ジャニーズJr.時代から始めた“ジャニーズモノマネ”を武器に、ここ数年、バラエティ番組への露出が急増したA.B.C-Z・河合郁人。木村拓哉、KinKi Kids・堂本剛&堂本光一、嵐・松本潤、KAT-TUN・亀梨和也など、そのレパートリーは枚挙にいとまがなく、2020年5月放送の『ものまねグランプリ 次世代ものまね芸人No.1決定戦&歌ものまねNo.1決定戦スペシャル』(日本テレビ系)では、堂々の準優勝に輝いたが、ジャニーズファンの間では“賛否両論”。
「そっくり!」と絶賛する人がいる一方、「全然似ていない」とし、「相手をバカにしている」などと苦言を呈する人も少なくない状況だが、プロのモノマネタレントは、河合の芸をどう見ているのか――? 今回、音大出身のプロ音楽講師であり、榊原郁恵、MISIA、平原綾香などのレパートリーを持つ技巧派モノマネタレント・知香さんに、彼の代表作である「木村拓哉モノマネ」の歌や動きを分析、その完成度を評価いただいた。
河合郁人と木村拓哉は「声の出し方からして違う」
――まず、河合郁人さんによる「木村拓哉モノマネ」に対する率直な印象を教えてください。
知香さん(以下、知香) 河合さんのモノマネだけ見ると似ている感じがするんですが、木村さんと比較した場合、声の出し方からして違うことがわかります。河合さんの声はストレートで、よく言うとミュージカル向きである一方、木村さんの声は甘くて柔らかい、たとえるなら倖田來未さんの男版というか、歌詞に濁点がつくような歌い方をしているんです。
また、河合さんは一つひとつの歌詞をしっかり歌い、最後の一音一音まで客席に届けようという必死さがあるんですが、木村さんはソフトに息を吸って、優しく歌い、語尾は抜いて歌う傾向がある。そういう違いもありますね。
さらに言うと、木村さんは歌う時、片腕を内側に入れるなど、体全体をよく動かしているのが特徴で、ロン毛だった時代は、内側に入れた片腕を外に振り切る瞬間に、髪の毛が揺れたりしていたものの、河合さんはそういうポイントを押さえていないのが気になりました。
――歌声だけでなく、仕草の面でも、細かく見ていくと違いがあるのですね。
知香 木村さんが過去に披露した童謡「どんぐりころころ」の独唱(※)を、河合さんがモノマネする映像を見たのですが、比較するとやはり違いましたね。一つ挙げるとすると、歌唱中、ペットボトルの水を飲む場面。木村さんは口を半開きにしたまま水を口に含み、飲むときも少しはにかんで、下唇を噛むなど、一つひとつの動きがクール。一方の河合さんはまるで初めてチューするみたいに口をとんがらせて、ごっくん……と、見ている側が笑っちゃうような飲み方をしていました。木村さんのマネをしているつもりでも、河合さんご本人が出てしまっているんですね。
(※)『うたばん』(TBS系)2002年12月5日放送回の企画「うたばんのど自慢」で、木村が平井堅の「大きな古時計」をオマージュする形で披露した。
――河合さんが木村さんのライブバージョンの歌マネするとき、ものすごく“溜めた”歌い方になるんです。それがバラエティで笑いどころとなっているんですが、その点はどうでしょう。
知香 木村さんご本人はそんなに溜めていないです。結局、モノマネだから、“ネーミング”がほしいのかもしれません。例えばMISIAさんって、歌っている最中によく手を動かすんですが、そのモノマネに「蠅を振り払っているように見えるMISIA」といったタイトルをつけられたら、もうそれだけで面白い。河合さんもそういうネーミングほしさに、あえてああいった歌い方をしているのではないでしょうか。
――河合さんのモノマネに否定的な人は、オーバーなモノマネを、「本人を笑いものにして、バカにしている」と捉えているようです。
知香 歌声って性格とイコールするもので、河合さんのまっすぐな歌声からは、性格の良さといいますか、少年らしさやピュアな一面を感じさせます。私は彼と話したことはないですが、良い人であることはわかるんです(笑)。ただ一方で、オーバーな歌い方には、恥ずかしがり屋な部分も垣間見えます。その恥ずかしさを隠そうとして、笑いに走ってしまうところがあるのかもしれません。
――河合さんが恥ずかしがり屋なのは、A.B.C-Zファンにはよく知られています。
知香 そうですよね。河合さんは、木村さんのようなナルシストになりきれていない。木村さんは恋愛の歌を歌う時、カメラに向かって、首を傾けたりするんですが、彼はそのレンズを“彼女”に見立てている。河合さんも、仕草自体はマネするんだけど、レンズを“彼女”と見ていない。そんな違いもあるのではないでしょうか。
――では、現段階での河合さんの「木村拓哉モノマネ」の完成度は、100点満点中何点だと思いますか?
