今は亡き某指定組織の三次団体幹部の妻だった、待田芳子姐さんが語る極妻の暮らし、ヤクザの実態――。
死刑判決を受けた工藤會トップが弁護団を「全員解任」
ここにきて工藤會がまた話題ですね。野村悟総裁と田上文雄会長(稼業名)の裁判の弁護団を「全員解任」て、何があったんでしょうか。
まあ名だたる先生方に引き受けていただいていたのに「死刑」でしたから、納得できないというところもあるんでしょうね。でも、この裁判は先生方のせいではなくて、国策ですからね。
今は亡き宮崎学さんは「工藤會トップの死刑は(福岡県警でなく)警察庁の既定路線」とされていましたし、私もそう思っていましたが、県内では工藤會シンパだけではなくて、福岡県警も「死刑はない」と考えていたようです。
元福岡県警捜査員の藪正孝さんは、ご著書『福岡県警工藤會対策課 現場指揮官が語る工藤會との死闘』(彩図社)で「正直、私は野村総裁らの有罪は確信していたが、求刑どおりの死刑ではなく、無期懲役か懲役刑の最高である懲役三十年ではないかと考えていた」と書かれています。
工藤會を捜査していた方がこう思われるのですから、工藤會関係者が死刑と思っていなかったのはしょうがないかなと思います。
工藤會を公平な視点で取材した本『工藤會事件』
もう一冊、発売前から話題だったのは、村山治さんによる『工藤會事件』(新潮社)です。村山さんは、毎日新聞から朝日新聞に移籍されて定年退職され、今はフリーの立場で取材されていて、記者歴約半世紀の大ベテランです。
予約までしておいた同書は、発売から1週間くらいで安倍元総理の事件が起こってしまい、しばらく積ん読でしたが、先日ようやく読めました。
私は熱心な読者ではないですが、村山さんは「権力監視」の視点に定評があり、『工藤會事件』も、きちんと取材されていると思いました。
新潮社のPR誌「波」では、上智大学の奥山俊宏先生が書評を書かれています。
まあ奥山先生は「工藤會がここまで悪くなったのは、放置していた警察や検察の責任もある」的なニュアンスで評されていますが、そもそも工藤會って、そこまで悪いのかなというのが私なんかにはありますね。
たとえば野村総裁と田上会長の裁判の事件も相当古いですよ。本当のワルなら事件なんかいくらでもあるでしょうに、いっぺん裁判が終わっているのまで出してくるのは、どういうことなんでしょうか?
工藤會の皆様がいい人とは言いませんが、「こんなに悪い集団はない」というアピールのわりに、裁判はしょぼい印象しかないです。
別件の野村総裁の脱税問題もそうですね。村山さんもインタビューで指摘されていますが、「脱税事件ははっきり言って綱渡り」だったそうです。
「工藤會が組員から徴収した会費の一部が野村さんのプライベートな使途に充てられていると見立てて逮捕したのですが、逮捕当日に、組員供述で2011年以降、野村さんが工藤會の経費からプライベートに支出したことはないことが判明する。脱税容疑の前提事実がガラガラと崩れてしまったわけです」
子分さんたちから集めた「会費」は、組織や友好団体の冠婚葬祭や組織関係者の裁判費用、逮捕された組員の家族の生活費などに充てるのがタテマエです。ぶっちゃけ横領する例もないとはいえませんが、野村総裁は実家も資産家なので、それはないかなと思いました。
「組織のプール金の私的利用による脱税」が立件できなかったので、「みかじめ料」の脱税で逮捕(パク)りました。みかじめ料は違法ではありますが、「収益」ではあるので納税義務も発生するというわけです。まあ、みかじめ料はヤクザのシノギですから、これはしょうがないですかね。
インタビューのシメに「捜査にも、起訴にも、判決にも、多くの論点を含んでいるのが工藤會事件です」とおっしゃったのも、深いと思いました。本当はもう少し踏み込んで「工藤會ならなんでもアリ」という捜査の批判もしていただきたかったですね。
私は、この「なんでもアリ」が怖いと思っているのです。たとえば安倍元総理の射殺事件でも、被害者は元総理「だけ」ですが、死刑を望む声も多いようです。
「元総理がお気の毒だから」死刑も国葬もアリというのは、どうなんでしょうね?
ちなみに、工藤會総裁に死刑判決を言い渡したことで「一生後悔する」とスゴまれた足立勉裁判長について、インタビュアーが「エース」と言ったら、村山さんは「『エース』かどうか知りませんが」と答えたのはおもしろいと思いました。普通はスルーするかなと思うんですけど、わざわざ「『エース』かどうか知らない」と念を押したのはなぜなんでしょう?
そんな感じで、工藤會をいろいろ客観的に取材した珍しい本なのでオススメですよ。