• Wed. Aug 10th, 2022

「闇金」新入社員のお仕事とは? 夜逃げして消えた子どもの友達対応に「胸が痛む」

ByAdmin

Aug 6, 2022

 こんにちは、元闇金事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。

 入社2日目。事務所に到着すると、定刻の15分ほど前にもかかわらず社員全員がそろっており、机上に伏せて仮眠を取っていました。どうやら夜逃げしたM自動車社長の債権回収が明け方までかかったようで、みんなが家に帰った様子はなく、ホワイトボードの結果欄をみれば、すべての物件(ここでは会社、社長の自宅、連帯保証人の自宅を指す)に占有中と書かれています。

 仮眠の邪魔をしないよう、掃除機は使わずにモップで床清掃を済ませると、まもなくして社長が到着されました。私が出勤した時には誰一人として反応しなかったのに、社長が事務所に現れると同時に全員が体を起こして一斉にあいさつをされたので、その反応の違いに驚いたことを覚えています。

ジャニーズアイドル歌手顔負けの「闇金」先輩社員・佐藤さん

 朝礼が始まり、社長に呼ばれて前に出ると、私のことをみんなに紹介してくれました。そのほとんどが30歳前後であった男性社員たちは、まだ24歳だった私のことを見定めるように確認した後、一人ずつ順番に自己紹介してくださいます。どうやら社員のみんなは、それぞれが空手道場やボクシングジムに通っているようで、体育会系のノリが強く、従業員同士の会話においての返事は、「押忍」で統一されているようでした。

 社長と営業部長を除いて怖い顔の人はいませんが、営業社員は皆一様に青や紫など派手な色のスーツを着用しており、ホストの人たちと変わらぬ雰囲気が感じられます。一番の古株である佐藤さん(26)はジャニーズのアイドル歌手のような顔をした優男で、ずば抜けた営業成績をたたき出す稼ぎ頭と聞きました。

「営業1課の佐藤です。よろしくお願いします」

 自己紹介をしてくれた時に目が合い、自然と微笑んでくれた瞬間には、直視できずにうつむいてしまったほどカッコよかったです。私情を明かせば好みのタイプで、どんな人なのか大いに気になり、恋心に似た感情が芽生えてしまいました。

 朝礼が終わり、そのまま営業会議が始まると、営業部長より回収の現状報告がなされます。

「昨日は、遅くまで、お疲れさま。みんなの頑張りもあって、債務者の会社と自宅を確保できました。債権(この時は150万円)回収の保全は取れているけど、他業者に破られる可能性もあるから、事件屋(揉め事や争い事に介入し、金銭的利益を得ることを生業とする裏稼業)に引き渡すまでは常に警戒しておくように。社長から、なにかありますか?」
「おそらく(夜逃げした)債務者は、このまま出てこないだろう。債権回収で余計に金が取れたら、いつも通り雑収入であげるから、売掛金の交渉と物件内にある残置物の処分を進めて、保証人も詰めろ」

 よその金融業者に金を持っていかれるくらいならウチで全部取れ。格言めいた社長の口癖は、いまも耳に残っています。

 朝礼終了後まもなく、連帯保証人の代理人を名乗る弁護士から、早速に電話がかかってきました。重要な電話がかかってきたときには、その通話をスピーカーマイクで行います。相手の出方や勢いを探るため、社員全員で共有して、今後の方針を決める材料にするのです。

「依頼人の所有物件から、すぐに退去してください。これ以上、強行的な取り立てを続けるなら、刑事告訴しますよ」
「ウチは契約通りにやっているだけだ。期限の利益を喪失している以上、一括決済以外は受けつけられない。警察を呼んでもいいし、訴えるなら好きにしてくれ」

 弁護士相手にも臆することなく、むしろ挑発的に対応される営業部長の姿に、会社の勢いみたいなものを感じました。実際、すぐに警察から電話が入りましたが、民事だからと一蹴して、まるで相手にしません。

