• 日. 12月 22nd, 2024

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「母親が専業主婦」は中学受験に有利!? 息子が塾で“クラス落ち”、仕事を辞めた母の思い

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 最近はジェンダーレスの時代だと言われているものの、こと「子育て」をめぐる日常のアレコレは、残念ながら、いまだに「母親の仕事」となることが多いものだ。

 中学受験もその例外ではない。塾の送り迎え、塾のお弁当作り、プリントの整理、家庭学習計画の立案、その進捗管理などなど、主に母親が中学受験のアシスタントプロデューサー的な役割を務めているのが現実だろう。

 その負担ゆえに、中学受験を考えている、あるいは実際に足を踏み入れている母の中には「仕事との両立」に悩む人が後を絶たない。

 中学1年生の哲也君(仮名)の母・美保さん(仮名)もその一人であった。

 専業主婦だった美保さんは、一人息子である哲也君の小学校入学のタイミングで、コールセンターのパート従業員として社会復帰を果たしたという。午前9時~午後4時の週3のパートは、やりがいもあり、楽しかったそうだ。

「パートでしたけど、社会とつながっているという実感がうれしかったですね。それに、哲也が4年生になった時、同級生の影響で『中学受験の塾に通いたい!』と言い出したんですが、即答で『OK!』って返事ができたことも、素直にうれしかった。私の稼ぎで我が家の家計に余裕ができたから言えたことなので、そこはちょっと誇らしかったです」

 しかし、一昨年、美保さんは悩みに悩んで、仕事を辞めた。

「人手不足というのもあり、哲也が5年生になる頃には、週3のパートが週5まで増えていました。そうなると、やっぱり私も疲れが溜まってきて、中学受験のために親がやったほうがいいことも杜撰になっている気がしていたんですよね……」

 美保さんのママ友たちは専業主婦の人が多かったという。彼女の目には「上位クラスにいる子の母親は専業主婦」と映っていたそうだ。

「当時は、自分に余裕がなくて、『哲也の成績が上がらないのは私のせい?』ってくらい追い詰められていたように思います」

 さらに、コロナ禍が美保さんに追い打ちをかけたそうだ。

「小学校が休校になってしまい、哲也を残して出社するはめになりました。ウチの会社はまだ在宅でのテレワークにはなっていなかったんです。当然、見張りがいない哲也は自主的に受験勉強をするわけもなく、成績が下降し、ついにクラス落ち。一方で、ライバルだと思っていた専業主婦のママ友の子はクラスアップに成功。やっぱり母親が専業主婦というのは、中学受験に有利なのは当たっていると焦りました」

 そんな中、美保さんは日頃の仕事ぶりが認められたらしく、職場でSV(スーパーバイザー)という役職への昇進の打診があったそうだ。

 雇用形態は、パートから契約社員に。待遇面では、賞与はないものの、役職手当として時給が200円プラスと提示され、さらに、将来的には正社員への登用もあるという話だったという。

「コールセンターの仕事は好きでしたし、同僚との関係も良かったので、職場環境に不満はなかったんです。哲也が受験生でなく、さらに休校になっていなかったら、有難く受けたかもしれません……」

 悩んだ揚げ句、美保さんはその話を辞退したどころか、退職の道を選んだそうだ。

「今じゃないなって思ったんです。SVになるのも、仕事を続けるのも。SVになるなら、時短勤務はできなくなるので、哲也のそばにいる時間は、ますますなくなってしまう。これで哲也の未来の可能性が狭まってしまうことだけは避けたいと思いました」

 そして、美保さんは、最終学年となる6年生の1年間、哲也君のサポートをすることに全力を尽くしたという。

「哲也はもともと甘えん坊のせいか、やはり母親が家にいるということが単純にうれしかったみたいです。私も疲労度が全然違ったのか、気持ちに余裕ができたみたいで、矢継ぎ早に口うるさく言うことが少なくなりました。哲也にはそれが本当に良かったようで、机に座って集中している時間が増えた気がします。成績も、6年の晩夏までは悲惨だったんですが、冬の気配を感じたあたりから、これぞⅤ字回復ってくらい伸びていきました」

 その甲斐あってか、哲也君は今年、見事に第1志望校である難関校に進学。部活や行事も含め、コロナ禍以前と同じような学園生活を謳歌しているという。そして最近、美保さんは元の職場に復帰したという。

「仕事は一時撤退みたいになりましたが、あの時、私には家庭と仕事のバランスを取ることが難しかった。せっかくの昇進を蹴り、仕事まで辞めたことをもったいないと思われるかもしれませんが、自分の意思で決断できてよかったです」

 仕事と家庭をバランス良く両立するのは、すべての働く人々、特にワーキングマザーにとっては悩ましい問題である。とりわけ、「親子の受験」と呼ばれる中学受験では、仕事と子どもへのフォローの調整で、苦労する母は多い。しかし、各人がその時々に「ベストではないが、これがベター!」と信じた行動をすることが、一番の正しい道だと思うのだ。

「もしかしたら、哲也が高校生くらいになって、本当に手がかからないようになったら、SVにも正社員登用にもチャレンジするかもしれません。でも今は、パートとして、自分なりのペースで働ければ十分です」

 そう微笑む美保さんは、とても輝いて見えた。

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