日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。9月25日の放送は「ボクと父ちゃんの記憶2022後編 ~18歳の夢 家族の夢~」。
あらすじ
千葉県南東部、緑豊かな睦沢町で暮らす林家。高校3年生の息子・大介は、若年性アルツハイマー型認知症になった父親を日常的に介護している「ヤングケアラー」だ。
大介の父親、佳秀はもともと東京で映像制作の仕事をしており、多忙な日々を送っていた。1999年に妻の京子と再婚、その後大介が産まれるも、2005年、50歳の時に若年性アルツハイマー型認知症と診断される。
病気の進行を遅らせるため、一家は自然豊かな千葉に越す。大介が幼少期のころは、普通の父親と変わらない様子で一緒に散歩や会話をしていたが、大介が中学校に上がるころから、佳秀の症状は目に見えて悪化していく。
現在は家族と佳秀の会話はほぼ成り立たず、佳秀は家族の名前も思い出せない。トイレも一人で行けず、おむつをはいている状況で、仕事で遅くなる京子に頼まれて、大介が佳秀を寝かしつける様子も映されていた。
京子は佳秀を施設に入れることを決断。別れの日、施設に向かう車の中で涙をぬぐう京子や大介の傍らで、事情がおそらくわからない佳秀はただニコニコしていた。
その後、大介は高校卒業後に地元の造園会社に就職。将来的には農業をやりたいと話す。佳秀の症状が自然豊かな地で緩やかになった、という実感があるようだ。そして、初任給で施設にいる佳秀へ誕生日ケーキを贈る。
林家は、佳秀と前妻との間にグループホームで暮らす知的障害のある娘と、大介の実兄にあたる、佳秀と京子の間に生まれた長男にも障害があり、病院で暮らしていることも伝えられた。
21年の夏、佳秀を施設に預けて以来、感染症予防もあり家族は対面での面談がかなわなかったが、22年6月、京子はようやく対面を果たす。
『ザ・ノンフィクション』美談調ナレーションのモヤモヤ
林家を取り上げた過去3回の放送は、ナレーションが美談調でモヤモヤする、と先週も書いたが、今回最後のナレーションもその調子だった。
「修行して一人前の農家になって、また父ちゃんと、家族一緒に暮らせる日まで、父ちゃんもう少し待っててください」
実際大介は、番組内ではこのように発言していない。なんだかモヤモヤする、と思いながら見ていたが、これは大介の思いでなく、京子の思い、としたほうがフィットする。
京子は、施設に入りもう京子が誰なのかもおぼつかなくなっている佳秀との再会時、佳秀の好物であるステーキをたっぷりのせた弁当を作り、ワンピースでおめかしをしていた。
日本の50代の既婚女性で、夫にこれほど恋愛感情を持っている人は珍しいのではないだろうか。玄関には、佳秀と京子の結婚式と思われる写真が大きく引き伸ばされて飾られていた。これは「ようやるわ」という冷やかしの意味ではない。仲が悪かったり、冷え切っている夫婦関係よりはずっと良い。
施設に預けたら佳秀が家族のことを忘れるのでは、とためらいを見せていたのも京子だ。京子は、佳秀と施設で再会した帰り道で「全員うちの障害の子たちが一緒に暮らせたら本当に楽しんじゃないかなと思って。それぞれができる役割したらすごく楽しいかな」と話していた。
この「全員」のあと「子たちが」と続くので、佳秀は入っていないのかもしれないが、入っているとすれば、ナレーションの調子と一致する。
『ザ・ノンフィクション』「家族一緒に」という発言に伴う負担
林家の放送はこれで4回目になるが、佳秀と京子の間の第1子(大介にとって兄)には重い障害があり、病院で暮らしていることが初めて伝えられた。
大介は18歳という年齢の割にしっかりしている印象で、それは父親を介護するヤングケアラーとしての日々から培われたものかと思ったが、兄の存在もあったのかもしれない。この兄の存在が明かされたことで、ずいぶん家族全体の見え方が変わってくるような気がした。
そして京子も、家族をケアする日々だったのだろう。そのうえで「(家族)一緒に暮らせたら」と言える京子はパワフルだと思うが、その思いが今の子どもたちの負担にならないことを願う。「家族一緒に」という発言自体は「善意」なので、異論を唱えにくい。
家族一緒に、じゃなく、大介はむしろ一人暮らしをしてのびのび過ごしてみては、と思った。
次週は「ボクのおうちに来ませんか2~モバイルハウスと新たな家族~」。2年前に放送した、移動型の家で暮らす二人の若い男性のその後。彼らに「結婚に伴う責任」と「自由気ままな生活」を天秤にかけて決断しなければならない時が迫り……。
▼前回のモバイルハウスのレビューはこちら