現在、専用車「ゆたぼんスタディ号」で日本一周のプロジェクトを実行中の“少年革命家”こと不登校YouTuber・ゆたぼん。昨年12月、「不登校の子やその親御さんたちと直接会ったり、いろんな人たちと会って学びながら、多くの人たちに元気と勇気を与えたい」という思いから、このプロジェクトのクラウドファンディングを実施し、見事、資金調達に成功。今年6月末に東京を旅立ち、ブログやSNS、YouTubeチャンネルを通して、旅の様子を発信している。
しかし、当初の目的である不登校児との交流する様子はほとんど公開されず、各地での観光やご当地グルメに舌鼓を打つ様子ばかりが伝えられ、ネットはたちまち炎上。また、ゆたぼんがTwitterにアップした写真に、「PayPay」のQRコードが印刷されたビラが見切れていたことから、旅の途中、不特定多数の人物に寄付を募っている疑惑が浮上し、「PayPayの規約違反では」と批判が噴出したこともあった。
さらに8月上旬には、ゆたぼんの日本一周中止とクラファン返金を求める署名キャンペーンまで立ち上がる(のちに中止)など、現在ネット上でアンチの多いYouTuberの一人といえるだろう。
そもそも、ゆたぼんは大々的にメディアに取り上げられた当初から、炎上を巻き起こしていた。2019年5月5日付の「琉球新報」に登場した当時10歳のゆたぼんは、「不登校は不幸じゃない」と主張。小学3年生の時に宿題を拒否したところ、放課後や休み時間にやることを強制され、「担任の言うことを聞く同級生もロボットに見え『俺までロボットになってしまう』」と思い、不登校を決意したそうだ。
ネット上では、「不登校は不幸じゃない」という点には多くの共感が集まったものの、不登校のきっかけについては「ただのわがまま」と批判が集中したのだった。
事あるごとに炎上してしまうゆたぼんだが、なぜ人々は1人の13歳の少年に、ここまで心をかき乱されてしまうのか――今回、神奈川大学心理相談センター所長、人間科学部教授である臨床心理士の杉山崇氏に、その心理について詳しく解説してもらった。
ゆたぼんの「人を見下すような発言」こそ人の心をかき乱す
ゆたぼんはYouTubeで活動を始めて以降、一貫して“不登校”に関する主張を続けているが、杉山氏によると、「彼は『みんながやっていることは、僕はやらないよ』という行動を取るタイプ」といえるそうだ。それだけであれば、特に波紋を呼ぶことはなさそうだが、「人を見下すような発言」こそ、人の心をかき乱す原因になっているという。
「具体的には、“担任の言うことを聞く同級生がロボットに見えた”といった発言。真面目に学校に通っている人をバカにして、自分の存在価値を上げようとしているわけです。誰かを落とすことで、自分の価値を上げようとする仕組みを、社会心理学で『下方比較』というんですが、下げられる対象となった人はやはり面白くないですよね」
ゆたぼんに下げられる対象は、つまり「学校に通っている人」となり、小中学校は義務教育である今の日本では大多数だ。ここに、ゆたぼんの言動にモヤモヤする人が多い理由を見ることができるが、「嫌なら見ない」という選択を取らず、あえて積極的にゆたぼんの言動を追いかけ、批判する“アンチ”が後を絶たないのはなぜなのだろうか。
「ゆたぼんさんに奪われた自尊心を、取り戻そうという心理が働いているように思います。ゆたぼんさんを下げて、自分の価値を上げようとしているんですね。私はゆたぼんさんとアンチの関係は、『ドラえもん』(小学館)における『ジャイアン&スネ夫VSのび太』の関係によく似ていると感じます。ジャイアンとスネ夫は、いつものび太をバカにしていますが、彼らはのび太を下げることで、自尊心を満たそうとしているんです。一方でのび太も、ドラえもんの道具を使って、ジャイアンとスネ夫の優位に立ち、奪われた自尊心を取り戻そうとしています」