「お前は、裁判官か? 民事の話に口を出すなよ。よく考えてモノを言ってこい」
「そうじゃないけど、あまり強引にやらないでくださいよ。なんとかお願いします」

 民事不介入の原則を楯に、弁護士にも怖いものなしといった姿勢で応対する営業部長。その姿を繰り返し目撃することで、この組織にいる自分が強くなった気がしたことを覚えています。

 その後、占有物件の玄関に貼られた貼り紙を見たと、銀行や取引先、町内会の方などから安否伺いの電話が相次ぐも、担当者不在を理由に応対しません。夕方になって、お孫さん(連帯保証人である息子の子ども)の友人を名乗る少年から「連絡帳を届けに来た」と連絡があった時には、何と答えたらいいかわからず困惑しました。

「○○くん、明日の社会科見学には来れるの?」
「ごめんね。明日は、ちょっと行けないかもしれないわ」
「学校には、いつから来られますか?」
「……具合がよくなったらね」

 無垢な声で問われたのに、適当な嘘を言って誤魔化した事実、そしてこれが私の仕事であることに、胸が痛んだのは言うまでもないでしょう。

 初日は、伝票の書き方や信用情報端末の扱い方、印鑑証明の管理方法などを先輩の愛子さんに教わりましたが、この日は社長による実務研修が実施されます。午前中に、利息の計算方法や手形小切手の仕組み、不動産謄本の見方などを教わりましたが、初めて聞く言葉ばかりで混乱しました。その上、早口で滑舌の悪い社長の言葉を聞き取るのが大変で、ひどく疲れた記憶があります。

 おそらくは、社長はコンプレックスに感じていたのでしょう。なんと言ったのか聞き取れず、やむなく聞き返すと、あからさまに顔色が変わり不機嫌になるので、それが怖くて聞き返すこともできなかったのです。いまでいえば完全なパワハラ行為と思われますが、その概念すらない時代の話なので、当時は泣き寝入りするほかありませんでした。

 昼休みに向けて、昼食の注文を集めるのは、私の仕事です。自由行動なので外に食べにいく人もいますが、出前を頼む必要があれば、その注文をする役割を担っていました。みなさんと言葉を交わすのは初めてのことで、名前を間違えないよう座席表を睨んでから、一人ずつ声をかけていきます。こういう時の順番は、年功序列。社長と営業部長は、愛妻弁当の用意があるというので、古株社員だという小田さんから注文を聞くことにしました。

「歓迎会じゃないけど、今日は外で食べようか。るり子さんの分は、おれがごちそうするよ。佐藤くんも、一緒にどう?」
「はい、ご一緒させていただきます」

 お弁当を用意してきていたので、初めはお断りするつもりでいたのですが、佐藤さんが来るなら話は別です。持参のお弁当は夜に食べることにして、小田さん行きつけの小料理屋に連れて行っていただくと、オーダーを済ませるなり小田さんが言いました。

「社長の研修、どうだった?」
「初めて聞くことばかりで、ちょっと大変ですけど頑張ります」
「早口だから、なにを言ってるか、よくわからないでしょ? 大阪生まれの人だからか、ちょっとせっかちなんだよね。聞き返すと怒るしさ」

 愚痴っぽい人なのか、社長の悪口のような話ばかりするので口をつぐんでいると、佐藤さんが言いました。

「るり子さんは、結婚してるの?」
「いえ、していないです」
「彼氏は、いる?」
「いるわけないじゃないですか、私なんかに」

 あまりに恥ずかしくて、ちょっと強めに言ってしまったようで、テーブルに沈黙が漂います。空気を変えるべく、逆に質問をして、壊れた場を取り繕ってみました。

「お二人は、ご結婚されているんですか」
「おれは結婚して、子どももいるよ。佐藤は、まだだよな?」
「押忍、まだです。そろそろしたいですけどね」

 佐藤さんは、独身。それを聞いて、少しうれしく思いましたが、すぐに長く付き合っている彼女がいると聞いて落ち込んだ次第です。

※本記事は、事実を元に再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)