米AMCで2008年1月から13年9月まで5シーズンにわたり放送し、多くのファンを魅了した『ブレイキング・バッド』。
高校で化学を教える傍ら、家族との生活を支えるためにアルバイトもこなす“さえない中年男ウォルター”が、肺がんのため余命2年と宣告を受ける。残される家族が生活に困らないようにと、ドラッグの製造・販売を決意。学校を中退してドラッグ製造で生計を立てていた元教え子ジェシーとビジネスパートナーとなり、化学の知識を生かして最高純度の覚醒剤を作り上げ、闇落ちしていく――
という、これまでにないストーリーで、作品はたちまち大ヒット。ゴールデン・グローブ賞やエミー賞を総なめし、アメリカドラマ史上最高傑作と呼ばれるまでに。
ファンの期待に応えるように制作されたエピローグ映画やスピンオフドラマも大好評で、本編放送終了から9年たった今でも、世界中に熱狂的なファンを持つ。
今回は、そんなカリスマ的人気を誇る『ブレイキング・バッド』のメインキャストについて、今も続く交流や現在の活躍を紹介しよう。
ウォルター・ホワイト役:ブライアン・クランストン(66歳)
主人公のウォルター・ホワイトを演じたブライアン・クランストン。現在もジェシー役のアーロン・ポールとの交流が続き、ファンを喜ばせている。また俳優業も好調で、押しも押されもせぬ人気俳優として活躍中だ。
ドラマが終了した13年に、ブロードウェイ作品『All the Way』の主人公リンドン・B・ジョンソン大統領役にキャスティングされ、トニー賞演劇部門主演男優賞を受賞するなど高い評価を得た。同作は16年に『オール・ザ・ウェイ JFKを継いだ男』としてミニシリーズ化されたが、そこでもジョンソドン大統領役を演じ、エミー賞主演男優賞にノミネート。
17年には、映画『ネットワーク/Network』(1976)の舞台化作品『Network』のロンドン公演、18年にはブロードウェイ公演で主演。イギリスではローレンス・オリヴィエ賞の最優秀主演男優賞などを受賞し、アメリカでも2回目のトニー賞演劇部門主演男優賞を獲得した。
19年には、『ブレキング・バッド』で共演し大の仲良しとなったジェシー役のアーロン・ポールと共に蒸留酒のメスカルを販売するブランド「Dos Hombres」(スペイン語で2人の男)を設立し、大きな話題に。
20年にはテレビドラマ『Your Honor/追い詰められた判事』に主演。尊敬される判事でありながら、息子が起こしたひき逃げ事件の被害者が凶悪犯罪組織のボスの息子だったことから、隠蔽行為を働くという複雑な役どころを熱演。ゴールデン・グローブ賞にノミネートされた。
今年4月、スピンオフ作品『ベター・コール・ソウル』のファイナルシーズンに、ウォルター役で出演することが発表され、ファンを大喜びさせた。
ウォルターの元教え子であるドラッグディーラーで、ウォルターとドラッグビジネに乗り出すジェシー・ピンクマン役を演じたアーロン・ポール。現在、役者としてもプライベートも順調な日々を過ごしている。
ドラマが終了した翌年の14年に、カーアクション映画『ニード・フォー・スピード』に主演。旧約聖書の出エジプト記をもとにした話題の映画『エクソダス:神と王』にヨシュア役で出演するなど映画界で活躍。
Netflixの人気アニメシリーズ『ボージャック・ホースマン』(14~20)ではトッドの声役を担当。製作総指揮も務めた。16年から18年にHuluで配信された『The Path/ザ・パス』にもメインキャストとして出演した。
19年、アーロンがジェシーのその後を演じたエピローグ映画『エルカミーノ:ブレイキング・バッド THE MOVIE』(19)がNetflixで配信され、ファンを大喜びさせた。この年はブライアンと共に酒ブランド「Dos Hombres」もスタート。20年には話題のHBOドラマシリーズ『ウエストワールド』に出演と、キャリアは順調だ。
