——アイドル好きのブックライター・保田と編集部員・B子が、タレントたちの“愛読書”を片手に、人となりを妄想中!? 「サイジョの本棚」前で、おしゃべりが始まります!
◎ブックライター・保田 アラフォーのライター。「サイジョの本棚」担当 で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。趣味(アイドルオタク)にも本気。
◎編集部員・B子 猫と暮らすアラサー。芥川賞、直木賞、本屋大賞あたりを一通りチェックしたい、ミーハーな本好き。最近はノンフィクションばかり読んでいる。趣味(ジャニーズオタク)にも本気。
NEWS・加藤シゲアキの人生を変えた1冊:『寝ながら学べる構造主義』
編集・B子 NEWSの加藤シゲアキが、ここ数年、いろんな取材で『寝ながら学べる構造主義』(文藝春秋/著:内田樹)をおすすめしてて、前から気になってるんだよね。「人生を変えた本」として挙げたこともあるくらいなんだけどさ、シゲはジャニーズが誇る“作家先生”だし、そもそも「構造主義」って何? って感じだし、なかなか手をつけられなくて。保田さんは読んだことある?
ライター・保田 20世紀を代表する哲学思想「構造主義」の概要と歴史について、やさしい言葉で学べる名著だよね。「構造主義? 聞いたことない」みたいな状態から読み始めても大丈夫なはず。
編集・B子 シゲはほかにも、おすすめの本として『哲学用語図鑑』(プレジデント社/著:田中正人)や『断片的なものの社会学』(朝日出版社/著:岸政彦)なんかを挙げていたこともあるのよ。とにかく物事を学ぼうとする姿勢だけでなく、世界をちょっと斜めから見ているような、シゲらしいラインナップだなあと思ってる(笑)。
ライター・保田 構造主義は、ざっくり言うと“私たちが「常識」「正義」だと思っているものは、その時代、国や地域、属する社会集団の常識であって、普遍のものではない”という考えを基にして展開する思想。『寝ながら学べる構造主義』の著者も述べているけど、これって、現代人の多くが、すでに身につけている感覚ではあるんだよね。
哲学に苦手意識がある人でも、ぼんやり認識していることが明確に言語化されて、整理される快感が味わえるんじゃないかな。「自分も他者も等しく同様に、認知の歪みや限界がある」と気づけることは、そのまま他者理解にもつながると思うし。
編集・B子 確かに、シゲはこの本を通して「他人のこともより理解できるようになった」って言ってた。きっと、NEWSメンバーや仕事仲間への理解が深まったんだろうね。作家としての土台にもなったのかも。
ライター・保田 同書の中では、思想家・レヴィ=ストロースの知見として、グループ(社会集団)で他者と共生する「暗黙のルール」は、「変化し続けること」と、自分が「欲するものは、まず他者に与えなければならない」と解説している。この辺り、グループで活動する人には、特に響いたんじゃないかな。
編集・B子 言いたいことはなんとなくわかるけど、NEWSはメンバーが変化し続けて、デビュー当時の9人から3人に減ってるのよ。だから、「他者と共生」できたかどうかは……(苦笑)。デビュー当時にメンバーがこの本を読んで、「欲するものは、まず他者に与えなければならない」を意識していれば、NEWSの運命も変わってたりして。
ライター・保田 本の内容はとてもここでは語り尽くせないけど、対人関係とか、集団の関係性について考えたい時に、知っていて損になることはないと思う。個人的には、特に“名文”といわれる「まえがき」と「あとがき」だけでも読んでみてほしい!
編集・B子 では、『寝ながら学べる構造主義』を読んだシゲに、おすすめしたい本はある?
