• 月. 12月 23rd, 2024

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天皇家の医学書は体位マニュアル「四十八手」の先祖? 難解で高尚なエロスの世界

「皇族はスーパースター」と語る歴史エッセイストの堀江宏樹さんに、歴史に眠る破天荒な「皇族」エピソードを教えてもらいます!

――これまで「天皇家秘伝のセックスマニュアル」ともいえる秘密の医学書『医心方』のうち、「ベッドルームでの知識」ともいえる「房内」について歴史エッセイストの堀江さんに語っていただいています。

堀江宏樹氏(以下、堀江) 今回は『医心方』「房内」が後世に与えた影響をお話しましょうか。江戸時代に作られた体位マニュアル「四十八手」のことは、多くの読者がご存知だと思います。その四十八手の先祖にあたる体位マニュアルが『医心方』にもあるのでした。

 ちなみに江戸時代の「四十八手」って実は48で終わりなのではなく、96もあるのってご存知でした?

――めちゃくちゃ多いですね(笑)。

堀江 「四十八手」は「表」と「裏」の2巻構成になっているので、「48」じゃなくて「96」というね。延宝7年(1679年)に浮世絵師・菱川師宣が『恋のむつごと四十八手』という艶本の絵を担当しているのですが、同年、同版元から「四十八手」のフレーズを含む本がほかにも出ています。

 世の中で『恋のむつごと~』が「四十八手」の元祖という説があるのはわかりますが、それが元祖とは言い切れないかもしれません。もちろんこの頃に誕生したアイデアであることは間違いないのですが。

 一方、そういう発想の”先祖”にあたる『医心方』には、「九法(『玄女経』)」、そしてそれが継承・発展され、体位の数も増えた「三十法(「洞玄子」)」の2つが紹介されているだけです。時代が下るに連れ、体位の種類が増加していったことは興味深いですね。

――日本人はどんどんエッチになっていっているのでしょうか……。

堀江 なんともいえません(笑)。

 まず『医心方』の「玄女の九法」として最初に紹介されているのが「龍翻(りゅうはん)」の体位。これは「女を仰向けに寝かし、男がその上に伏し(以下略)」ということなので、現代日本語の「正常位」に相当です。この体位ですると「下等な娼婦と変わらない性の喜びを女は得る(=女則煩悦 其楽如倡)」なんてことまで書いてあります(笑)。

――本当に天皇家の方々に見せてもよい医学書だったのかって思いますよね、『医心方』。

堀江 淑女にも娼婦のような部分があるよ、ということなのでしょうか……。2番目に紹介されている体位は、その名も「虎歩」。

 「女をうつむきに寝かせて、お尻を高く、首を低くさせます。男はその背後にひざまずき、女の腹を抱え(以下略)」……これは現代日本語の「バック」に相当でしょうね。男性が40回ほど腰を降ると、「女陰開帳 精液外溢」してしまいます。

――男性が射精しちゃうということですか?

堀江 違うのです。これは『医心方』に書かれた古代中国由来の性医学の興味深いところなのですけど、「女性が絶頂に達すると、女性も精液を漏らす」という考え方があるのです。わかりやすくいえば、エクスタシーの状態の膣からにじみ出る分泌液こそが女性の精液であり、それは特別なパワーを秘めた液体で、男性に美と健康をもたらすのです……。この思想は江戸時代にも引き継がれていますよ!

――それにしても「女陰開帳」とは秘仏のご開帳みたいでありがたいですね(笑)。

堀江 こういう調子で「九法」、「三十法」ともに物々しい名前の付いた体位とその解説が語られていきます。

 しかし……『医心方』は、ほとんどの部分が文字による解説のみ。図解はあえて使わない書物なので、食い入るように読まないと何がどうなっているのかがわからないのが難です。その点で、この体位マニュアルの部分、わざと「わかりにくさ」を狙って書かれたものではないか、とも思われます。難解で高尚なエロスの世界が演出されていたのではないでしょうか……。

――やけにリアルだったり、逆に難解で、文章に食らいつかないと理解さえできない内容だったり……。読み手としては翻弄される書物ですよね。しかし、日本の高貴なお姫さまって性的な方面には消極的なイメージがあったのですが、どうやら違うようですね?

堀江 平安時代の、とくに女性の手によると考えられる物語文学では、女性は夜、男性が来るのを寝所でただ待っているだけで、男性が来ても積極的な反応を示すこともなく、なされるがまま……みたいな描写が定番なんですが、長い間、天皇家秘伝の書だった『医心方』、とくに「房内」を読んでいると、高貴な方々は非常に情熱的かつ能動的にセックスに向かい合っていた(のかもしれない)と思わせられますね。

 なお、『医心方』「房内」の冒頭に掲げられた「至理第一」の章に引用された、古代中国で成立したとされる書物『素女経』の一節からは、「天」と「地」のエネルギーがそれぞれ交わり合い、世界は永遠に形作られゆく、と考えられていたことがわかります。

 「天地得交会之道 故無終竟之限」……つまり、天と地は、まるで男女がセックスするかのようにふれあい、交わる道を心得ている。ゆえに永遠で、終わりがないとありますね。

 面白いことに、これは天皇家の歴史を刻んだ『古事記』(そして『日本書紀』)の冒頭部の「国生みの神話」を彷彿とする描写です。イザナギとイザナミという男女の二人の神がセックスを通じて、日本の国土を創り出したのですから……。

――セックスって本当はすごく壮大な行為だったのかもしれませんね……。難解な古代日本の性医学書の分析と解説、ありがとうございました。

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