——アイドル好きのブックライター・保田と編集部員・B子が、タレントたちの“愛読書”を片手に、人となりを妄想中!? 「サイジョの本棚」前で、おしゃべりが始まります!
◎ブックライター・保田 アラフォーのライター。「サイジョの本棚」担当で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。趣味(アイドルオタク)にも本気。
◎編集部員・B子 猫と暮らすアラサー。芥川賞、直木賞、本屋大賞あたりを一通りチェックしたい、ミーハーな本好き。最近はノンフィクションばかり読んでいる。趣味(ジャニーズオタク)にも本気。
A.B.C-Z・戸塚祥太の愛読書:『人間』
編集・B子 最近さ、読書好きで知られるA.B.C-Z・戸塚祥太が、ピース・又吉直樹の話ばっかりしてるの。ファンの間では、突然ラジオで関西弁をしゃべりだしたり、髪の毛を伸ばしたりしてるのも、「又吉の影響じゃないか」とささやかれているぐらい。
ライター・保田 言わずもがな、又吉さんはお笑い芸人でありながら、2015年にデビュー作『火花』(文藝春秋)で「第153回芥川龍之介賞」を受賞し、作家としても大活躍の人ね。確かに、戸塚さんのプロフィール写真を見ると、“又吉リスペクト”を感じる(笑)。
編集・B子 今年の春に『人間』(毎日新聞出版)が角川文庫から文庫化された時、公式携帯サイト・Johnny’s webの個人ブログ「guerrilla love」で「祝杯だー!」って大喜びしてた。19年に『人間』の単行本が発売された時点で、あらゆるメディアで「愛読書」として紹介してたから、私も気になって読んでみたよ。
ライター・保田 いろんなテーマが含まれた長編だけど、美術の専門学校に通う主人公・永山が、芸術家を志す同世代の男女と共同生活を営む中で起こった苦いエピソードがメインになる第1章は、戸塚さんに刺さりそう。若いころから芸能という表現の世界で生きていて、うまくいく同世代に嫉妬したり、挫折したり、不用意に自意識を削り合って疲弊したような経験があるんじゃないかと思って。
編集・B子 とっつーはジャニーズJr.時代、突然“坊主”にして、ファンの間で大騒ぎになったことがあるのよ。のちに「Myojo」2013年8月号(集英社)のインタビューで理由を明かしてるけど、稽古中に「俺、いてもいなくても変わんないんじゃないか」「特別、五関(晃一)くんみたいに振り付けができるわけでもない」「俺は、表舞台に立つのは向いてない」と思い、ジャニーズを辞めようと決心して、坊主にしたんだとか。
結果的に、メンバーのことを考えて踏みとどまったそうだけど、このエピソードと『人間』の永山は重なるかも。
ライター・保田 表現者じゃなくても、「自分は特別な人間であるはずだ」っていう自意識と現実がズレることって、若い頃は特に経験しがちだよね。『人間』は、青春時代の失敗や挫折が色濃い人ほど、序盤からぐっと引き込まれると思う。
編集・B子 『人間』は4章構成になってるんだよね。ざっくり整理すると、1章は永山の学生時代がメイン、2章は永山の現在と、芸人で小説家の「影島道生」が学生時代の親友「奥」であることに思い至る流れがつづられて、3章で影島との再会や、影島の記者会見の一部始終、4章は永山が両親の住む沖縄で過ごした日々が描かれてる。
ライター・保田 私は「青春の終わりと『その後』」を書いた作品だと感じたけど、複数のテーマが盛り込まれているから、読み込めば読み込むほど、いろんな解釈ができるように書かれているんだよね。そのうえ、文庫化にあたって1万字も加筆されているから、戸塚さんが「祝杯」をあげたくなる気持ちはよくわかる(笑)。
編集・B子 2章で学生時代の恋人・めぐみと再会した時、永山が1章で語ってきた回想と微妙にズレた会話が進むところは、叙述ミステリーみたいで面白かった。会話の相手がさらっと別の女の子になってたり、読んでて「あれ?」ってなるの。
ライター・保田 そこを読むと、かつての親友・影島と偶然再会する場面も、「永山は本当に再会したの?」って疑っちゃうよね。両親の出身地も同じで、どちらも歯を失ってたり……「どちらかの内省のために生み出された、仮想の存在では?」と思っちゃう。再会してないと矛盾するところも出てくるから、答えはないんだろうけど。
編集・B子 とっつーの愛読書でもある太宰治の『人間失格』(筑摩書房)や、ゴッホ作品の引用を見つけた時はテンション上がった。もっと読み込んで、とっつーと“考察合戦”やりたいわー!
編集・B子 さて、『人間』を読んだとっつーにおすすめの本を教えてほしいんだけど、読書家なのに、女性作家の名前を挙げることが少ない気がするんだよね。
ライター・保田 それなら、劇作家でもある本谷有希子の初期作『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(講談社)をおすすめしたい。「自分には唯一無二の演技の才能がある」っていう強烈な自意識を持っている俳優志望の女性が、登場人物を振り回す中編小説。笑ってしまうくらい強めに戯画化されてるから、読み心地は『人間』とはかなり違うんだけどね。
編集・B子 もともと舞台作品で、2007年には佐藤江梨子、永瀬正敏、永作博美ら出演で映画化もされてるんだ。どんな話なの?
ライター・保田 俳優を目指して上京していた澄伽(すみか)が、両親の死を機に田舎に帰省することから始まる。両親の死に全く悲しむ様子のない澄伽と、彼女に異様におびえる妹の清深(きよみ)、寡黙だけど妻に対して横暴な兄・宍道(しんじ)、彼に献身的に従う愚鈍な妻・待子(まちこ)……っていう4人が、普通の日常を続けながら感情をもつれさせて、非日常にたどり着いてしまう話。じめっとしているようで、最終的に突き抜けた爽快感を感じられるよ。
編集・B子 「自分には唯一無二の演技の才能がある」と思っている澄伽って、そのまんま『人間』の永山みたい。
ライター・保田 そうなのよ。で、その「自分は特別である」という強烈な自意識がもろく崩れる様子や、表現衝動と人間性を天秤にかけていいと思っている澄伽の危うさは、『人間』が響いた人なら間違いなく楽しめるはず。情景一つひとつのコントラストが鮮やかで、日常生活が舞台なのに幻想的な光景が浮かび上がるのも、『腑抜けども』の魅力だと思う。
編集・B子 てか、とっつーは本谷作品自体が好きそうだな(笑)。「劇団、本谷有希子」からのオファー、待ってます!
『人間』(角川文庫/著:又吉直樹)※文庫版がおすすめ!
大人になっても青春は、痛い。38歳の誕生日に1通のメールが届いた。呼び起こされる痛恨の記憶と目前に立ち上がるあの日々の続き――。
「神様はなんで才能に見合った夢しか持てへんように設定してくれんかったんやろ。それかゴミみたいな扱い受けても傷つかん精神力をくれたらよかったのに」。
何者かになろうとあがいた青春と何者にもなれなかった現在、上京以降20年の歳月を経て永山が辿り着いた境地は? そして「人間」とは? 又吉直樹の初長編小説に、単行本では描かれなかった新たなエピソードを加えて待望の文庫化。
『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(講談社/著:本谷有希子)
「あたしは絶対、人とは違う。特別な人間なのだ」――。女優になるために上京していた姉・澄伽(すみか)が、両親の訃報を受けて故郷に戻ってきた。その日から澄伽による、妹・清深(きよみ)への復讐が始まる。高校時代、妹から受けた屈辱を晴らすために……。