プライベートでは、18年2月、13年に結婚したローレン・パーセーキアン間に長女が誕生。22年3月に生まれた第2子で長男のラディアンのゴッドファーザーは、「死ぬほど好き」というブライアンに頼み「快諾してもらった」と明かしている。
今年4月、『ベター・コール・ソウル』のファイナルシーズンに、ジェシー役で出演することが発表され、ファンを大喜びさせた。
ウォルターの妻として、徐々にドラッグの世界に染まり貫禄を増していくスカイラーを演じたアンナ・ガン。現在はドラマや映画をはじめ、舞台女優としても活躍し、名脇役としての地位を確立している。
ドラマが終了した翌年の14年に、ミニドラマシリーズ『Gracepoint』に主演。同年にデヴィッド・シュワイマーが監督を務めたオフブロードウェイ作品『Sex With Strangers』に出演し、舞台女優としても活躍した。
17年には、ジェニファー・ロペス主演の人気クライムドラマ『シェイズ・オブ・ブルー ブルックリン警察』計10話に出演。映画作品では、USエアウェイズの不時着水事故を描いたトム・ハンクス主演の話題作『ハドソン川の奇跡』(16)や、『デッドウッド ~決戦のワイルドタウン~』(19)にも出演しており、名脇役だと評判だ。
今年のバレンタインの日には、ポッドキャストで配信されたオーディオドラマ『Numbered Days』に出演。同作はがんと闘う劇作家コーリー・マディソンの詩的伝記作で、心を打つ作品だと話題になった。
ハンク・シュレイダー役:ディーン・ノリス(59歳)
スカイラーとウォルターの義弟で、見た目も性格も屈強な全米麻薬取締局で働くドラッグハンター、ハンクを演じたディーン・ノリス。妻のマリー・シュレイダーを演じたベッツィ・ブラントとは、今でもTwitterでメッセージを送り合う仲で、ファンを喜ばせている。
例えば、ディーンが「ベッツィが恋しい」と投稿したときには、「まず花を買ってちょうだい」とベッツィが返信。ディーンが「だから結婚したじゃないか、テレビで」と返答するなど、仲むつまじいようだ。21年には、レッドカーペットに登場した際のベッツィの写真に、「ハンク・シュレイダーは幸運な男だった」とコメントしている。
仕事面では、ドラマが終了した13年、スティーヴン・キングの小説をドラマ化した『アンダー・ザ・ドーム』で麻薬密造の中心人物ビッグ・ジム役を演じ、『ブレイキング・バッド』のハンクとは真逆で面白いと話題に。17年から22年までは、犯罪コメディドラマ『Claws』で犯罪家族のボスを演じ、ファンを魅了した。
ほかにも、実際の事件をドラマ化した『見せかけの日々』(19)、ホラー映画『スケアリーストーリーズ 怖い本』(同)にも出演し、演技派俳優として人気を集めている。
同年には、『ブレキング・バッド』のハンクがビールを自家醸造していたことにちなみ、自家醸造ビールブランド「シュレイダー」をローンチ。20年にはスピンオフドラマ『ベター・コール・ソウル』にハンク役で出演し、ファンを大喜びさせた。
ウォルターの義妹で、ハンクの妻であるマリー・シュレイダーを演じたベッツィ・ブラント。ハンクを演じたディーンとは、パイロット版から意気投合していたといい、今ではTwitterでやりとりする仲だ。
ベッツィは20年に受けたインタビューで、『ブレイキング・バッド』のマリーとハンクの関係について「子どもが欲しかったのに恵まれなかった夫婦で、悲しみはあったけど、お互いが必要としている時にそこにいて支えるという、無条件の愛があった。互いを尊敬していたし」と説明。ハンクを演じたディーンのことも大好きだと語り、ハンクが殺されたシーンについて質問されると涙ぐみ「見ることができない」と明かした。
ドラマ終了後、数多くの映画やドラマシリーズで活躍しているが、15年から19年まで放送されたシットコム『Life In Pieces』へのレギュラー出演は話題に。20年にアンソロジーシリーズ『ソウルメイト』、21年にはコメディドラマ『Love, ヴィクター』に出演している。