知香 河合さんには“伸びしろ”があるということを踏まえ、あえて点数をつけるとすれば、65点! ファンの方は「低い」と感じるかもしれませんが、これから練習することによって、さらに満点に近づけるという期待を込めた点数です。
――具体的に、どうしたら河合さんのモノマネの完成度は上がりますか?
知香 河合さんのように歌声にピーンと張りのある人が、甘く柔らかく歌う――つまり張りがないように歌うのは大変なんですが、一つ提案としては、お風呂に入っている時に練習すること。リラックスして力が抜けた状態で、鼻歌みたいに歌う練習をすると、甘く柔らかい声が出しやすいと思います。もしくは、お酒を飲んでほろ酔いの状態で練習するのも、力が抜けるという点でオススメです。
またこの“甘く柔らかく”というポイントは、息を吸う時から意識してほしいです。パン屋さんの近くを通った時、「あっいい匂いがする」と思って、鼻をクンクンとしたことないですか? あの感じで、鼻から甘く優しく息を吸うところから始めるといいと思います。
――動きに関してはどうでしょうか?
知香 マネする人によってマイクの持ち方を変えたり、髪の揺れなどを意識するのはどうでしょう。河合さんは対象の人物をよく研究されていて、ダンスもうまく、「誰のモノマネをしているのか」は、見る側に伝わっているんですが、これらの点を取り入れると、ジャニーズにあまり詳しくない人にも、しっかり伝わるモノマネになると思います。
また表情や仕草一つとっても、ただ表面をマネるだけでなく、イントロ中から「木村さんはこの曲を歌う時、どんなことを感じているんだろう? 誰に向けて、どんな思いを伝えようとしているんだろう?」と想像をめぐらせることで、さらに似せられるのではないでしょうか。こうした練習を重ねれば、木村さんはもちろん、KinKi Kids・堂本剛さんの歌マネも、より似てくると思いますよ。
――河合さんが『ものまねグランプリ』で準優勝した際、木村さんから「惜しい、準優勝(スクロールした先)登れる山、あるね」というメールをもらった有名な話があるのですが、知香さんのアドバイスは、まさに「登れる山、あるね」と感じさせるお話でした。
知香 歌唱力でいうと、河合さんが木村さんに劣っているなんてことは全然ないんですよ。「どちらのほうが歌唱力が上か?」とズバリ聞かれると困ってしまいますが……河合さんのほうが、歌に関してはうまく聞こえます。ただ、「魅せる木村と聞かせる河合」というか、それぞれに魅力が違うんです。
――え! そうなんですか?
知香 河合さんは声がいいし、一音一音外さない正確性もすごい。カラオケの精密採点に向くタイプです。ジャニーズの方って、基本的に浅い呼吸の胸式発声で、喉がウッと詰まる感じになり、なかなか深みのある声にならないんですが、河合さんは腹式に近い発声をしていて、いいポジションで歌われているなとも思います。
しかし、特に恋愛の歌で、聞く人を魅了するのはどちらかというと、木村さんなんですね。もう、イントロからアウトロまですべてに感情がこもっていて、カッコよくて……「歌唱力うんぬんの話にならない」とも言えます(笑)。ただ、河合さんが木村さんのモノマネをすることで、自身の恥ずかしがり屋な面を克服し、恋愛の歌がうまく歌えるようになると思います。
――先ほど言っていた「ナルシストになりきる」という点ですね。ちなみに、河合さんにぜひモノマネをしてもらいたいジャニーズタレントっていますか?
知香 河合さんは、嵐・松本潤さんのダンスモノマネをされていますが、ぜひ歌マネにも力をいれてほしいですね。というのも、背丈や骨格が自分に似ている人のモノマネって、似やすいんです。河合さんと松本さんはそこまで身長差がないようですし、顔も似ているので、歌声も似ると思いますよ!
知香(ともか)
モノマネタレント。榊原郁恵、MISIA、平原綾香、鬼束ちひろ、セリーヌ・ディオン、ホイットニー・ヒューストンなどレパートリー多数。東邦音楽大学、大学院で声楽を学び、音楽講師としての顔も持つ。
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