日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。6月26日の放送は「都会を捨てた若者たち 後編 ~27歳の決断~」。
あらすじ
栃木県那須町にある非電化工房では自然と調和した暮らしを目指し、自分の力で生きていく技術を学ぶ。代表の藤村靖之氏は1年限定で住み込みの弟子を取っており、現在は20代の5人が弟子として暮らしている。
弟子の一人、27歳の大地は非電化工房の同期の他メンバーとの交流を避け、夕食も別に取る。大地は4歳で野球を始めたが甲子園出場の夢はかなわず、大学卒業後は大手ハウスメーカーに就職し、営業マンとして働く。しかし1年ほどで退職し、今度は人材系のベンチャー企業に入社するが、そこも自主退社。
何も手にしていないという思いから、非電化工房への弟子入りを決めたと話すが、目的がはっきりあるわけではないようだ。そんな大地に対し、藤村氏は山の開拓を一例として出し、大地は乗り気になっていく。
そんな大地に彼女ができる。非電化工房で暮らす同い年の樹乃香だ。樹乃香は大学で人権、環境問題を学び、生活支援のNPOで働くも、毎朝の満員電車の生活に慣れなかったようで、弟子入り生活をしながら、地元山梨で非電化カフェの開業を目指している。
人付き合いに苦手意識のある大地は、当初、弟子生活の終了後は樹乃香と生活の拠点を別にしたいと番組スタッフに話していたが、樹乃香は大地と生活を共にしたいと考えていた。しかし一方で、大地の目指す山の開拓生活での同居は無理かもしれないとも思い、大地に話を切り出せない。
しかし、修行生活が終盤に差し迫ったころ、樹乃香の父親にがんが発覚する。ログハウスビルダーだった父親とともにカフェを作りたいとの思いがあった樹乃香は、大地と話し合う。大地は山を探しつつも、まずは樹乃香のカフェを手伝う選択をする。
大地は弟子生活において同期との交流を避け、入居して7カ月で行われた非電化工房の対外向けのイベントでは、自分の担当であったポンプの準備を怠り、藤村氏にたしなめられていた。そのときは、すっかり意気消沈して「退去のシミュレーション」を番組スタッフの前でするほどだったが、弟子生活の最後のほうでは人と交流を持つようになり、1年滞在した非電化工房を去るときは「辞めなくてよかった」と涙していた。
▼前編はこちらから
『ザ・ノンフィクション』「好きなことで生きていく」という機運の弊害
「地元山梨でカフェを開く」という樹乃香の夢を手伝うことにした大地だが、これはいい決断だと思った。番組の前後編を見ても、大地の夢である「山の開拓」への熱意、情熱の度合いがよくわからなかったからだ。
実際に山探しのため自治体に電話をかけたり、すでに山を開拓して暮らしている人のもとを訪ねるなど具体的に行動もしているのだが、なぜか「すごくやりたい」ように見えなかった。もともと「山の開拓」も大地自らが言い出したものではなく、藤村氏の一提案だ。
非電化工房の修業生活を1年間行ってきたというのもあり、大地には「非電化系の目標を見つけないと」という焦りもあったのかもしれない。ただ、やりたいものを無理やり探すよりも「自分よりやりたいことが明確な人を手伝う」ほうが、無理がないように思う。
今の世の中、終身雇用などはすっかりアテにならなくなってきており、その代わりに「好きなこと、やりたいことで生きていく」という機運は、特に若年層を中心に高まっているように思う。このこと自体はいいことのように思うが、一方で「好きなこと、やりたいことを見つけて、それで生きていかないとダメ」、さらには「会社勤めは社畜、搾取される」という思考も一部で強まっているような気がする。
しかし、そこまで行くのは極端な考えだ。若い大地も、こういった固定観念に振り回されていた面があるのかもしれない。
大地は「(いろんな人とうまくやれ、かつカフェといういろんな人が来る環境を作りたい樹乃香に対し)僕はいろんな人が来るとしんどいから」 と、退去後に樹乃香と生活を共にすることに消極的だった。
大地の自己認識は「人付き合いがしんどい」ようだが、しかし、前後編を見る限り、大地はむしろ人付き合いに積極的な人のように見えた。番組スタッフの前でもおしゃべりだ。
樹乃香と付き合ったなれそめを聞かれた際、「褒め上手だから」と話し、藤村氏に山の開拓を提案されると気を良くしたり、逆に藤村氏にたしなめられたときは退去を検討するほど落ち込むなど、大地は人から言われたことに影響を受けやすい。
本当に人付き合いが苦手なら、人の話に耳を傾けたりなど人と関わろうとしないし、彼女をつくろうとも思わないだろう。そもそも大地は新卒で大手ハウスメーカーの営業マンだったが、大手の人事が採用、配属する人に「人付き合いが苦手な人」はいないはずだ。
大地は、「人付き合いが苦手」というほどではなく、「人に対し愛想よく振る舞うこともできるし、気の合う人とは仲良くしたいが、人付き合いの煩わしさはなるべく避けたい」程度に見える。それなら私もそうだし、世の中の多数派とすら言っていい。
「ぱっと見そうかもしれないが、本当の自分はそうではない」という考えもあるかもしれないが、「ぱっと見そう映る」というのも、その人の立派な実態のひとつだ。ぱっと見は人付き合いに積極的に見える大地は、自然を相手に開拓生活をするよりも、接客のほうが向いているように見えたし、その点でもカフェ経営はいい進路だと思う。
次週の『ザ・ノンフィクション』は「人力車に魅せられて ~夢と涙の浅草物語~」。浅草観光の名物ともいえる人力車。10社以上がしのぎを削る中で「東京力車」は女性俥夫も多く活躍している。俥夫を目指す若者たちを見つめる。