「子ども同士の付き合い」が前提のママ友という関係には、さまざまな暗黙のルールがあるらしい――。ママたちの実体験を元に、ママ友ウォッチャーのライター・池守りぜねが、暗黙ルールを考察する。
気心の知れた女友達で集まり、仕事や家庭、恋愛の悩みなどをぶっちゃけ合うのはなんとも楽しいものだが、子どもありきの関係であるママ同士になると、良かれと思ってアドバイスしたことでも、相手の気に障ってしまうケースが珍しくないようだ。今回は、夫の愚痴をめぐるママ友の“暗黙のルール”について、あるお母さんの話を取り上げる。
リモートワークが普及……夫の在宅時間が増えてストレス!
都内にある生命保険の会社に勤務している潤子さん(仮名・40歳)は、関東圏にある保育園に、5歳の男児と3歳の女児を通わせている。
「コロナでリモートワークの日が増え、夫と家にいる時間が長くなったことで、ストレスを溜めているママ友は多いんです。私も週2回は完全リモートワークになり、夫も都内の感染者数が多い時期は、ほぼリモートワークなのですが……確かにこの状態って、夫に不満を抱きやすいんですよね」
その理由の一つは、夫の在宅時間が増えても、保育園への送り迎えや家事など、妻側の負担がこれまでと変わらないからだという。
「夫は夕方、オンライン会議に参加することが多いので、それを抜け出してまで保育園のお迎えに行くのは無理とわかるんですが……。たまに代わりに行ってもらって、後日『家にいるんなら、もっと育児やってよ』と言うと、『この前、迎えに行ったのに』と反論してくるのも腹が立ちます。一度行っただけでも、育児にすごく協力をしているように言うんですよ」
このようなママの悩みは、リモートワークの普及によって、全国的に増えたのではないだろうか。これまで、在宅時間が長い妻側が、家事や育児の多くを担ってきた場合、たとえ夫の在宅時間が増えても、その比重は変わらないというケースは多い。育児においては、母親じゃなければ子どもが寝つけなかったり、お風呂に入りたがらず、いわば代わりが利かないこともあるだろうが、そんな時に夫が視界に入ると、「なぜ私だけ?」と不満は溜まる一方だろう。
「仲の良いママさんは、うちと同じく2児の育児をしている人が多いんです。幼児が2人いると、本当に目が離せないし、毎日が慌ただしく過ぎていきます。そんな中、この前、カラオケボックスを使ったランチママ会をしたんですが、子どもが大きな声を出したり、騒ぎまわっても周りを気にしなくていいので、本当に楽でした。みんな2児のママたちだったから、子育ての話も気兼ねなくできて楽しかったのですが……あるママさんの発言にイラっとしてしまったんですよね」
潤子さんの親しいママ友の1人だという奈央さん(仮名・40歳)。彼女も5歳になる男の子と33歳になる女の子を育児中だ。
「同じ年齢の2人の子どもを育てていて、私たちも同い年。しかも好きなミュージシャンが一緒と、何かと共通点が多く、すぐ仲良くなったんです。ほかのママ友より育児の悩みも相談しやすく感じていました」
潤子さんは以前、奈央さんと子連れでランチをした時に、「ほかのママには話していない」という夫婦事情を聞いたという。
「実は奈央さんの旦那さんはバツイチだというんです。6~7歳上らしく、ほかのパパさんよりは落ち着いた雰囲気でした。どうやら前の奥さんとの間には子どもはおらず、奈央さんとはデキ婚だったみたいで、ちょっと“略奪”みたいなことも匂わせていましたね……」
ママ同士の会話では、よく「夫の愚痴」が話題に上がるが、年齢差や出会いなどは、親しくならないと語らない場合も多い。
「奈央さんの旦那さんは、あまり家事をやらなかったようなのですが、子どもが産まれてから変わったそう。赤ちゃんのお世話だけでなく、買い出しに行ったり、掃除や洗濯をしたりと、育児も家事も積極的になったといいます。ちょっと『自慢かな?』と思っちゃったんですけど(笑)。私が、『夫はリモートワークが増えたのに、お皿も洗ってくれない。乾いた洗濯物を取り込んだり、片づけることもしてくれない』と愚痴ると、『信じられない』『ひどすぎるね、旦那さん』と驚いていました」
奈央さんは、カラオケボックスでのランチ会の際も、ママ友の夫の愚痴に、鋭く切り込んだという。
「あるママの旦那さんが、シンクに洗い物が溜まっているのを見て『汚い家だな』って言ったらしいんです。自分はやらないのに、水回りや玄関の掃除にうるさいそうで、汚れているとその都度、注意してくるっていう話でした。周りのみんなは、『それはムカつくよね』『うちも水回りのこと、結構言ってくる』なんて同調していたんですが、奈央さんは『そんな旦那、モラハラじゃん。私だったら離婚しちゃう』と強い口調でぴしゃり。彼女は自分の考えが絶対なタイプなんですが、『夫の育て方間違えたね』とまで言っていたのでびっくりしました。そこまで言わなくてもいいのに……って、周りもドン引きしましたよ」
場の空気が凍り、そのママも「困惑した表情をしていた」と振り返る潤子さん。
「ちょっとした夫の愚痴をこぼされたからって、ママ友の夫、ましてやママ友自身を悪く言うのって、たとえ内心そう思っててもしちゃいけないですよ。そもそも、昔からの親友ってわけでもないのに……これって暗黙のルールじゃないですか?」
ママ友間での「夫の愚痴」は難しいものだ。本心から愚痴っている場合ももちろんあるが、場を盛り上げるためのネタにしていたり、「わざとへりくだってのろけている」可能性も考えられる。
今回の「夫に『汚い家』と言われた」という愚痴は、のろけているわけではなさそうだが、どこまで本気で腹を立てているかは、本人にしかわからない。ママ友にちょっと愚痴れば解消されるレベルの怒りだった可能性もある。
そんな中、奈央さんの「私だったら離婚しちゃう」発言は、そのママにとってきつい言葉だっただろう。そもそも、夫という存在は、生活を共にするパートナーであり人生の伴侶でもある。簡単に別れることは、もちろんできない。
ママ友から、夫婦の育児・家事分担の愚痴が出た場合、自分の意見を強く主張したり、アドバイスするのは避けたほうが賢明だ。「夫婦共働きなのか否か」「夫婦それぞれの雇用形態は」「どちらが多く生活費を負担しているのか」など、相手の家庭事情がわからない中、よそのお宅の育児・家事分担に口を出すのは難しいだろう。
今回のケースでは、「旦那さんが口うるさい」という問題もあったが、すぐにモラハラに直結するわけではなく、ほかの面では優しかったり、ママのほうも言い返している可能性があり、それが夫婦の当たり前のコミュニケーションになっているケースも多い(もちろん夫が妻に対して貶める言動を取るのは、見直されるべきであるが)。
それなのに、自分たち夫婦のケースや、主観だけで、ママ友のパートナーである夫を全否定するのは、やはり「大NG事項」といえる。奈央さんがママ友の夫を「あり得ない」と感じるのは、彼女自身の根本的な価値観が「夫婦間で家事・育児の分担に偏りがあるのは許せない」というもので、また夫が家事・育児に積極的だからである。その前提が共有されていない中でママ友に口を出すのはよくないだろう。
そもそも、自分の夫を悪く言われたら、気分が良くない人のほうが大半である。奈央さんのような「自分が絶対」というタイプには極力、夫婦や家庭の話はしないというのも、暗黙のママ友のルールなのかもしれない。