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ひとり暮らしのムリしない料理のコツは、ほどよくラクに「そこそこおいしい」! 自分のための食事をどうする?

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介! 

今月の1冊:『68歳、ひとり暮らし。きょう何食べる?』大庭英子

 40代の後半に入って、食欲が落ちてきたことを如実に感じる。

 「しっかり食べる」がすこやかな生活の基本と、ずっと思ってきた。実際一日三度の食事を大切にしてきたが、食欲が湧かないこともあれば、めんどうくさい気持ちが勝って、適当に済ませてしまう回数も増えてきている。

 平均寿命を考えると、人生はまだまだ長い。今からこんなことではダメだよなあ……と暗い気持ちになってしまう。フードライターなんて看板を掲げてる人間が言うことではないと思うが、このところの正直な気持ちなんである。

 だから書店で、本書のタイトルを目にして思わず手に取った。

 著者の大庭英子(おおばえいこ)さんは福岡県出身、料理研究家として40年以上のキャリアをもつベテランだ。料理関係者からとかく厚い信頼を置かれている方で、「困ったとき、初心に帰りたいときに、大庭さんの本を開く」なんていう人はかなり多いのである。68歳でひとり暮らしの大庭さんは、どんなふうに「きょう何食べる?」という思いをキープしてきたんだろう。

「自分のためだけに食事を作ることを面倒に感じることもあるでしょう。そこでこの本では、わたしが毎日食事を作るなかで生まれた、料理がラクになってちょっと楽しくなる、そんな工夫をあれこれ紹介しました」(『はじめに』より)

 主食(米やパンなど)のほかに用意するのは2皿と決める、毎日栄養バランスをよくしようとせず1週間単位で考えるぐらいでOK、といった基本的な考えの中に、「作りおきと作りたてを組み合わせ」よう、というのがあった。ストンと来た。

 作りおきは、言い換えれば「あまりもの」でもいいと私は読解する。そして作りたては目玉焼きひとつだって、いいのだ。なんなら、ごはんを炊くだけでも作りたてがひとつ生まれる。やる気が出ない日の私の食事が、急に太鼓判を押されたような気持ちになって、ちょっと元気が出てきた。

 どの文章も「こうしなさい」ではなく、「こうすると便利ですよ、安心ですよ」といった圧のない筆致で、やさしい。読む側が「自分だったらこうすればいいかな」とゆるく紐解きつつ考えられるのも、ありがたい。

 冷凍活用のくだりなど(13ページ)「ご飯は炊きたてが一番おいしいと知ってはいるけれど、冷凍してもそこそこおいしいから」なんて表現が、うれしくて。そう、おいしさ最優先でムリして頑張るよりも、ほどよくラクに「そこそこおいしい」でじゅうぶん、という人も多いはずだ。

 日々の料理をどう作りやすくするか。ひとり分を賢くラクに作り続けるにはどうするか、という大庭さんの工夫の数々がつづられていく。大根やにんじんは千切りにして保存、青菜ならひと束丸ごとゆでておく。そしてそれらを実際にどう使うかが、レシピで示されていく。

 ストックしておくと便利なものとして挙げられるもののひとつ、切り干し大根はアーリオ・オーリオやチンジャオロースーの具にも使われる。はんぺんはアボカドとチーズ焼きに、魚肉ソーセージはじゃがいもと炒めものにするなど、「こんな風に使ってもいいのか」という発見が楽しく、視野が広がる思い。

 手軽なアイディア料理だけでなく、手間のかかる料理も紹介される。ラクに済ます日もあれば、好きなものをきちんと作る日もあるというメリハリ。「ひとりでもとんかつ!」のページには見上げるような思いになった。「大好きなとんかつは、やっぱり自分で揚げるに限ります」というセリフを私は68歳のときに言えるだろうか。言える気骨を持っていたい。なんだか刺激されて、そんなふうにも思えてきた。

 ああ、欲を言えば、「食欲とやる気」を保ち続けるために、大庭さんが大事にしていること、実践されていることなども知りたかった。自炊を続けていく上での彼女なりのマインドセット、みたいなことも。どうやって(仕事ではなく日常の料理を)作る気持ちを燃やし続けてこられたのか、是非ともうかがってみたい。

 ひとり暮らしだけでなくふたり暮らしにも、また幅広い年代の方にも参考になる本だと思う。最後になったが、邑口京一郎氏による料理写真がまた実にいい。 誘われるようなぬくもりと香りがあって、料理心がくすぐられる。

 しっかりと一生、料理を続けていきたいあなたに。

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