手との間柄をどうしても“恋愛”だと思いたい、彼女たちの強い願望があるのだろう。
女同士の友情は、一度結ばれると強いけれど、半面、ふとした瞬間に儚く途切れてしまう。どういったきっかけで縁が切れてしまうのか、また、切れた縁がどのように拗れてしまうのかがわからないところが女同士の友情の奇妙なところである。
「『なんで私ばかり譲らないといけないの?』っていう部分がパンクしてしまったんですよね。だから、彼女に対してもっとも『勝ってやる』ことが、彼女の旦那を寝とることでした」
そう語る亜希さん(仮)は30代半ば。約1年に渡る育児休暇を経て、夏が来る前には職場復帰をする。
「何より仕事に復帰できたことが一番うれしいです。時短勤務になってしまいましたけど、仕事は楽しいですし、やりがいがあります。何もできないで旦那にぶら下がってる専業主婦の『あいつ』と比べないでくださいねって感じですよ……私は、稼げるんで」
高学歴の大学を卒業した亜希さんは、大学を卒業してから新卒で一流メーカーに就職。そこで出会った上司と結婚し、一児をもうけた。
順風満帆な人生である。しかし、妊娠中に知り合った年上の「ママ友」が、亜希さんの人生を激変させた。
「優子(仮)さんとは近所のマタニティヨガで知り合いました。40代の専業主婦で、ご家庭も裕福みたいです。とても仲良くしていただいて、頻繁に手料理をご馳走様になりに、ご自宅に遊びに行きました」
優子さんは面倒見がよく、臨月が近いママ友も大勢いた。肩書きはなかったが、彼女が作っているママ友コミュニティに入れてもらえた亜希さんは、正直ホッとしていたそうだ。
「これまで近所付き合いなんてほとんどしたことがありませんでしたし、もう少し社交的になったほうが、これから生まれてくる子どものためにもいいかも、なんて夫と話していたんです。そんな矢先に彼女と知り合えたことは、とてもうれしかったです」
一人っ子の亜希さんは、年の離れた優子さんを姉のように慕い、彼女が定期的に自宅で開催するランチ会や両家族でのディナーなども頻繁に行っていたそうだ。けれど、2人の友情はひょんなことから拗れてしまう。
「きっかけは些細なSNSのやりとりでした。ちょうど私が職場復帰したころに送ったメッセージを、優子さんが違った解釈で受け取ってしまって……時短とはいえ、私と優子さんでは時間軸が異なりますよね。それなのに容赦なくメッセージを送ってくるんです。しかも、マウント取る感じの。ミーティング中に電話があった時にはさすがに参って。『ちょっとすいません』的なメッセージ送ったら、途端に彼女のコミュニティに無視されるようになりました」
悲しい、怒り、などの感想よりも、亜希さんが一番に抱いた感想が「めんどくさい」だった。
「でも、ただ『めんどくさい』だけで片付けたくはなかったんです。せっかく楽しく一緒に子育てしようとしていたコミュニティの仲間たちにもそっぽ向かれて、私の仕事時間も削がれて。それに、何より、一度仲良くなった優子さんと拗れて。悲しいじゃないですか。ムカつくじゃないですか。仕返ししたいじゃないですか」
そこで亜希さんは、優子さんのご主人とこっそりSNSでやりとりし、緊急事態宣言が明けてからは不定期で2人で飲みに行っているそうだ。
「まあ、よくここまで愚痴が出てくるな、とは思いますよ。自然派を謳っている優子さんの料理に対して『味が薄い』とか『肉食わせろ』とか。しょっちゅう誘っては来ますけど、絶対にホテルには行きません。夫が大好きですし、裏切りたくないので気を持たせながら断っています。優子さんのご主人とのやりとりは全部録音していますよ。私が耐えられなくなったら優子さんに聞かせるつもりです」
女同士のマウントの取り合いは、何よりも恐ろしい。
(文・イラスト/いしいのりえ)