ジャニーズ事務所が昨年1月、ジャニーズJr.に「22歳定年制度」を導入することを発表した。具体的には、満22歳に到達したJr.が、最初の3月31日の時点で事務所と活動継続について合意に至らなかった場合は活動を終了することになるという。
同制度は、23年3月末日から適用となり、現在は準備期間にあるが、すでに昨年7月には22歳前後のJr.8名が一斉退所。今年3月にも、同世代のJr.9名がやはり事務所を去り、ファンの間に衝撃が走った。
滝沢秀明副社長は昨年4月、スポーツ紙の取材に対し、「タレントが子どもで会社が親だとしたら、親の責任でやっぱり子どもと厳しく向き合うべきだと思いますし、ある意味、ずっとこの制度がないままというのは無責任に感じてしまう部分もあると思います」と、同制度導入の意図や思いを語っていたが、ここ最近のジャニーズデビュー組に目を向けると、高年齢化が顕著になっている現実がある。
例えば、いま飛ぶ鳥を落とす勢いのSnow Manは、佐久間大介、深澤辰哉、渡辺翔太が27歳、阿部亮平、岩本照、宮舘涼太が26歳でデビューしている。しかし、「22歳定年制度」が本格実施されれば、「20代後半でデビューという前例もある」と、懸命に活動を続けてきたJr.を切り捨てることになるだけに、ファンの間で賛否両論となっている。
果たして、「22歳定年制度」は、“組織のプロ”の目にはどう映るのか――今回、企業コンサルタントの大関暁夫氏に、同制度を新規導入する際の心得とともに、Jr.を統括する滝沢氏の手腕について見解をお聞きした。
ジャニーズJr.の「22歳定年制度」は「一方的に契約を解除できる制度」
――ジャニーズJr.の「22歳定年制度」は、「満22歳に到達したJr.が、最初に迎える3月31日の時点で事務所と活動継続について合意に至らなかった場合は、活動を終了することになる」と説明されていますが、これは噛み砕くと、どのような制度なのでしょうか?
大関暁夫氏(以下、大関) Jr.と事務所、どちらかが「活動終了」の意思を示せば、退所になるという制度。つまり、「合意」とは言っていますが、「事務所が一方的に契約解除を通達できる制度」と理解していいでしょう。
――「満22歳」という年齢設定については、どう思われますか? 事務所は同制度の公式発表時、「一般的に人生の岐路と言われる年齢を迎えたジャニーズJr.が、適切な進路を決定し難くなっているのではないか、ということも同時に懸念されるようになった」と説明していました。
大関 「満22歳」はいわゆる大卒の年齢。想像の域を出ないものの、Jr.という身分の持つ特性からして、「学生が終わる年齢までに芽が出ないのであれば、これから先この世界でプロとして食べていくのは難しいので、ほかの仕事を見つけなさい」という意味もあると思います。
――「事務所が一方的に契約解除を通達できる制度」と聞くと、なんて厳しい制度なのかと思ってしまうのですが……。
大関 プロ野球選手など、どこの世界でもあり得る話です。Jr.は社員ではなく、個人事業主としてそれぞれが事務所と契約している形でしょうから、事務所には「雇用を守らなければいけない」という考えはありません。これまでもJr.の専属契約を一方的に解除することに法的問題はなかったものの、明確に「満22歳まで」と線引きし、事前にJr.に通達したのが、今回の制度といえます。
――経営という観点から「22歳定年制度」を見た場合、その導入意図をどう捉えますか?
大関 事務所側に何らかの理由があって、あまりJr.を抱えたくない事情があるんだろうと感じました。ジャニーズは株式を公開していないので、財務状況は不明ながら、外側から見ていると、全盛期に比べて儲けが減ってきているのは想像に難くない。SMAP、嵐という超エース格のドル箱を失い、ここ1~2年で両者に代わるグループが出てくるとは考えにくい今、先行きは決して明るくないだけに、Jr.への投資を抑えざるを得なくなったのではないでしょうか。ただ、次の世代のSMAP、嵐になるような若いJr.のスカウティングや育成は行わなければいけないので、「ある程度売ってきたけれど、ものにならなかったJr.」を育成から外すと決めたのだと思います。
――ファン目線だと、ジャニーズデビュー組の若手、特にSnow Manの勢いはすさまじいという印象で、事務所も安泰というイメージだったのですが、企業コンサルタントの目線で見ると、先行きは決して明るくないのですね。「22歳定年制度」はジャニーズの懐事情に関係しているとなると、制度導入のメリットはまさにその点でしょうか?
