「皇族はスーパースター」と語る歴史エッセイストの堀江宏樹さんに、歴史に眠る破天荒な「皇族」エピソードを教えてもらいます! 前回までの3回に引き続き、皇室ジャーナリストの江森敬治氏によるインタビュー録『秋篠宮』(小学館)を読み解いていきます。
――2018年の4月、それまでは小室圭さんに関して好ましからぬ情報がいくら漏れても、眞子さまとの結婚を支持するという立場を崩さなかった秋篠宮さまの態度が、明らかに変わってしまいます。
堀江宏樹氏(以下、堀江) 『秋篠宮』の本文に明記はないのですが、秋篠宮さまが小室さんの人間性に疑問を強く感じたことが、その理由として指摘できると思います。本文から宮さまの言葉を引用しますね。
「これだけ週刊誌でいろいろと書かれているのだから、こうなったら小室家側がきちんと説明しなくてはいけない。週刊誌で書かれているトラブルは全て小室家の話だ。秋篠宮家は、まったく関係ない」
それゆえ、小室さんを宮邸に呼んで、金銭トラブルの解決と国民への説明を求めたそうです。
――結婚の条件として、秋篠宮さまが小室さんに金銭トラブルの説明を求めたというわけですね。結局、だいぶ後になってから、長いだけでほとんど具体的な説明にはなっていない通称「小室文書」が提出されただけでしたが……。
堀江 当時の秋篠宮さまは、すぐにでも小室さんから説明があるだろうと考えていたようです。しかし、小室さんからはそうした動きは出ませんでした。それを「投げたボールが返ってこない」という言葉で江森さんは表現しています。
2018年5月のGW明けの取材で、秋篠宮さまは「うーん」というばかり。長い沈黙のあとに、「(小室さんは)どうするのだろうと思って……」。
――結婚までのロードマップをわざわざこちらで示してあげたのに、それに乗ってもこないのは、結婚しようという意思がないのでは、と思ってしまったのですね。
堀江 困惑半分、立腹半分というところでしょうか。これは、私の推論なのですが、小室さんの態度からは、皇族に対する敬意が感じられなかったのでしょうね。もっと言うと宮さまは、面と向かって御自分をここまで適当に扱う人物に接したことがなかったのかもしれません。
ただ、皇族である私がここまで丁寧に解決策まで示してあげたのに、それに乗っても来ないなんてどういうつもりだろう、と言葉にするのは憚られることですから「うーん」と言うしかなかったような……。
堀江 しかもこの時、宮さまが懸念している金銭トラブルを解決させようという素振りさえないまま、小室さんは外国に留学にいくことが決定していたのでした。そういう不可解な態度に終始する小室さんに対し、秋篠宮さまが不信感をあらわにした瞬間ですね。
また本書にいわく、「眞子内親王は、父親と結婚問題について話し合うことはなかった。加えて小室圭から国民に向けた説明がなされることもなかった」。そういう小室さんでもOKな眞子さまの男性観にも、われわれは大きな疑問を抱いたのですが、それについてはまた別の話ですね。
――小室さんにとって皇女との結婚は、旧家のお嬢さんと結婚するくらいの認識でしかないのかな、というのは感じられましたよね。
堀江 そうですね。ただ、皇女であることがどうやら窮屈でしかたなかった眞子さまにとって、そんな小室さんのフラットさは逆に心地よかったのかもしれないのですが。
このあたりから、秋篠宮家が眞子さまの結婚にワンチームで取り組むという、かつての状況は崩壊していたこととわかります。また沈黙している眞子さま・小室さんに対し、国民の不満も爆発します。そんな中、秋篠宮さまだけが、ご自分の誕生日の会見で「やはり多くの人がそのことを納得し喜んでくれる状況、そういう状況にならなければ、私たちは、いわゆる婚約にあたる納采の儀というのを行うことはできません」などと言及なさいました。
――この発言はなかなかに衝撃でした。しかしその後、納采の儀はないまま、その他、皇女の結婚に必要な儀式もすべて執り行わないまま、眞子さんは小室さんとの結婚を強行しましたよね。
堀江 そうなんですよ。娘の”暴走”を止められなかった父親として、秋篠宮さまにも批判が集まりました。本作『秋篠宮』を読んでいても、皇族の結婚はハードルが非常に高いとか、特殊な事情があることは理解した上で、それでも秋篠宮さまや、そのご家族がどの程度、国民と向かい合えているのか? とか、国民の声を受け止められているのか? 疑問を感じてしまった部分がありますね。
あとね、この本の中……とくに中間部で、何回も秋篠宮さまのことを「学者肌」とかいう言葉で語っているのも、あらためて気になったんですよね。なにか、トゲを感じたのですよ。旧著『秋篠宮さま』(1998年、毎日新聞社)でも、たしかに宮さまを学者視する描き方はありましたが、本作の「学者」という表現には、世知に疎い人というニュアンスのほうが強いのではないか……、と。
――たしかに憲法遵守の姿勢が強いことにも、学者的といえるかもしれませんが。眞子さまの結婚を反対しない理由としても、憲法24条が持ち出されました。秋篠宮さまは、憲法にすごくこだわる印象もあります。
堀江 一般家庭では、娘の結婚の可否に憲法を持ち出すケースは少ないでしょうが、よく考えたら、イギリス王室のエリザベス女王も、その少女時代の勉強といえば憲法とその解釈が中心でした。成長後も君主としての自らの行動規範や、家族に結婚を許可できるかといった問題に対しては、まず憲法や法律を自ら徹底的に調べ、それを遵守するという立場を貫いてきましたからね。立憲君主制の王族(皇族)の行動に正当性を与えるのは憲法という考え方なのでしょう。
