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中学受験「算数1科目入試」の戦略に失敗――「倍率10倍超え」入試に賭けた母が今思うこと

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 首都圏の中学入試は長い間、国算理社の4科目、あるいは国算の2科目というスタイルが主流だったが、最近ではさまざまなタイプの入試が出現している。その中の1つに「算数1科目入試」というものがある。

 20年ほど前に、一部の有名男子校が実施したのを皮切りに徐々に増え、近年では人気女子校も参入。今では、算数1科目入試を実施している首都圏の中高一貫校は30校弱ほどに及ぶ(※)。
(※)算数、国語、英語から1科目選ぶ受験形式を採る学校も含む。

 東京・神奈川の受験生は2月1日が受験解禁日。この日から、午前午後と連日の連戦が始まるのだが、この算数1科目入試は多くの学校で、1日の午後に行われている。午後受験は2科目受験が多いので、それに比べれば、負担が少ないということ、また、「できるだけ早めに合格がほしい」という受験生心理も相まって、算数1科目入試は大人気になっているのだ。

 希美さん(現在中学1年生・仮名)も算数1科目入試に挑戦した1人だ。

 希美さんの中学受験への参入は通常よりも少し遅く、小学5年生の秋からだったという。希美さんの母である靖子さん(仮名)はこう振り返る。

「中学受験に参入したきっかけは、希美がお友達から、お姉さんのTikTok動画を見せてもらったこと。私には詳しくわかりませんが、そこには、私立D学園の高校2年生だというそのお姉さんが、部活の仲間たちと楽しそうに踊る姿が映されていたそうなんです」

 このお姉さんは中学受験でD学園に入学。ダンス部に所属し、部員内でダンス動画をTikTokに上げているらしいのだが、小学生の希美さんには、その姿はあまりに眩しく、「D学園を、まるで夢の世界のように感じたみたいです」という。

 それから希美さんは、自分がD学園で過ごす将来を夢見るようになり、「中学受験がしたい!」と言い出したそうだ。

「聞けば、そのお姉さんは小6から塾に行き出して、D学園に合格したとのこと。5年生の秋ではありましたが、希美も大丈夫な気がしていました」

 その後、希美さんは地元塾に入り、それなりに勉強に励んでいたそうだ。

「D学園は人気校ですが、超難関校というほどではありません。頑張れば、希美でも行けるのではないか? と思っていたのですが、やはり、4科目をこなすには時間がなさすぎて、偏差値は思うようには伸びませんでした」

 中学受験の過酷さは、多くの人が知るところだと思う。中学受験の勉強は学校の学習にプラスαで行わなければならないので、人によっては体力的に厳しい場合があるし、何より、みんなが同じように勉強をしていくので、「うなぎ登り」のように突出して成績が上がっていくことのほうが稀であり、モチベーションの維持が難しい。おまけに希美さんは、小5秋からの参入でただでさえ時間がない中、4科目受験とあって、相当大変だったはずだ。靖子さんいわく「やることがあまりに多すぎて、どれもこれも中途半端」だったという。

「超難関ではないものの、D学園は最近、難易度が上がってきたので、小6秋の時点で、塾から『ほかの学校も考えるべき』と助言はあったのですが、希美は『D学園しか受けない!』と頑なで……。でも、幸いなことにD学園には4科目受験のほかに、算数1科目入試というものがあることがわかり、我が家はこれに賭けることにしたんです」

 靖子さんが語るには、希美さんは算数が得意。算数に限っては、地元の塾で「優秀」と言われていたので、自信があったそうだ。そこで迷わず、算数1科目入試に照準を定め、ほかの3科目よりも算数の勉強に時間を割くような日々を過ごしたという。

 そして受験本番を迎え、希美さんは算数1科目入試も含め、D学園の4回入試すべてに出願。

 2月1日午後のD学園の算数1科目入試の倍率は10倍を超えていたものの、同じ日の午前中に行われた4科目入試よりも手応えがあり、希美さんは合格を確信して2月1日の夜のネット発表を待ったという。

「ところが、2月1日に一気に不合格を2個ももらうことになってしまい……。希美は放心状態で、翌日のD学園の3回目入試も不合格。結局、その後の4回目入試もダメでした」

 算数1科目入試は、「算数だけに集中できる」ので受験生人気が高いのだが、ここに思わぬ落とし穴が隠れている。算数のみで受験可能ということは、裏返せば、算数が得意な子だけがこぞって参戦しているわけだ。しかも、算数1科目入試の募集定員は、もともと極端に少ないのが一般的である。にもかかわらず、志願者数はとんでもなく多く、倍率10倍越えなんて当たり前。例年、25倍を超えてしまう人気校も存在する。

 算数1科目入試は、「算数大好き」「算数が大得意」という難関校狙いの受験生にとって、午後入試の「受け皿」になっている側面がある。そういったつわものたちが、まるで「道場破り」のような気持ちで挑戦する入試といえるかもしれない。

 そもそも、なぜ算数1科目受験が増えているのかといえば、「算数が得意な子は、入学後の試験において、ほかの教科でも高成績」という実感を持つ学校が多いから。大学の合格実績を気にする中高一貫校は、極論でいえば、算数ができる子こそ待ち望んでいるのだ。

 当然、出題レベルは高いので、志願者のレベルも高くなる。決して「お気軽簡単な入試」ではないので、リスクは相当高い入試と言わざるを得ない……それが、算数1科目入試の実態だと思う。

 中学受験は親の戦略に左右される面もあるので、リスクがある受験には用意周到に保険をかけておくのが得策である。

 靖子さんは、希美さんの受験を振り返って、悲しげな表情でつぶやいた。

「“D学園命”だった娘の受験。すべての入試で不合格という結果を受け、『では、どうすればよかったのだろう?』って、今でも悩んでしまいます。悩んだって、どうにもならないんですけどね……」

 結局、希美さんは、2月3日に慌てて出願したK学園に合格して入学したが、今も通学途中に見かけるD学園の制服を正視できないという。第1希望には受からなかったけれど、1日も早く、K学園で熱中できることを見つけてほしいと願わずにはいられない。