「子ども同士の付き合い」が前提のママ友という関係には、さまざまな暗黙のルールがあるらしい――。ママたちの実体験を元に、ママ友ウォッチャーのライター・池守りぜねが、暗黙ルールを考察する。
ショッピングモールやフードコートなどで走り回る子どもがいると、「静かにしなさい」と怒鳴る親の声が響き渡っていたのも今は昔。子どもの数自体が減少しているのもあるが、物騒なご時世だけに無用なトラブルに巻き込まれたくはないと思った親たちが、そもそも子どもへのしつけを徹底するようになっているのかもしれない。
そんな中、子どもに対して大らかなママと、周りに気を使って子どもに厳しくするタイプのママとの間では、軋轢が生じやすいという。今回は、自分の子どもを注意しないママ友の態度にモヤッとしたという女性が、「暗黙のママ友ルール」について話してくれた。
アラフォーの最年長ママが仕切る飲み会で、子どもが大暴れ
梨花さん(仮名・36歳)は、首都圏で5歳になる男の子を育児中。息子は毎朝、通園バスに乗って幼稚園に通っているそうだ。
「バスはいくつかのスポットに停車して、その近隣の子どもたちをピックアップしていきます。同じ場所から乗車する園児のママたちとは、子どもを見送った後も立ち話をしたり、普段から交流があったんです」
梨花さんはそこで、同じ学年の男児ママである沙織さん(仮名・43歳)と仲良くなり、休みの日も子連れでご飯を食べに行くようになった。
「沙織さんは3人の子のママ。一番上が中学1年生、真ん中は小学3年生、そして、3番目の男児が息子と同じ年中さんです。幼稚園のママ友たちと子連れでご飯に行くときは、『上の2人は家で留守番させている』と話していましたね。子どもが大きくなって、しかもきょうだいが多いと、外出もしやすくなるんだなぁと思いました」
ママ友たちの間で最年長、しかも上の子もいる沙織さんは、子育ての悩みによくアドバイスをくれたという。
「面倒見が良い人なので、同じクラスのママたちから連絡先を集めて、LINEグループを作ったり、運動会などの行事があると、打ち上げの幹事を率先してやってくれていました」
しかし、梨花さんの子育ての姿勢で気になることがあったという。
「社交的な沙織さんは知り合いも多く、子連れで飲み会をするときは、彼女の知人の店を利用することがよくあるんです。気心が知れた相手の店だから問題ないと思ったのか、子どもたちが店内を走り回っても、沙織さんは全然注意しない。ある時なんて、店に数人お客さんがいたのですが、騒がしい雰囲気が嫌だったのか早々と帰ってしまい、ほぼ貸し切り状態に。ママたち4人がテーブル席に座り、子どもたちが座敷席を占領してしまいました」
ママ友グループで飲み会となると、カラオケボックスのパーティールームを借りたり、居酒屋の個室を貸し切ったりと、周りに迷惑が掛からないように気を使うケースが多い。梨花さんも、子連れの場合は基本的にファミレスやキッズカフェなどを利用しているという。
「個人でやっている小さな飲食店で、子どもたちが大騒ぎしていたら、ほかのお客さんはギョッとしますよね。しかもチェーン店ではない店は、同じ客が居座っていたら儲からないと思うんです……。でも、沙織さんの知人は、『気にしないで、大丈夫よ』って言ってくれて、注文をしていないポテトとかを子どもに出してくれました。ただ、沙織さんが当たり前っていう表情をしていたのが気になったんです」
子どもたちから目を離して、ママ同士の会話に夢中になっていると、沙織さんの息子が窓の障子にぶつかった。
「大きな音がしたので、なにか店内のものを壊したのではないかと思ってハラハラしました。実際はなにも破損してなかったようですが、沙織さんは店に謝るどころか、笑いながら息子に『大丈夫だった?』と聞くだけで、悪びれる様子がなかったんですよ。実は沙織さん、以前、持ち物を伝え忘れた幼稚園の先生に、ものすごい剣幕でキレたことがあるんですが、他人には厳しいのに自分の子は叱ったりしないで勝手だなと感じました」
