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『ザ・ノンフィクション』暴力を振るい介護施設から出禁に……「ありのままでいいじゃない ~いしいさん家の人々~後編」 

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。8月7日の放送は「ありのままでいいじゃない ~いしいさん家の人々~後編」。

あらすじ

 介護業界でも異色の施設と呼ばれる、千葉県の宅幼老所「いしいさん家」。認知症や統合失調症など、暴力・暴言といった問題行動を理由に他施設から「お断り」された人たちが集まっている。

 「いしいさん家」を運営する石井英寿は大手介護企業に就職するも、効率重視の施設運営に違和感を覚え、いしいさん家を16年前に立ち上げる。

 石井は「暴言・暴力とか、唾を吐いたりとか、そういった人たちを向精神薬とか、薬で抑えつけられちゃっている人とか、縛られている人も見てきたので、いっぱい。80~90歳でそんな人生の最後でいいのか」「(薬を)抜いちゃおうよ、『ありのままのその人でいいでしょ』というのが根本にあって」と話す。

 いしいさん家ではスタッフと利用者はほぼ同数と、手厚い介護をしているが、「ありのまま」を受け入れる施設スタッフの苦労は相当なもので、スタッフの手には生傷が絶えない。

 デイサービスでいしいさん家を利用する、46歳の2児の父親で統合失調症のヤマピーは、普段は穏やかだが、ふとしたことで態度が一変、激昂する性質だ。ヤマピーは医師である父親からの暴力、暴言がひどかったといい、事あるごとにその話をスタッフに延々とする。ヤマピーの“もっと話を聞いてほしい”という不満は日に日に強くなっていき、それをたしなめたスタッフの福田に対し、アザが残るほどの暴力を振るってしまう。

 福田をはじめ5人のスタッフがいしいさん家から去り、石井が月に20日夜勤を行う過酷な勤務体制になる。ヤマピーはいしいさん家から出禁になり、自宅でも外でも大暴れして、警察官も振り切ってしまうような有様で、妻に家を追い出され、実家に身を寄せている。

 石井は、妻であり共に施設を運営する香子にも、外出の目的を伝えないまま姿を消すことがある。そのため、スタッフは石井ではなく香子へ不満を伝えている状況で、こうした声を聞こうとしない夫について、「彼は天狗になっていた。『威張らずいこうね』『おごらずいこうね』ということだけ伝えた」と香子は話す。

 そこで、石井は全職員を集めたミーティングをあえて外部施設を借りて行う。会は和やかな雰囲気で進んだものの、その最後に石井はヤマピーの再受け入れを提案し、ミーティング会場はどよめく。石井、もしくは妻の香子がいるときだけヤマピーを受け入れ、スタッフに手を出したら支援をやめるという前提で受け入れることになったものの、スタッフの一人が思いもかけない提案をする。

 それは、もとは介護職だったヤマピーに、施設利用者としてではなくボランティアとしていしいさん家に参画してもらう、というものだった。その意外すぎる提案にヤマピー自身も困惑気味で、当初は何もせず施設の片隅に座っていたが、番組の最後では介助の手伝いをしているシーンも映されていた。

 いしいさん家は代表・石井の信念に基づいて設立され、また石井自身が率先して働いている状況だ。それゆえ、ほかの職員が何か思いや不満があっても自然と「言わせない」雰囲気が出来上がっていたのだと思う。

 いしいさん家を辞めた福田は、石井について「最終的には石井さんの考えに基づいている。一切誰にも手を出させない、自分のやり方を貫く」「職員がどれだけの疲弊と工夫をして、それを石井さんは『わかっている』と言うけど……」と胸中を話していた。

 結局は、自分のしたいようにしたい石井は、典型的なワンマン経営者に見えた。事業を軌道に乗せていくようなときは、ワンマンならではのパワフルさが必要なようにも思う。信念もパワーもない人は、そもそも経営者の器ではないだろう。

 人を率いる立場で成功している人には「他人の意見なんて聞かない」という、ワンマン的な、我の強さを感じさせる人が少なからずいて、石井もそのタイプに見えた。ただワンマン経営者は、順調なときはいいが、逆風には弱いのではないか。ワンマンゆえに、経営者自身が「逆風だ」と感じたとき、組織はピンチに陥ってしまうように思う。

 今回、石井はスタッフが5人離脱する大逆風を経験し、周りの声に耳を傾けるようになったかに見えた。ところが、まさかのヤマピー再受け入れを自分の意思で通しており、いしいさん家は良くも悪くも、 やはり石井の影響が非常に強い組織に見えた。

 一方、出禁が解かれ、いしいさん家に戻ったヤマピーは、顔にモザイクがかかっていても「ウキウキしている」のが伝わる声色だった。しかし、ケアされる側でなく、「ケアする側に回る」というまさかの条件に、当初は文字通り頭を抱えていた。

番組の最後では介助の手伝いをしようとする様子が映っていたが、ヤマピーは『ザ・ノンフィクション』の前後編だけでも十二分にやらかしており、素直に「めでたしめでたし」とはいかなそうな感じもする。

 ただ、この「ケアされる側だと思っていた人をケアする側に回す」という逆転の発想には、希望を感じた。ヤマピーを見て、「私はかわいそうな被害者で、だから周囲は自分をケアしてほしい。自分の話を聞いてほしい」という自己憐憫(じこれんびん)の感情を四六時中抱えているのは、非常に生きづらそうだと思ったし、終わりがないようにも思った。

 終わりなき自己憐憫から目をそらさせる、という意味でも、ケアされる人をケアする人にする、ということへの可能性に期待する。その後の、いしいさん家も見たい。