大崎 そうですね、Jr.の育成に対する費用の垂れ流しを止められる点です。活動の年齢制限を設けずにJr.がどんどん増えていくと、コストがどこまで膨らむかわかりませんが、一定のルールを設け、費用対効果を踏まえながらJr.の育成を管理するのは、組織にとってプラスに働きます。
一方、デメリットとしては、満22歳までの育成期間に、Jr.の隠れた才能を見つけられず、見切りをつけてしまうことによる損失。例えば、本来は俳優の才能があったのに、事務所に余裕がなく、演技経験を積ませることができずに切ってしまった……などです。しかし、過去の例を見ても、22歳を過ぎて急に芽が出ることは少ないと、事務所はわかっているのかもしれませんね。隠れた才能を見切ってしまうリスクを経験値に基づいて最小限に抑えるのが、「満22歳」という年齢だったのではないでしょうか。
――Snow Manには27歳でデビューしたメンバーが3人もいます。そう考えると、22歳で見切ってしまうのは時期尚早とも感じるのですが……。
大関 下積みを続けることで花開くと期待されたJr.は、事務所側も活動継続させると思いますよ。ただ不安があるとすれば、今の事務所に「見る目がある人はいるのか?」という点です。ジャニー喜多川前社長は存命中、Jr.の育成を担い、デビュー決定権を握っていたそうですが、「この子はこうした売り方をすれば化ける」といった“天才的なひらめき”を持っていたのでしょう。そんな天才的なひらめきを持った人物が、本当に事務所にいるのか? というのは気になるところ。そもそもジャニー氏のような見る目のある人物がいれば、「22歳定年制度」を設けなくてもよかったのかもしれません。
――確かにジャニー氏の存命中は、こうした定年制度の話は聞いたことがありませんでした。
大関 ジャニー氏の場合、22歳を待たずしても、直感的に「才能がない」と判断したJr.を見切ることはあったのではないでしょうか。やはりジャニー氏を失った今、ジャニーズは経営の仕方を変えざるを得なくなったのだと思います。
――「22歳定年制度」を運用する際に、滝沢氏が気をつけるべきことはありますか?
大関 あまりドラスティックにやりすぎないということです。カリスマトップからバトンを受け継いだ2代目が急激な変革を行うと、社員が反発心を抱きやすく、造反や離脱につながって、会社自体がおかしくなることは珍しくありません。例えば、滝沢氏が来年3月、一気に大量のJr.をクビした場合、ほかのJr.が戦々恐々とし、事務所内の空気や居心地の悪さが一気に高まり、「もうやってらんないよ」となってしまう可能性がある。そうならないために、基本は時間をかけながら、徐々に進めていくことが大事です。
――来年3月の本格実施を前に準備期間を設けたのは、制度の運用をしくじらないために必要なことだったんですね。
大関 Jr.とコミュニケーションを密に取ることも重要です。23年3月末から開始とアナウンスされているものの、突然何人かのJr.を呼び出して面談を行い、そこで「活動終了」を宣告すると、当人たちの反感を買ってしまう。退所者から現役のJr.に対し、事務所の悪い情報が吹き込まれ、不協和音が生じる可能性もあります。なので、最終的な引導を渡す前に、何度も面談を行って「ここを改善しないと、先々難しいよ」と指導をしながら、会社の意思を伝えていく。そうすることでJr.側に改善が見られれば、「活動を継続させて様子見よう」となるかもしれませんし。
――「22歳定年制度」の導入を前に、Jr.内から目に見える形で「滝沢批判」が上がるようになっているのが気になります。8月4日に開催された『マイナビ サマステライブ 未来少年』最終公演で、少年忍者の内村颯太が、グループの奮起を誓った際、「滝沢さんが作ったグループを推したいのはわかります。それに負けてたら上にいけない」「勝つためにはジャニーイズムを継承することが大事だと思った」と語ったそうで、ファンの間に大きな波紋を呼びました。
大関 彼がそれを堂々と言えたのは、「共感してくれる人がたくさんいる」と思ったからでしょうね。この発言からも、滝沢氏のやり方に不満を抱いているJr.はかなり多いように思います。では、なぜ滝沢氏が批判されるのかといえば、彼に実績が足りていないから。