しかし、梨花さんいわく、よその子を叱ることはもちろん、自分より子育て経験のある年上のママ友には、注意がしづらい風潮があるとのこと。
「逆に『こっちのほうが正しい』と言われてしまいそうで、怖いんですよね。そもそも私は、ママ友と子連れで外出するときは、いつも以上に子どもの行動に目を光らせて注意するのが『暗黙のルール』だと思っています。ママ友に直接的に迷惑がかかっちゃうのはよくないと思うし、1人の子が騒いでいるだけでも、ママ友グループ全員が、周りから白い目を向けられる可能性だってありますから」
都市部では、移動手段に公共交通機関を利用せねばならないことが多く、赤ちゃんや子どもを連れていると、どうしても周りの目が気になってしまうのではないだろうか。大声で子どもを叱ることがはばかられるのもあり、事前に「公共の場では遊ばない、騒がない、泣かない」ということを、子どもに教えて、徹底している家庭も多いようだ。
梨花さんは首都圏在住なので、周りを気にする環境で子育てをしているのだろう。そのため、公共の場で子どもが騒ぐことに敏感になっている面があると感じた。
一方、沙織さんの立場になって考えると、多少の図太さがなければ、今の時代、育児がしづらいというのも確かにある。しかし、「これくらいなら許してもらえる」「育児をしているのだから、仕方ない」という考えが行きすぎている感も否めない。また、叱らないことで、子どもが公共の場での振る舞いを学べないのも気になるところだ。
さて、今回の「ママ友と子連れで外出するときは、いつも以上に子どもの行動に目を光らせ、注意する」という暗黙のママ友ルールには、共感する人が多いのではないだろうか。店側が目をつむってくれてはいるが、沙織さんの子どもが騒いだことでお客さんが帰ってしまうなど、店に迷惑を掛けているのは明白。さらにそのことで、梨花さんも肩身の狭い思いをしている。ママ友に迷惑をかけたくないという人にとって、梨花さんが話した「暗黙のママ友ルール」は、非常に納得できるものだと思う。
しかし、ここで問題なのは、「暗黙のママ友ルール」が通用しないママ友と遊びに行った際の対応だ。もし、その子どもが周りに迷惑を掛けかねないほど騒いでいたら、自ら注意するのが手っ取り早いが、やはりママ友の子どもは叱りづらいもの。そういう時に使えるのが、自分の子どもを注意することで、ほかの子にも、「騒ぐのはよくない」と伝える方法である。
自分の子はあまり騒いでいないという場合でも、子どもたちが固まって遊んでいるのであれば、1人を叱ることで、ほかの子どもたちも「悪いことなんだ」と、ある程度理解するはずだ(もちろん年齢にもよるが)。ここで、何もしないで傍観しているだけだと、沙織さんのような「叱らないママ」と同じ立場になってしまう。
また、そのママ友に「注意したほうがいいんじゃない?」と言うことも有効だろう。
梨花さんも言っていたが、何人かの子どもを育てていたり、自分の子育てに自信がありそうなママには、意見が言いづらいものだ。しかし、ママ友は普通の友達と違って、自分の都合だけで距離を置くことができない。子どもが同じ幼稚園や保育園、小学校に通う場合、長年の付き合いになる。モヤモヤを抱えたままだと、今後の付き合いもつらくなってしまう可能性があるので、思いきって本人に言ってみることも大事だろう。
ママ友との間でトラブルやモヤッとしたことが起きた時は、なるべく早く、その場で対処したほうがいいと私は思っている。あとで話を蒸し返すと誤解を生みやすく、相手に「なんでその時に言ってくれなかったのだろう」と思われる可能性もあり、結果、お互いぎくしゃくしてしまう。ママ友同士の関係は、子ども同士の関係にも影響しかねないだけに、「できるだけモヤモヤを抱えない」のが一番ではないだろうか。