「子ども同士の付き合い」が前提のママ友という関係には、さまざまな暗黙のルールがあるらしい――。ママたちの実体験を元に、ママ友ウォッチャーのライター・池守りぜねが、暗黙ルールを考察する。
「保育園落ちた日本死ね!!!」という匿名ブログが話題となった2016年以降、小規模保育園や延長保育を実施する幼稚園の増加などにより、待機児童問題は改善に向かいつつある。しかし、収入に応じた手頃な利用料で子どもを預けられる認可保育園への入園には、いまだ熾烈な保活が必要な状況が続いているようだ。
一見、同じような条件に見える共働き家庭でも、人気の認可保育園への入園があっさりと決まる家庭と、すべての認可保育園に落ち、認証保育園や認可外保育園に入園するケースもある。今回は、認可保育園に子どもを通わせるママ友の“暗黙のルール”について、ある園児のお母さんの話を取り上げる。
保活の超激戦区で、0歳の娘が認可保育園入園
関東近県で、3歳の男の子と0歳の女の子を育児中の愛子さん(仮名・36歳)は、今年度、認可保育園の0歳児クラスに娘を入園させた。
「私が住んでいるのは、保活の『超激戦区』と言われている地域。10年くらい前からタワマンや新築マンションの建設ラッシュで、子育て世代のファミリー層が多いんです」
愛子さんは、高齢者向けの介護施設で働く介護士、一方、夫はフリーの映像ディレクターだという。フリーランスは、「在宅で子どもの面倒がみられる」と判断されてしまい、保活では不利なケースも多い。
「夫は、大学時代の友人らと一緒に、幼稚園などの運動会の撮影から企業のPR映像制作まで、幅広く仕事をしています。時には地方での撮影があり、家にいないことも多いので、無事に認可保育園には入れたのは本当によかったのですが、周りのママ友からは、『旦那さんがフリーランスなのに、どうやって?』と驚かれましたね……」
愛子さんの周りには、都内にある有名企業に夫婦で勤めているママ友がいる。子どもが同じ認可保育園に通いながらも、「生活の違いを感じる」そうだ。
「パパと育児を分担しながら、バリバリ働いているキャリア志向のA子さんというママ友がいるんです。A子さんの子どもと上の子が同じ3歳クラスで、仲良くさせてもらってます。彼女は近隣のタワーマンションに住んでいて、お迎えの時にモンクレールのダウンを着ていたりと、見た目も小綺麗。同じ園のママ友で集まる時に、A子さんのタワマンのパーティールームを使ってランチ会をしたことがあるのですが、あらためてお金持ちなんだなぁと思いました。私は、おさがりの汚れたベビーカーでお邪魔したんですが、なんとなく肩身が狭かったですね」
認可保育園の保育料は、前年度の収入に応じた額になる。一方で、認証保育園や認可外保育園は、自治体によっては補助金の支援があるが、0歳児の場合は、保育料が7万円台と高額のところも多い。収入が少ない家庭では、3歳児からの保育料無料化まで、認可保育園を選ばざるを得ない事情がある。
「A子さんから、『保育料が高くて、保育料のために働いるようなもんだよ』って言われたんです。聞いてみたら、保育料が8万円近かったんです。これってつまり、それだけ年収が高いということ。ほかのママたちもギョッとしていました。お金持ちだというのはわかっていたけど、8万円って……大体の世帯年収もわかってしまうし、その後、ほかのママたちの間で、『もしかして私たち、自慢された?』『そんなに高い保育料を払っているんだったら、別に認可に通わせなくてもいいのに』なんて話になっていました。保育料は家庭ごとに違いますし、みだりに金額を口にしないほうがいいのは、『暗黙のママ友ルールだな』と思いましたね」
愛子さんによると、保育料だけでなく、保活をめぐって、家庭の経済状況がバレるケースもあるという。
「去年は私も含め、周りのママが2人目の妊娠・出産ラッシュだったんです。私以外に3人のママが同時期に出産したのですが、実は1人だけ同じ保育園に入ることができませんでした」
愛子さん以外の3人も夫婦共働きだといい、保活の点数(「ひとり親世帯」や「疾病世帯」、「父母の就労状況」など、世帯の状況を点数化したもの。点数が高ければ高いほど、入園できる可能性が高くなる)はだいたいみんな同じだと想像できる。しかし、そのほかに入園の可否を分ける要素があるらしい。
「どうやら、収入が低いほど入園しやすいという話があるんです。A子さんの家のような例もあるし、その年によっても変わってくると思うんですが、保活情報を交換する掲示板に、そう書かれていて。また、下の子が入園できなかったママさんによると、役所で『入園できた人の収入を聞いたら、思ったよりも低かった』って言うんですよね。ただ、そのことを直接愚痴られたので、まるで『お宅は年収が低い』と言われているみたいで、モヤモヤしました。保活にも年収が関わってくるとなると、うかつにこういった愚痴を漏らすのはよくないですよね……これも『暗黙のママ友ルール』じゃないでしょうか?」
ママ友の間では、「それは話題にしないほうがよい」という暗黙のルールがいくつも存在する。その代表例が、収入にまつわる話だ。これはママ友に限らずだが、収入を明かすと、やっかみ/やっかまれという状況が生まれやすい。もちろん、住んでいるマンションのグレードや戸建てかどうか、車は持っているのかなどから、いくらでも収入を推測できるが、仲のいい友人にも「そこは詳しく明かさない」という人が多いのではないだろうか。
認可保育園の保育料も、収入に関わる話題だが、A子さんもついうっかり言ってしまった可能性はあるだろう。ママ友とは年齢も仕事も違うため、どうしても共通の話題となると育児に関することになりやすく、その延長線上で、共感されると思い、口に出してしまったのかもしれない。
認証保育園や認可外、幼稚園は、どの家庭も同じ利用料を払っているため、似たような経済状況の家庭が集まりがちだが、認可の場合は、収入によって保育料が違い、経済状況もバラバラ。保育料から収入がわかってしまうだけに、ママ友の間で話題に出されて気分がよくないのなら、自分から口にしないほうがいいだろう。
小学校では「中学受験に参入」で経済状況がわかる!?
また保育料と同じで、その家庭の収入がわかってしまう例として、「子どもの医療費」がある。東京都の一部では、乳幼児、小中学生の医療費無償化に所得制限があるのだ。医療費が無料の家庭には、通称「マル乳」「マル子」と呼ばれる医療証が付与されている。
子どもが小さいうちは、小児科にかかる機会も多いが、同じ病院で会ったママ友同士が、「マル乳」「マル子」を持っているか、いないかで、ある程度の収入がわかってしまう。私も、ママ友との何気ない雑談の中で、「あのママさんの家は世帯収入が800万円以上だ」という話題が上がったこともある。認可の保育料同様、子どもの医療費に関しても、できるだけ知られないほうが無難だろう。
ちなみに首都圏だと、子どもが小学校高学年になると、中学受験への参入により、おのずと、周囲のママ友に「教育にお金を掛けられる余裕のある家庭」などとみなされてしまう。子どもを持つと、どこまでも収入にまつわる話題は切り離せないだけに、「そういうものだ」と割り切る部分も必要なのかもしれない。