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『鳥人間コンテスト』事故が起きても番組が続く理由――「打ち切り」の基準を弁護士に聞く

 人力飛行機の滞空距離や飛行時間を競う『鳥人間コンテスト』が、今年3年ぶりに有観客開催された。8月31日午後7時からは、日本テレビ系でその模様が放送されている。

 「空を飛ぶ」という夢に向かい、ひたむきに努力する人々の姿が胸を打つ人気番組だが、感動の舞台裏では、悲惨な事故がたびたび起こってきた。

 特に大きな騒動となったのは、2007年の大会。ある大学のチームでパイロットを務めた女性が、機体の破損によって約10メートルの高さから湖面に落下。その衝撃によって「脳脊髄液減少症」という後遺症を患う事故が起こり、女性は大学や大会運営に関わった読売テレビなどを訴えるに至った。こうした事故が起こったにもかかわらず、『鳥人間コンテスト』は現在も続いている。

 その一方、番組収録中の事故によって打ち切りとなった番組は少なくない。例えば20年10月には、バラエティ番組『でんじろうのTHE実験』(フジテレビ系)にて、お笑い芸人のトレンディエンジェル・斎藤司がロケ中に背骨の圧迫骨折など、全治3カ月のケガを負っていたことが発覚。ネット上では、番組側に対する批判の声が噴出し、翌21年2月にレギュラー放送が打ち切られることとなった。

 このように、重大な事故が起こっても「打ち切られない番組」と「打ち切られる番組」があるのは、一体なぜなのか? サイゾーウーマンでは、17年にアディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士を取材し、「事故の起きたバラエティー番組が打ち切りになる基準」について聞いていた。『鳥人間コンテスト』の放送に合わせて、同記事を再掲する。
(編集部)


「ドラマのこのシーンってありえるの?」「バラエティーのあのやり方ってコンプライアンス的にどうなの?」……テレビを見ていて感じた疑問を弁護士に聞いてみる、テレビ好きのための法律相談所。

<今回の番組>
『衝撃のアノ人に会ってみた!』(日本テレビ系/3月23日)

<今回の疑問>
事故の起きたバラエティー番組が打ち切りになる基準は?

 3月23日に放送された『衝撃のアノ人に会ってみた!』(日本テレビ系)に、過去の『鳥人間コンテスト』(同)で話題になったパイロットたちが出演し、再び注目を浴びた。今年の夏で40回目を迎える『鳥人間コンテスト』だが、感動の舞台の裏では悲惨な事故も起きている。

 2006年大会には東京工業大学のチームの機体が崖に衝突し、パイロットが踵骨の粉砕骨折と顔面裂傷し、その後遺症が残るという大事故、翌年07年大会では、パイロットとして参加した女性が滑走中に機体が破損、約10メートルの高さから湖面に落下し、その衝撃の影響と思われる「脳脊髄液減少症」という後遺症を患うという事故が起きた。

 女性は、制作の読売テレビと事故当時在籍していた大学、人力飛行機を制作したサークル顧問や責任者相手に損害賠償を求める提訴をしている。通常、このような事故が続けば、番組は打ち切りになってもおかしくはない。なぜ「鳥人間コンテスト」は打ち切りにならないのだろうか? アディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に話を聞いた。

「『番組で事故が発生した場合は、番組を打ち切らなければならない』と定める法律はありません。どのような場合に番組を打ち切るかは各放送局の裁量に委ねられています。もっとも、各放送局は、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送基準や犯罪の成否などを総合的に考慮して打ち切るかどうかを検討します。

 まず、BPOは表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するため、放送への苦情や放送倫理の問題に対応する第三者機関です。主に、視聴者などから問題があると指摘された番組・放送を検証して、局に意見や見解を伝え、放送界の自律と放送の質の向上を促す役割を担っています。

 そこで定められた放送基準には、(1)人命を軽視するような取り扱いはしない。(2)放送内容は、放送時間に応じて視聴者の生活状態を考慮し、不快な感じを与えないようにする。(3)人心に動揺や不安を与えるおそれのある内容のものは慎重に取り扱う、などがあります。これに抵触する場合は、放送局に対して、勧告、見解、意見の通知を行います。なお、放送局に命令、指示など強制力をもって義務を課す権限はありませんので、各放送局がBPOの判断をもとに検討して、自主的な判断を下します」(岩沙弁護士、カッコ内以下同)

 ただし、番組内容によっては刑事責任を追及される場合もあると、岩沙弁護士は述べる。

「番組中の事故で出演者がけがをしたような場合、放送局側に注意義務違反が認められれば、業務上過失致傷罪などが成立する可能性があります。『鳥人間コンテスト』についても、放送局は、放送基準、刑事事件との関係、世論やスポンサーの意向などを総合考慮して打ち切らないと判断したのだと思います」

 では、収録中に事故が起きた番組でも、続行された番組と打ち切りになった番組があるのはなぜなのだろうか? 15年には女性アイドルグループ「3B Junior」のメンバーがレギュラー番組の収録中に、ヘリウムガスを吸引し意識不明になる事故が起き、その後番組は打ち切りとなった。同年3月には、お笑いタレントの出川哲朗が『謎解きバトルTORE!』(日本テレビ系)の収録中にセットの崖から落下し右足を骨折する事態が生じたが、番組はその後も継続されている。

「前述の通り、放送局は、放送基準、刑事事件との関係、世論やスポンサーの意向などを総合考慮して判断しますので、何を重要視して続行か否かを判断したかは明らかではありません。もっとも、一度大きな事故を起こしてしまった以上は、被害者のため、再発防止のためにも番組をすぐに打ち切った方が、放送局のイメージを損なわずに済むのかなと個人的には考えています」

 バラエティー番組における事故はこれまでに何度も起きている。事故になるほどの企画や演出を、視聴者は本当に求めているのだろうか?

アディーレ法律事務所

※2017年4月2日初出の記事に追記、編集を加えています。