もし彼が推しているグループが爆発的に売れていたら、ほかのJr.は悔しいけれど納得せざるを得ませんが、現状売れていないわけですから、ただの依怙贔屓(えこひいき)に感じてしまう。滝沢氏がこのまま結果を出せなければ、さらにJr.の不満は溜まっていく一方ですし、滝沢氏はJr.の育成に向いていないということになります。
――滝沢氏が目をかけてきたSnow Manは人気がうなぎ上りで、「オリコン上半期ランキング2022」の音楽ソフトの総売上金額を集計した「アーティスト別セールス部門トータルランキング」で第2位の嵐を上回り、トップを獲得したと話題になりました。
大関 嵐はこれまでテレビやCM、コンサートなど、複合的に驚異的な売り上げを生んできました。今年上半期のソフトの売り上げだけで「嵐超え」といっても、それは詭弁に過ぎません。滝沢氏は「現場の責任者トップ」という立場ですが、正直まだまだ。同じ仕事をしても、ジャニー氏に勝てないことは本人もわかっているでしょうが、であれば、滝沢カラーを出すというか、ジャニー氏とは異なる売り方を明確に打ち出さないと、次の展開にはいけません。このままのやり方だと、周りから「ジャニーさんがいた頃に比べてずいぶんダメになっちゃったね」と見られてしまいます。
――カリスマ的存在だった人物の跡を継ぐのは大変ですね。
大関 Jr.の売り出しに関して、ジャニーズ事務所の社長である藤島ジュリー景子氏の意向があまり聞こえてこず、滝沢氏だけが悪者になっているのも問題。オーナー家にはそれなりの存在感や発言力があるので、例えばあるグループをプッシュするにしても、滝沢氏だけでなく、ジュリー氏のお墨付きだということが社内に伝われば、滝沢氏にだけ批判が集まることはないと思うのですが。
――Jr.グループの中にも、滝沢氏の担当とジュリー氏の担当が分かれているという可能性がありそうです。
大関 だとしたら、そこを見直すべきなのではないでしょうか。以前から、現場の実権を握る滝沢氏とオーナー家のジュリー氏の不協和音がささやかれていますが、両者の関係性がいまだ不安定で、組織がきっちり一つにまとまっていない印象も受けます。
滝沢さんは、先代のジャニー氏が亡くなり、当時の副社長・メリー喜多川氏も一線を退くという非常に難しい時期に後を継ぎました。ジャニー氏の仕事を彼一人で担うのは大変でしょうし、ジュリー氏との連携も大事ですが、一方でJr.の育成を手伝ってくれる、グループでのアイドル活動を経験した人物を周りに1~2人置くのも必要だと思います。例えばJr.の育成に関する新たな方針を打ち出した際、滝沢さん1人だけだと反発を買いやすいですが、「現場経験が豊富な先輩たちが協議して決めた」となったら、Jr.たちも納得しやすいはず。TOKIOやV6のメンバーに協力を得られないものかと思ってしまうのですが……。
――一部報道で、元V6の三宅健が、Jr.のオーディションの面接官を務めるようになったと伝えられました。
大関 それはとてもいいことですね。彼を専務などの目に見える形で役職に就任させるのもありだと思いますよ。
――前途多難な滝沢氏ですが、新たなジャニーズ事務所を担う人物として奮闘に期待したいです。
大関 ジャニー氏は管理者というより、彼自身が一番のジャニーズファンであり続け、ファンの目線でJr.の育成をしていたという話をよく聞きますが、上に立つ者のそうした態度が、Jr.の信頼感につながっていたと思います。滝沢さんも、ファンの目線で、Jr.といかに向き合って話ができるかという点を、いま一度考えてみるといいのではないでしょうか。
取材協力:大関暁夫(おおぜき・あけお)
All About「組織マネジメント」ガイド。東北大学卒。横浜銀行入行後、支店長として数多くの企業の組織活動のアドバイザリーを務めるとともに、本部勤務時代には経営企画部門、マーケティング部門を歴任し自社の組織運営にも腕をふるった。独立後は、企業コンサルタントの傍ら上場企業役員として企業運営に携わる。