「子ども同士の付き合い」が前提のママ友という関係には、さまざまな暗黙のルールがあるらしい――。ママたちの実体験を元に、ママ友ウォッチャーのライター・池守りぜねが、暗黙ルールを考察する。
秋になると、大手進学塾による「全国統一小学生テスト」など、全国規模の学力テストが開催され、子どもの点数に一喜一憂するママが目立つようになる。
さまざまな教育方針の家庭の子が集まる公立小学校では、中学受験を目指す子とそれ以外では、子どもの成績に対するママの意識の差が歴然というケースも。今回は、教育ママのマウンティングに巻き込まれたという女性が、「暗黙のママ友ルール」について話してくれた。
中学受験組のクラスメイト、母親は自慢好きの教育ママ
亜美さん(仮名・42歳)は、首都圏で10歳になる小学4年生の希子ちゃん(仮名)を育児中。「娘は内向的な性格で、友だちから誘われるのを待つタイプ」だという。
「クラス内に、いくつか女子グループができているそうなんですが、希子はどこにも属せていないみたい。それまで仲が良かった子も、小4のクラス替えで別の組になってしまい、ここ最近、教室内で孤立することもあるようです」
娘の友達付き合いに気になることはあっても、いじめがなければ、「そのまま近所の公立中学に進学させるつもりではいるのですが……」と亜美さん。
「上の子がいるママ友から、『最初は中学受験をさせるつもりではなかったんだけど、娘がグループ内で仲間外れにされたのもあって、私立を受験した』という話を聞いたんです。それから、いろいろな可能性を想定して、希子のことを決めないといけないんだなって思うようになりました。希子がいじめに遭い、急に『小学校に行きたくない』と言いだしたら、私立進学を視野に入れようと思い、であれば、勉強をおろそかにできないので、念のため塾に通わせることにしたんです。でも、“教育ママ”のお母さんを見ると、ああはなりたくないなと思ってしまうんですよね」
亜美さんいわく、小4になると、少しずつ中学受験組かそうではないかで、クラス内が二分化してくるという。今年初めて同じクラスになったという美彩ちゃん(仮名)は中学受験組で、その母親である佳恵さん(仮名・44歳)は、まさに“教育ママ”なのだそうだ。
「進級してすぐに保護者会があったんです。美彩ちゃんの名前は、希子からはよく聞いていたので、私から佳恵さんにも話しかけてみました。その時、美彩ちゃんと希子が、同じ学習塾の別の教室に通っていることがわかったんですが……佳恵さんは『うちの子はFクラスなの』『小4で小6レベルの問題を解いている』といきなり自慢してきたので、びっくりしましたね」
希子ちゃんはもともと、家で宿題をしないなど、勉強が好きでも得意でもないタイプ。塾では小3レベルの問題を復習していたため、「小4で小6の問題が解けるなんて、すごいですね」と佳恵さんに伝えたという。
「そうしたら、謙遜するどころか『幼稚園の年中からずっと通っていたんです』とアピールされました。これにはどう答えて良いのか迷いましたね」
その後、亜美さんと佳恵さんの娘は、夏休みの期間、スイミングクラブの短期教室で一緒になったという。教室で顔を合わせると、佳恵さんはちょっとした雑談の中でも、「この前、塾のテストで娘が90点を取った」と話してくるそうだ。
「ほかのママ友から、子どものテストの点数なんて聞いたことはありません。だからストレートに点数の話をしてくる佳恵さんは、かなり珍しいと思います」
美彩ちゃんは近く、近所の学習塾を辞めて、中学受験のための進学塾に入る予定だという。
「佳恵さんは『美彩くらいのレベルだと、なかなかついていくのが大変みたい』って言ってましたが、そんな高レベルの塾に入れるという自慢ですよね」
佳恵さんの言いぶりが気になった亜美さんは、美彩ちゃんの学校での成績について、娘に聞いてみたという。
「うちの小学校は、1学年を3クラスに分けて算数の授業を行っているんです。単元ごとにテストの成績順や本人の希望によって、クラスが入れ替わるのですが、希子の話だと、どうやら美彩ちゃんは、常に一番上のクラスにいるわけではないみたい」
希子ちゃんは、得意な単元では一番上のクラスにいたこともあるそうだ。
「でも、佳恵さんのように『娘のテストの成績が良かった』なんて誰にも言い回りませんでした」
小4にもなると、自然と子どもたちも、成績が上位の子や、中学受験の勉強を始めている子の存在に気づき始めるようだ。
「娘から『〇〇ちゃんがわからない問題を教えてくれた』という話を聞くので、勉強ができる子の名前はなんとなくわかるんです。でも自分の子の成績を言ってくるのは佳恵さんだけなんですよね。ある時、佳恵さんと同じ塾に通っているママ友と話したのですが、よく聞いてみたら美彩ちゃんと同じ小6レベルの問題を解いていたんです。でも『たまたま早くから習っていただけで、特別、頭がいいとかじゃないよ!』と謙遜していました」
子どもの成績を自慢げに語られると、「反応に困るし、こっちも見下されてるみたいで嫌な気持ちがする」と亜美さん。
「しかも佳恵さんの場合、『希子ちゃん、算数の先生は誰だった?』と聞いてくるなど、うちの娘の成績を知りたがるのも気になります。『ママ友間では、子どもの成績の話は表立ってしない』――これって暗黙のルールではないでしょうか」
いまや都心部では、「3人に1人が受ける」というデータもあるほど、一般的になった中学受験。早期からの塾通いも珍しいことではなくなったため、私立中学を目指すママたちは、より成績を意識せざる得ない状況なのだろう。しかし、自分の子どもの成績を自慢げに語ったり、ママ友の子どもの成績を聞くのはタブーだ。
子どもがいい成績を取ったことを明かすと、たとえ自慢するつもりはなくても、ママ友に「自慢された」と受け取られかねないし、逆に中学受験の有無を問われたり、家での学習時間を聞かれたりと質問攻めに遭い、面倒なケースも多い。
一方で、ママ友に子どもの成績を聞くのは、やはり「失礼」と受け止められるケースが多いのではないか。成績は数値化されているうえに、特に同じ年齢なら、そこで明確な優劣がついてしまう。ママ友間では口にしないのが正解だと思う。
では、佳恵さんのようなママに会った時は、どう対処すべきなのだろうか。向こうの自慢話は、適当に「すごいですね」と言って聞き流していれば、そのうち別のママ友に話すようになるだろうから、あまり真に受けすぎない姿勢が必要なのかもしれない。
もし自分の子どもの成績を聞かれた場合は、「子どもに聞いてみないとわからない」とはぐらかすのが得策。子どもが絵や運動など、何か習い事をしている場合は、「うちは絵/運動のほうが好きみたい」と、子どもの一番の興味は勉強ではないと答えると、それ以降、成績の話を振ってこない気もする。そのつど、まともに受け答えをしていると、相手にライバル視され、“点数を競い合う相手”にされたり、「もっと勉強したほうがいい」と上から目線でのアドバイスをされる可能性がある。
このように、いろいろと対処法を考えてみたが、やはり「ママ友間では、子どもの成績の話は表立ってしない」という暗黙のルールが、ママたちの間で徹底されることを、何よりもまず祈りたい。