“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)
そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。
庄司美智代さん(仮名・51)はバツイチで一人暮らしだ。実家には認知症の母親(80)と仕事をしない兄(53)が二人で暮らしている。兄は、母親の認知症が進んでも介護サービスを利用することに反対し、庄司さんは頭を悩ませていた。
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母の通帳から引き出されていた大金
兄には内緒で、母親に小規模多機能施設を利用させることにした庄司さんだったが、それを知った兄が「こんなに介護サービスを利用してどうするんだ。これ以上介護費用を払うことはできない」と、年金では足りないと言い出した。
そんなはずはない。介護サービスを受けるくらいの年金はもらっているはずなのに、といぶかしんだ庄司さんは、兄が寝たスキに年金が振り込まれる通帳を探し出して確認した。
「すると、たびたび大金が引き出されていて、これまでの蓄えが激減していることがわかりました。母と兄の生活費でこんなにお金がかかるわけがありません」
そういえば、兄あての消費者金融からの督促状のようなものを目にしたことがあったことを思い出した。
「これは兄が引き出して、借金返済に充てているに違いないと思いました。昔から、私の貯金にも手を出していたくらいですから、母の年金を狙うのも当然です」
対外的には兄が母の年金を管理してやっていると言いながら、実際には使い込んでいる兄。母親の介護サービスを反対する理由がよくわかったと庄司さんはため息をつく。
兄が持っているキャッシュカードを使えなくしなければ
そしてさらに問題が発生した。通帳は母の手元にあったが、キャッシュカードが見当たらないのだ。
「カードは兄が持っている。これ以上、母のお金を使い込まれると、利用する施設の支払いが滞ってしまう……」
庄司さんは焦った。兄が勝手に母親の年金を使うのをなんとしても止めなければ――と、庄司さんはすぐに成年後見人選定の手続きをした。
しかし、後見人が決定するまでには時間がかかる。それまでの間、兄にお金を下ろされると万事休すだ。
「兄が持っているキャッシュカードを使えなくするしかない」と、切羽詰まった庄司さんは何か良い方法はないかとケアマネジャーに相談した。すると、ケアマネジャーから「家庭内のトラブルには介入できません。もめごとは困ります」と強く言われてしまったのだ。
「そう言われると、もうケアマネジャーに相談することはできません。兄は見た目は普通だし外ヅラがいいので、ケアマネジャーとしても母と一緒に暮らしている兄の言い分を信用しているんだと思います。逆に私のほうが虚言癖があると思われたようで、胡散臭い目で見られてしまいました
困り果てた庄司さんは、弁護士に相談した。
「弁護士さんからは、『私も兄も、母に対しては同等の立場にあるんだから、母の年金を妹の私が独占することはできない』と言われました。私が勝手にキャッシュカードの再発行をするなど、絶対にしてはいけないと。第三者の専門家からすると、確かにそうなるんでしょうが……。働かない兄は法律に守られるのに、働きながら母を見ている私は報われることがないんだな、と痛感しました。ひとまず、後見人が決まるまで私がお金をなんとかするしかないのでしょう。私だって自分が食べていくだけでカツカツなのに」
母親の年金を盗む兄は泥棒だと庄司さんは思う。いっそ他人なら、法律が罰してくれるのに、と寂しく笑った。
それでも庄司さんは諦めていない。兄のスキをみて、何としてでもキャッシュカードを探し出すつもりだ。
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