ジャイアンとスネ夫、そしてのび太は、言うなれば「自尊心の奪い合いをしている」と杉山氏。現在、ネット上では、ゆたぼんの言動にアンチがかみつき、それにゆたぼんが反論する……という光景が繰り返されているが、これもまた「自尊心の奪い合い」をしているということだ。
では、ゆたぼんを批判したくてたまらないという“アンチ”は、もともとどういった気質の持ち主なのだろうか。杉山氏は「誇り高い人」「感情を逆なでされやすい人」という2つのタイプを挙げてくれた。
「『誇り高い人』は、『自尊心を下げられっぱなしじゃ悔しい!』と感じるタイプの人を指します。一方、『感情を逆なでされやすい人』は、言い換えると、『感情的になる余裕がある人』。やらなくてはいけないタスクが多い忙しい人というのは、“計画性”を司る脳の部分が働いて、自尊心を感じたり、感情的になる脳の働きが抑制されるんです。なので、ゆたぼんを批判する人は、良くも悪くも余裕がある人といえるでしょう」
また、ゆたぼんに限らず、昨今ネット炎上が激化している背景にも、杉山氏は思うところがあるという。
「最近は、雇用を保障する代わりに、残業を減らして賃金を抑えようとする企業が目立つようになり、“忙しくできない”という人が増えているわけです。時間に余裕ができたことで、将来への漠然とした不安を抱く時、人は社会正義に目覚めがち。誰かを批判し、また批判者同士で一体感を得ると、瞬間的にではありますが、その不安が解消されるんですね。ゆたぼんさんは、その批判対象にされやすいのでしょう」
ゆたぼんには、かねてから炎上商法のうわさが絶えない。小学校の卒業式に、髪を染めていることを理由に出られなかったと報告し、校長室で1人だけの卒業式が執り行われたのだが、その翌日、自身のYouTubeチャンネルに「卒業証書を破ってみた【プレゼント】」という動画をアップ。タイトル通り、ゆたぼんは卒業証書を破り捨てたのだ。この突飛な行動は、再生数が低迷していたチャンネルに注目を集める“炎上商法”ではないかと、物議を醸した。
「心理学の観点から言うと、あえて誰かの自尊心を奪うような言動をすれば、炎上商法は可能です。ただ、ゆたぼんさんがもし意図的に炎上を起こしているのだとすれば、果たしてその方法でよいのか……という疑問はありますね。よく実業家のホリエモン(堀江貴文)さんの言動も炎上商法と言われますが、彼の場合、ある視点から見ると正論なんだけど、別の視点から見ると異論が出てくるといった、賛否両論を呼ぶ上手な炎上のさせ方をしている印象。一方で、ゆたぼんさんの場合は、ただ人を不快にさせて炎上させているように感じるんです」
また、ホリエモンは、「主張」に対して炎上が巻き起こっているが、ゆたぼんの場合は「存在自体」が炎上していると杉山氏は述べる。
「ゆたぼんさんは、実際に不登校の少年という立場で、学校に行っている人を見下し、人の感情を逆なでして、炎上が起きているわけです。もし本当に炎上商法を仕掛けているのであれば、年を重ねて“不登校の少年”ではなくなった時、どうするのか。今のやり方がいつまで続くのかというのは気になりますね」
存在自体が炎上しているとなると、ゆたぼんの主張に対してではなく、ゆたぼん自身に攻撃が集中する危険性は高い。口が達者ではあるものの、ゆたぼんはまだ13歳。活動をバックアップする父親・中村幸也氏は、自称・心理カウンセラーだというが、適切なアドバイスをしてくれることを祈りたい。
杉山崇(すぎやま・たかし)
神奈川大学心理相談センター所長、人間科学部教授。公益社団法人日本心理学会代議員。子育て支援、障害児教育、犯罪者矯正、職場のメンタルヘルスなど、さまざまな心理系の職域を経験。『いつまでも消えない怒りがなくなる 許す練習』(あさ出版)など著書多数。