「子ども同士の付き合い」が前提のママ友という関係には、さまざまな暗黙のルールがあるらしい――。ママたちの実体験を元に、ママ友ウォッチャーのライター・池守りぜねが、暗黙ルールを考察する。
近年、子どもに人気の高いマンガの実写版/アニメ版映画に、PG12(12歳未満・小学生以下の子どもは、保護者の助言・指導が必要)が付けられることは少なくない。その理由は、暴力描写が含まれるからで、例えば『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』や『ブレイブ―群青戦記―』『東京リベンジャーズ』も、形式上、小学生以下の子は、保護者と一緒でなければ鑑賞ができないようになっている。
しかし、保護者がこうした指定を守ったとしても、ICT教育の一環でiPadやタブレット端末を1人1台付与されている昨今の小学生は、操作さえ覚えれば、すぐに暴力描写がある動画にたどり着いてしまうのが現状だ。今回は、暴力描写のあるアニメやゲームへの接し方で、ママ友と対立したという女性が、「暗黙のママ友ルール」について話してくれた。
「Nintendo Switch」を買い与えない、厳しすぎるママ友
敦子さん(仮名・39歳)は、首都圏で7歳になる小学1年生の男子を育児中。息子は好奇心旺盛で、保育園の年中頃から絵本を1人で読むようになり、その延長線上で、学童にある漫画も読むようになったという。
「学童には『ドラえもん』(小学館)から、『鬼滅の刃』(集英社)まで、子どもに人気の漫画がそろっています。『鬼滅の刃』には人が血を流すような残酷な描写も多いので、少し読ませるのに抵抗がありました……まぁでも、あくまでエンターテインメントですし、禁止はしなかったです」
息子の漫画やゲームに関して、「最初から与えない」という選択肢はないと語る敦子さん。しかし、同じ学年の男児ママである千明さん(仮名・43歳)の教育方針が気になるという。
「千明さんには小3になる女の子もいるんです。そのくらいの学年になると、周りはみんな『Nintendo Switch』のゲームで遊ぶようになるそうですが、彼女は『娘には絶対にゲームを買わない』と話していました。理由を聞いたら、『ゲームの時間を決めても、どうせ守らないから』って……まだ買ってもいないのにと、驚きましたね」
千明さんの娘は「しっかりした子」という敦子さん。自身の息子と千明さんの息子が一緒に公園で遊ぶ時には、一緒にやって来て面倒を見てくれるという。
「千明さんは、割と『こうだから』と決めつけてものを言うタイプなんですが、ほかのママ友とも、『あの子ならゲームの時間を守るのでは?』って話しています。なんでも、ゲームを持っていないからって、同級生との約束に呼んでもらえなかったこともあったそうで……本当に、娘さんがかわいそうですよ。でも、千明さんは私より年上だし、小3のお姉ちゃんを育てているので、彼女の子育てに意見をしづらいんです。というか、よそのお宅の教育方針に何か言うって、基本はしませんよね」
一方で千明さんは、ちょっとした雑談の中でも、自分の教育論を披露するそうだ。特に、子どもの漫画やゲームの内容に関しては、一家言あるらしい。
「ママ友同士で、『鬼滅の刃』の遊郭編を子どもに見せるかという話題になったんです。みんな基本的に、『子どもが楽しみにしているから見せる』というスタンスだったんですが、千明さんだけは『ああいうのを見せたら、乱暴になるから見せない』と言って引かないんですよ。よく聞いてみると、千明さん自身も、高齢の親にいろいろと制限されて育ったそうで、例えば、キアヌ・リーヴスが出ていた映画『スピード』も、『野蛮だから』という理由で見られなかったとか」
敦子さんの息子は今年の誕生日、祖母に「Nintendo Switch」をプレゼントされたというが、ここでも千明さんからいらぬ助言があったそうだ
「私も子どもの頃に『Nintendo DS』シリーズで遊んだ記憶があるので、ゲーム機を買い与えることに抵抗はありませんでした。ある時、うちの子が千明さんの息子に『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』という任天堂のキャラクターたちが戦うゲームソフトの話をしたんですが、千明さんがわざわざ私に『あんまりゲームさせないほうがいいんじゃない? それに、暴力的なゲームをさせると、乱暴な子になるよ』って言ってきて……ものすごく気分が悪くなりました。ママ友の教育方針に口を出さないって、私は暗黙のルールだと思っていたんですが」
千明さんの息子はゲームを買い与えられていないため、友達のゲームを「遊びたい」といって独占することがあるという。
「千明さんは、子どもが外でどんな遊びをしているか知らないんだと思います。ゲームを持っていないと、友達の輪に加わりにくいことも、理解していないのかもしれないですね……ただ、私がそのことを直接千明さんに言うことはありませんよ。さっきも言った通り、ママ友の教育方針にあーだこーだ言うって、しちゃいけないことだと思うんですよ。だからこそ、そのルールを簡単に破ってくる彼女に『なぜ?』と驚いてしまいます」
夏休みになると、子ども同士で遊ぶ機会が増える。コロナ禍の影響により、小学校の校庭開放やプールの授業、ラジオ体操などが軒並み中止になっている中、低学年の児童は、近所の公園に集まったり、ママ同士が交流のある家に集まったりするケースが多いのではないだろうか。
この年頃の子どもが集まると、「Nintendo Switch」や「ポケモンカード」などを使った遊びが人気のようだが、この場合、ゲーム機やカードの類いを買い与えるかどうかは、その家庭で方針が異なる。ここにママ友が対立するきっかけが転がっているような気がする。
というのも、子どもがまだ赤ちゃんの時は、「全然泣き止まない」「離乳食を食べない」など、共通の悩みで盛り上がることもあったママ友同士だが、ある程度子どもが成長すると、そうした悩みも少なくなり、逆に、家庭ごとの教育方針が浮き彫りになってくる。その際、ママ友に対して、モヤッとした感情を抱えやすくなるものなのだ。
今回のケースでいうと、子どもの娯楽に基本的に寛容な敦子さんと、暴力描写がある漫画やアニメ、またゲームは“悪”と考える千明さんは、互いにモヤッとしたものを感じているように思う。
客観的に見ると、千明さんの「物事の判断がつかない幼少期に、ちょっとでも暴力的なものを見せると、人格形成に影響する」という考えは、かなり思い込みが強い印象で、確固たるエビデンスも見当たらないだけに、思わず口を出したくなるだろう。しかし、ここで敦子さんが「何も言わない」を徹底しているのは、ママ友付き合いにおいて重要な姿勢であると感じた。
自分と違う意見や考えであっても、バックグラウンドや経済状況などは各家庭それぞれ違う。そもそも育児はどうしても、自分がどう育てられたかという経験がベースになりやすい。そのことを踏まえて、敦子さんと同じように、他人の家庭の教育方針に自分の考えを押し付けてはいけないことを、「暗黙のママ友ルール」と認識している人は多いだろう。
一方で、ママ友付き合いでは、「こちらのほうがいいに違いない」というおせっかいの精神が湧きやすい面もある。育児の苦楽を経験した仲なら、わかってもらえるという感覚が強いからだ。千明さんもそんな思いで、敦子さんに忠告してしまったのかもしれないが、その認識はあらためたほうがいい……そう感じた今回の事例であった。