昨年はクリスマス特別ドラマ『The Housewives of the North Pole』に出演、今年はフランスの大ヒット映画のリメーク版『スターは駐車係に恋をする』に出演し、話題を集めた。
ウォルターの長男で、脳性まひから杖を手放せない高校生ウォルター・“フリン”・ホワイト・Jr役を演じた RJ・ミッテ。
RJ自身も、出産時に呼吸が停止したため脳に後遺症が残ることに。06年に役者を志しハリウッドに移住し、『ブレイキング・バッド』のオーディションを受けると、見事、主人公の息子役を獲得。ドラマが終了した13年には、SAG-AFTRA(全米映画俳優組合)のハロルド・ラッセル・アワード(※)を授与され、メディア芸術における障害者の地位向上に貢献したと高く評価された。
現在は、俳優だけでなくNGO団体「ユナイテッド・セレブラル・パルシー(脳性まひ障害を持つ人のための団体)」のセレブリティ・アンバサダーを務める活動家としても知られている。
俳優業としては、14年にドラマシリーズ『スイッチ ~運命のいたずら~』に出演。その後も、犯罪ドラマ映画『Dixieland』(15)、SFホラー映画『ウェズリー・スナイプス コンタクト』(17)、コメディドラマシリーズ『ナウ・アポカリプス ~夢か現実か!? ユリシーズと世界の終わり』(19)にも出演し、19年には、ファン待望の主演映画『Standing Up for Sunny』が製作された。
俳優だけでなく14年にはGapのモデルを務め、15年にはミラノで開催されたヴィヴィアン・ウエストウッドのランウェイショーにも登場し話題に。15年にはアメリカ神経学会が発行する「Neurology Now」2/3月号の表紙を飾り、脳性まひ障害者としていじめを受けたことや俳優のキャリアについて語ったことも注目を集めた。
※60年代〜80年代にかけて障害者雇用大統領委員会の議長を無報酬で務めたアカデミー俳優の名を冠した賞
ウォルターの弁護士で強烈な個性を持つソウル・グッドマンを演じたボブ・オデンカーク。15年にソウルを主人公としたスピンオフ作品『ベター・コール・ソウル』がスタートすると、主演のボブはカルト的な人気を得るように。
ボブはコメディアン出身で、アメリカのテレビ界を代表する喜劇役者。『ブレイキング・バッド』終了後も数多くの作品に出演し、コメディ映画『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(13)や、ロビン・ウィリアムズの最後の主演映画として注目された『シークレット・ロード』では、ロビン演じる主人公の旧友という重要な役どころを演じた。
コメディ映画『ガールフレンドデー』(17)では、脚本と製作も兼任。カメオ出演した映画『ディザスター・アーティスト』(同)も高い評価を得るなど、作品には恵まれた。
一方で21年7月、『ベター・コール・ソウル』の撮影中に心臓発作を起こし入院。ファンを心配させたが、幸いなことにすぐに回復した。今年3月には自叙伝『Comedy Comedy Comedy Drama』が出版され、話題に。今年終了する『ベター・コール・ソウル』については、「満足する終わり方になっている」「素晴らしいエンディングだよ」と説明している。
21年公開されたアクションスリラー映画『Mr.ノーバディ』は、”さえないオヤジたちが理不尽な世の中に怒りを爆発させる”という痛快作で、映画ファンから大絶賛された。この作品の役作りのため厳しいトレーニングを受けたが、インタビューで「思っていた以上に楽しかった」と、にっこり。「ジャッキー・チェンの昔のアクション作品が大好きなんだ。笑いもあるしね。そんな作品に出てみたい」と熱弁し、今後のさらなる活躍に意欲を見せた。