日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。9月11日の放送は「話を聞いてくれる人 ~空っぽの僕が生きる意味~」。
あらすじ
名古屋駅前で夜、2017年から「聞き屋」として、人の話を無償で聞いているディーン・カワウソこと水野怜恩。雨の日以外は聞き屋としての活動を続けており、2021年は300日以上名古屋駅前にいたという。
聞き屋の客層は10~70代と多様だ。話を聞いてほしい人が相席状態になることも多く、客同士で話が盛り上がることもある。
聞き屋の常連もいる。28歳のいおりは精神的な病を抱えており、ハイ状態になると買い物を止められなくなってしまう。食べるものにも事欠くこともあり、水野は別の客からもらったペットボトルのミルクティーをいおりに渡していた。
水野自身は実家暮らしで、アルバイトを週一でしているものの生活を賄えるほどではなく、会社員時代の貯金を切り崩している。残高が100万円を切りそうになっている通帳も映されていた。
水野は大学卒業後、大手パンメーカーに勤めるも、転勤辞令が出され退職。その後、旅先の横浜で別の聞き屋に出会い、地元名古屋で自身も聞き屋をしてみたところ、初めて人生でやりがいを感じたという。今後は占い師としての活動を模索しているようで、人気占い師の元を訪ねる様子も伝えられていた。
水野の両親は息子の将来を心配していて、特に父親は息子に対し口うるさいところもあったようだ。母親はそんな夫(水野にしてみれば父親)に不満があるようで、「すごく(息子に対し)口出しするんですよ」「私も息子と同じ気持ちありますし」「そういう流れがあって『もういい』『口も聞きたくない』って」と番組スタッフに話していたが、その最中に父親が「もういい」と母親を制するシーンも映されていた。
番組の最後で、常連のいおりは世話になっているお礼にと水野の名刺を作って手渡す。水野の聞き屋としての客は5,000人を超えたと伝えられていた。
『ザ・ノンフィクション』家族の話を聞かない父
水野の父親は番組スタッフへの対応は丁寧だったが、「外面はいいものの、家族の話は聞かない」ように見え、また、母親は口数の多いマシンガントークタイプに見えた。
水野の父親は家族に対し“聞く耳を持たないタイプ”にも見受けられたが、ただ、年代が上になるとこういった傾向のある男性は珍しくないようにも思う。
そんな、話を聞かない父親の息子が聞き屋になる。「親の期待に応える」「親に反発し、別の道を行く」にしろ、やはり子どもの進路にとって、親の影響というのは大きいと思った。
客の話を淡々と聞く水野は、よい聞き手と思われるが、「え?」と疑問を抱いたシーンが後半にあった。自身の将来について番組スタッフから聞かれた際のやりとりを抜粋する。
「(夢は)ジャニーズデビューとか、コヤッキースタジオ(都市伝説情報を発信しているYouTubeチャンネル)に入るとか、YouTuberですね」
「(それに対し何かしているか、というスタッフの問いに対し)何もしてないですよ、あくまで、それは、小学生の夢みたいなものですけど」
別に水野はウケを狙って言った体ではない。水野は年齢を非公表としているが、大学卒業後メーカーで3年働き、2017年から聞き屋をはじめて5年とあり、見た目の雰囲気からも30歳くらいかとみられる。本当にジャニーズになりたい、というより、いわゆる世間的な「30にもなったら落ち着いて……」という風潮に反発したい気持ちの表れのように見えた。
この強気さは、水野のおそらくアラサーという年齢によるところもあると思う。この若さで自分のやっていることが評価されているのなら、発言も強気になるだろう。水野は著書『名古屋で見かける聞き屋の謎』(マーキュリー出版)もあり、今回『ザ・ノンフィクション』から取材された、というのも自信につながったはずだ。
『ザ・ノンフィクション』30歳のころは見えなかった“年齢”という要素
なお、「働かずに生きていく」の元祖的存在であり、シェアハウスのムーブメントを作った人でもあるphaについても過去にザ・ノンフィクションでは取り上げていたが、phaは40歳で11年運営してきたシェアハウスを解散している。
解散の原因について「年齢的なものもあるかもしれないですね。若いころは劣悪な環境で暮らしてること自体楽しかったりするけれど、だんだんただなんかキツくなってくる。飽きてくるというかしんどくなってくるみたいな」と話していた。
30歳のころはむしろ楽しめていたことが「中年の危機」を迎える40歳になると心境が変わってきて、きつくなってくる、というのは私自身42歳なのでよくわかる。ただこれは30歳のころにはわかりようもない感覚ではある。水野はどんな40歳になるのだろう。
次週の『ザ・ノンフィクション』は「ボクと父ちゃんの記憶2022前編~母の涙と父のいない家~」。50歳の時に、若年性アルツハイマー型認知症と診断された「父ちゃん」。認知症が悪化し、施設に入ったあとの家族の1年を見つめる。