「子ども同士の付き合い」が前提のママ友という関係には、さまざまな暗黙のルールがあるらしい――。ママたちの実体験を元に、ママ友ウォッチャーのライター・池守りぜねが、暗黙ルールを考察する。
年齢も住んでいる地域も超えて、同じ趣味や趣向を持った者同士が交流できるSNS。特にここ数年のコロナ禍において、SNSでの人とのふれあいは、以前より身近で濃いものになってきたのかもしれない。
自由に出歩くことができない妊娠中のプレママや、育児中のママにとって、SNSはちょっとした息抜きになる。「マタ垢」や「ママ垢」と呼ばれるアカウントを作り、SNS上で交流する文化も定着してきた。しかし、ママ友と会話を楽しんだり、妊娠中や育児のストレスを発散する場としてSNSを利用していたつもりが、いつしか人間関係に悩み、メンタルが病んだというケースもあるようだ。今回は、SNS上のママ垢をめぐる “暗黙のルール”に触れてしまったという、あるお母さんの話を取り上げる。
マタ垢のわかりづらい“独特のルール”
首都圏のデパート売場に勤務している聖子さん(仮名・34歳)は、昨年3月に出産したばかりの新米ママだ。
「妊娠をきっかけに、都内から夫の実家がある関東の県に引っ越したんです。夫の実家が近いのは心強かったのですが、コロナ禍の影響でママさん同士が交流できる児童館のイベントなどが軒並み中止になっていて、まだ近所にママ友がいないんですよ」
聖子さんは妊娠を機に、それまではあまり熱心ではなかったSNSを始めたという。
「同じ時期に出産するママたちと情報交換したいなあと思って、ほんの軽い気持ちで、Twitterにアカウントを作ったんです。いわゆる『マタ垢』ってやつですね」
Twitterやインスタグラムでは、妊娠週数の近いプレママ同士がつながることを目的とした「マタ垢」が存在している。プロフィール欄やアカウント名には、初めての妊娠の場合「初マタ」というワードを、妊娠週数を「〇w」と表記するケースが多い。
また、アカウント名ににっこりマークの顔文字をつけているマタ垢が多数みられるが、これは「タメ口で話しかけてもらってOK、でも私は緊張するから敬語で話すけど気にしないでね」という意味だそう。ほかにも、おなかの子が男の子の場合はゾウの絵文字、女の子の場合はリボンの絵文字をつけるなど、わかりづらい“独特のルール”が存在している。
「マタ垢を始めた理由には、『コロナ禍の妊娠で、不安を吐き出せる場所がほしかった』というのもあります。実際に、体調が悪くなり、マタニティブルーのような状態に陥った時、同じマタ垢のプレママさんから励ましの言葉をもらえて、うれしかったですね」
聖子さんは、マタ垢を通して、同い年で、同じ地方出身という共通点がある加奈子さん(仮名・34歳)と親しくなったそうだ。
「加奈子さんは、ハッシュタグで、同じ頃に出産予定のプレママさんを探していたそうです。彼女は2歳上の女の子がいたので、育児では先輩。たまにDM(ダイレクトメッセージ)で悩みを送ったりしていました」
聖子さんと加奈子さんは、お互いに子どもが産まれると、マタ垢をママ垢にして、そこでも交流を続けたという。しかしある時、加奈子さんの態度が豹変したとのこと。
「うちの娘は早生まれなので、これから保活を始める予定。保活情報を集めようと、ママ垢でいろいろとつぶやいていたら、加奈子さんから『保育園に預けるんだ』ってDMが来たんです。私は『仕事を休職中で、来年4月には子どもを保育園に入れ、復職する予定』ということ、それから『復職前に良かったら一度、会いたい』とも伝えました。すると加奈子さんは、妊娠前に仕事を辞めていて専業主婦のため、3歳までは自宅で子どもを見るつもりだというんです」
リアルで交流のあるママ友や、もともと友人だったママ友とは違い、SNS上だけの付き合いだと相手の事情がわかりづらい面がある。
「私も、娘を1歳で保育園に預けることに少し抵抗があったので、『子どもとゆっくりいられる加奈子さんがうらやましい』と送りました。そうしたら、『上から目線はやめてほしい』みたいな返信が来て、気づいたらブロックされていたんです」
気に入らないことがあれば即ブロック。加奈子さんの行動は、SNSでは当たり前なのかもしれないが、聖子さんはとにかく驚いたという。
「私、ブロックされるほどひどいことを言ったかな……と悩みました。どうしても気になったので、一度アカウントからログアウトして、加奈子さんのツイートを見てみることにしたんです」
そこには、信じられないことが書いてあったという。
「ざっくり言うと『ママ友から保活の話で嫌なことを言われた』『私は働きたくても、家にいなくてはならないのに』と書いてあったんです。私のことだなと思って、読んだ後に動悸がしましたね……以前テレビで、ママ垢には『子育てに必死で余裕のないほかのママを傷付ける投稿はしない』という暗黙のルールがあると知りました。ネットではバカバカしいと一蹴されていましたが、私の『保活』ツイートも、加奈子さんをはじめ一部のママに嫌な思いをさせていたのか。それなのに、『加奈子さんがうらやましい』と言ったことで、彼女を決定的に傷つけてしまったのかもしれませんね」
少し前、産後すぐに筋トレを行った様子をアップしたママ垢が、あらゆる事情で運動することができない産後ママから批判を受け、「この度は、たくさんの方に不快な思いをさせてしまい大変申し訳ありませんでした」などと謝罪したことが話題になった。この一件を機に、「子育てに必死で余裕のないほかのママを傷付ける投稿はしない」という暗黙のママ垢ルールが世間で注目を浴びることになり、この事態はツイートの投稿主も予想外だったことだろう。
ネット上では、筋トレツイートを批判した側が「おかしい」と言われていた印象だった。しかし、批判した側をフォローするならば、出産前、産後数カ月間は、慣れない育児やホルモンバランスのせいで情緒不安定になりやすいため、“思わず”カッとなってしまった可能性は否めないと思う。
さて、今回のケースは、保活をしていることをSNSで口外したことがトラブルの発端となった。
居住地域によるものの、首都圏では思い通りの園に入園ができるママは少数。また、妊娠や出産のため、不本意ながら仕事を辞めた人にとっては、すぐ就職活動したくても、子どもが小さすぎて面接すらも受けられず、保活自体が暗礁に乗り上げてしまうこともある。保活は思っている以上に、デリケートな話題であるのは間違いない。
しかし、SNSで保活情報を集めたり、つぶやくのはもちろん何の問題もないだろう。聖子さんの保活ツイートにモヤモヤする人もいるかもしれないが、そう感じたほうがミュート機能を用いて、自衛する方法だってあるはずだ。むしろ今回のケースでは、顔も家庭の事情も知らない相手と1対1で話す中、自身の復職予定や相手の立場に踏み込んだ発言をしてしまったのが問題だったと思う。
誰だって、SNSで相手からブロックされたり、非難されれば、ひどく落ち込んでしまうもの。そのような結果にならないためにも、DMで会話をする際には、相手がどういう立場にいる人なのかよく考えたうえで、話すようにしなければいけない。
特に、SNSで密にやりとりを続けている同じ時期に妊娠・出産を経験したママ友とは、リアルでの交流がなくても、同志のような感覚になり、距離感を見誤ってしまう可能性がある。その点は十分気をつけたほうがよいだろう。