ライター・保田 読書家としても有名な加藤さんに本を勧めるのは気が引けるけど、『政治学者、PTA会長になる』(毎日新聞出版/著:岡田憲治)は好きそうだと思った。政治学の教授である著者の岡田氏が、どうしても断りにくい状況に追い込まれて、小学校のPTA会長を務めた怒涛の3年間を振り返るエッセイなんだけど、近刊だからまだチェックしてないかも。
編集・B子 PTAの問題って、子どもがいる家庭にとっては人ごとじゃないよね。でも、シゲは今のところPTAとは無縁だし、ピンと来ない気もする。
ライター・保田 だからこそ、「PTA」っていう“名前は知ってるのによくわからない世界”の一端を知る入口になる本かなって。岡田氏も、PTAについてほとんど知らないのに、会長に推薦されてしまうの。だからむしろ、PTAについて知らない人ほど、岡田氏の戸惑いに共感できるだろうし、「政治学」のフィルターを通してPTAが語られることで、新しい学問を知る取っ掛かりにもなりそう。
編集・B子 “シゲと政治”で思い出したけど、2016年に当時の安倍晋三政権を強く批判した学生団体「SEALDs」について、雑誌のインタビューで「すごく賛同できます」と語ったことがあった。アイドルのみならず、芸能人が政治に触れるのは“タブー”のようにされてきたし、当時はネットが大炎上したの。
でも、昨年10月の衆議院選挙前に、多数の芸能人が投票を呼びかける「#わたしも投票します」というYouTube動画が公開されて、こちらはいい意味で話題になった。今回の参議院議員選挙でも、長澤まさみや池田エライザ、北村匠海らがこの動画に出演してて、“芸能人が政治を語ること”も普通になってきそうだよね。今だったら、シゲの発言もあんなに炎上しないはず(笑)。
ライター・保田 そういえば、そんなことあったね〜。やっぱり、これは加藤さんにピッタリの1冊かも。一方で、単純にエッセイとしてもドラマチックで面白いよ。著者は、PTAが「多くの人たちが『さほどそれでいいと思っているわけでもない』のに、誰が作ったのかもよく分からない決め事に縛られて苦しそう」な組織に見えていて、変革したいと思っている。
だけど、PTAの古参役員たちから見れば、それは「自分たちが頑張って作り上げたものを壊そうとしている」ように見えてしまって、当初はぎくしゃくしてしまうんだよね。
編集・B子 どちらも悪意があるわけではないのに、自分を「正義」だと思ってるから、お互いが悪く見えちゃう……って感じ。PTAじゃなくても、よくある話だなあ。
ライター・保田 最終的には相互理解が進んで、協力体制がとれるチームが出来上がるんだけどね。そういう意味では、『寝ながら〜』で学んだ構造主義を、PTAという身近な事例に置き換えて復習できる本かもしれない。前述の「欲するものは、まず他者に与えなければならない」という論も、このエッセイに適用できるところがあるし。
編集・B子 私の周りにも、PTAとの関わりで悩んでる人って多いんだよねえ。そういう人にとって支えになるエッセイになりそう。
ライター・保田 コロナ禍で直面した学校と保護者の戸惑いや葛藤も、つぶさに描かれているよ。著者が「間違いと、思い込みと、(略)挫折の連続」と語るように、成功エピソードだけではなく、自身の失敗や勇み足がつづられているところも役立ちそう。成功した理由より、うまくいかなかった理由から学ぶことのほうが多かったりするし。
編集・B子 シゲにもぜひ読んでもらって、今後の執筆活動の参考になるといいね。
『寝ながら学べる構造主義』(文藝春秋/著:内田樹)
現代思想の代表といわれる「構造主義」。解説書を手にとれば、そこには超難解な言い回しや論理の山……。そんな挫折を味わった、「本物の初心者」に向けた構造主義入門書。フーコー、バルト、レヴィ=ストロース、ラカンといった構造主義の主唱者たちは、要するに何が言いたかったのか、そもそも構造主義が生み出された背景には、どんな思想家たちの系譜があったのか。「思想の整体師」の異名をもつ著者による解説書決定版。
『政治学者、PTA会長になる』(毎日新聞出版/著:岡田憲治)
小学生の保護者たちの胸をざわつかせる「PTA」の存在。そんな場所にうっかり義憤に駆られて、政治学者が踏み込んだら……? PTAを見てみたら浮かび上がってきた、「スリム化」を阻むものの正体、「やめよう!」が言えない大人たち、「廃止」が必ずしもベストではない事情……。そして、コロナで学校が閉ざされた時、PTAが果たした役割とは? 今の時代に合うPTAの形とは、続ける意味とは何か? 身近な自治の場「PTA」での著者の1,000日を通じて考える、私たちの「自治」の話。