――しかし、憲法の「婚姻の自由」で許されているから、眞子さまと小室さんの結婚も許される、許されねばならないという感覚は、どうも……。
堀江 やはり、憲法で正当化しているだけでは? ……という感覚はどうしても残りますよね。しかし『秋篠宮』を読む限り、先例とか、歴史とか、そういう要素には言及もしないし、振り返らない立場を秋篠宮さまが貫かれているのは少々意外でもありました。
――そこはどう読み解けばよいでしょうか。
堀江 皇室の歴史は何千年も続いているけれど、皇室を取り囲む周囲の視線は時代によって激変しているでしょう。第二次世界大戦前と戦後では、まったく皇室が置かれている立場も、皇室に期待されるものも異なっていると思います。
ちなみにエリザベス女王は英国国教会の首長でもあるので、憲法や法律が及ばない問題に対しては、キリスト教の信者として、宗教的な良識に従えばよいという部分もあります。しかし、皇室の宗教を神道として考えた場合、神道には教典もなければ、教義もないんですね。つまり何をしたらNGとするような禁止事項も実は存在しないし、ついでにいうと、どんな状況を救済だと考えるのか、そういう教えもない。
常に自身が誠の心を大事にして生きていくかが問われるのです。だからある意味で、自由すぎる教義の神道に対し、皇族は昔から、不自由な生活を送っているわけです。
だから宮さまとしては宗教、歴史、伝統とかをご自身の行動の規範として明言するわけにはいかず、憲法の婚姻の自由にこだわるしかないといえるかもしれません。でもそれが我々にはどこか引っかかりがある。
――憲法云々ではなく、自分の思考の結果として、ということならば世間の印象も違ったでしょうね。
堀江 そうなんです。しかし、秋篠宮さまはそれを行うことはなかった。また、自分の取材を続けている江森さんに対し、自分の口からは伝えることができないメッセージを世間に代弁してもらうということも、「あえて」行わなかった。
今回の出版も、秋篠宮さま自身の決断がなければ世には出なかったはずなんですね。でも、そういう異例なことを行うという決断はしても、踏み出し方が中途半端でいらっしゃった。
――『秋篠宮』の出版は、実に貴重な機会だったのに、それで不十分な成果しかもたらせなかったというのは、残念だった気がしてなりません。
堀江 はい。結局、「私の気持ちを察しなさい」ふうに振る舞ってしまう秋篠宮さまには、はっきりとした批判や不満を口に出したくても出せなかった、過去の天皇のおふるまいと同質の「何か」を感じてしまいました。
ただ、江森さんがかつて『秋篠宮さま』の中で述べた「日本に連綿として続いた皇室の今を理解する上で大きな一歩になれば」という抱負は、本作『秋篠宮』に引き継がれ、より明確なメッセージとなって伝わったのかもしれません。実にネガティブな形で、ですが……。
――皇嗣殿下となられた秋篠宮さまについても『秋篠宮』では少し触れられていますね。しかしこちらは、眞子さまの結婚問題よりさらにガードが固く、あまり語るべき内容は見られなかったかもしれません。
堀江 重要なのは、秋篠宮さまが悠仁親王の父宮として、即位する可能性が出てきたことです。秋篠宮さまは可能性を明確に否定してはいないものの、「即位するつもりはない」などとの報道が見られますよね。
儀式にかかる費用などいろいろと問題があるとは思うのですが、本音は天皇として即位すると「実記」もしくは「実録」といわれる詳細な伝記が書かれることがお嫌なのではないか、とも勘ぐってしまいます。死後何十年とたってからの刊行となるのが通例ですけれど、たとえば、眞子さま・小室さんの結婚問題の取材で、江森さんが文章にしなかったオフレコの言葉も、すべて文字に書かれて残されてしまうでしょうから。
――最近では、皇族記事が原因でヤフーのコメント欄が閉鎖されたり、『秋篠宮』のAmazonのレビュー欄の書き込みが制限されたり、騒然としてしまっています。眞子さまの結婚問題前後で、皇室への風当たりはすさまじく強くなりましたし、あからさまな批判も増えました。
堀江 本当に危ない状況ですよね。Amazonのレビューも「有用性が高い」とされる最初のいくつかを見ただけで、もう見たくない……ってなるほど。同時に日本全体が現在の皇室のありかたに、さすまじい不満を感じていることも感じ取りました。
――この連載でも、眞子さまと小室さんの結婚は、未来の皇室にいたるまで、大きな悪い影響を与えるであろうというお話になりましたが。
堀江 前回もお話しましたが、皇族方にもプロデューサーは絶対に必要でしょうね。その役割を宮内庁のお役人がたが果たせるのかという疑問はありますが……。
現時点では皇族がたのセルフプロデュース力だけに頼り切ってしまっているように思われます。そして、昨今の秋篠宮家の方々は大変失礼ながら、世間の声に対し、適切に反応できているとはとても思えません。
――秋篠宮家から多額のお金が、眞子さまの口座に送られているのでは、とかいう疑惑の真相はどうなのでしょうか。ご結婚後も疑惑や問題は増えていく一方です。
堀江 そうなんですよね。『秋篠宮』出版準備のときにはすでにこの問題は明らかになっていました。そういうリアルタイムの疑問に答えきれていないのが残念です。また、『秋篠宮』の出版によって、逆に批判は強まった気がします。
かくなる上は、秋篠宮さまがご自分の言葉で、さまざまな疑惑について詳細にお語りになるべき時期が来たのではないか、と。それも憲法云々などではなく、秋篠宮さまご自身のお考えをうかがいたいと多くの国民は願っているはずです。