• 日. 12月 22nd, 2024

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『情熱大陸』緑黄色社会、ボーカル失踪事件からの草野球――『クレしん』主題歌も納得の清く正しい青春像

 旬な人物に密着するドキュメンタリー番組『情熱大陸』(TBS系)。9月25日の放送回には、人気バンド・緑黄色社会が登場した。2012年、高校の軽音部で出会った面々とその幼なじみで結成された女性2人、男性2人の4ピースバンド・緑黄色社会。ファン(通称は“ブロッ子”とのこと)からは「リョクシャカ」という略称で親しまれているそうで、『情熱大陸』冒頭では「前向きな歌詞が多いので励まされる」というファンのコメントも紹介された。

 音楽に詳しくない筆者からすると、「業界で推されているバンド」「さわやかで前向きな曲を歌う女性ボーカルのバンド」「オシャレ版“いきものがかり”」といったイメージがある。

 そんな彼らの結成からこれまでの歩みは、一見順調そのものに見える。結成翌年の13年に10代限定のロックフェスに出場して注目を集め、19年発売の初シングル「sabotage」は波瑠主演のドラマ『G線上のあなたと私』(TBS系)の主題歌に抜てき、20年に発表した「Mela!」が大ヒットを記録した。

 今年公開の『映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』では主題歌を務め、目標は「国民的な存在になること」だという。今回の『情熱大陸』では、そんな順風満帆な彼らのウラにある葛藤を見せたかったようだ。

『情熱大陸』緑黄色野菜ボーカルが失踪も、のほほんとしたメンバー

 一番の山場となるシーンは、「ボーカル・長屋晴子の失踪」だった。長屋が詞を担当する10周年記念のシングル曲「ブレス」の制作作業中、作詞が思うように進まない長屋は、スタジオから居なくなった――。

 ギターの小林壱誓のもとには、「長屋から泣きながら『今日は戻りたくない』と電話がかかってきた」という。作業は中断され、レコーディングも延期されることになった。

 『情熱大陸』らしいピリつきそうな場面だが、スタジオに残されたメンバーは動じることなく、どこかのどかな雰囲気。焦ることなくお弁当を食べ始める。長屋からの電話に対応中の小林も「それは全然仕方ないから。今日はあれか。ここに戻らずちょっと考えたい的なことよね?」と、責めることなく優しい。

 後日、無事に歌詞を完成させた長屋は、「(歌詞は)自分の悩みを吐く場所というか、自分自身で相談するような場所」「自分の中が空っぽなときは出そうと思っても出ない時とかがあったりとか」「吐き出したくても吐き出せないタイミングもあるし」「自分が歌詞を書くことによって、それが自分以外の誰かに伝わるわけじゃないですか」「それが外に出てしまう怖さみたいなものもたまにはありますね」と語った。

 その後のツアー先では、「歌作りの苦しみから解放された長屋の提案」により、スタッフを含めて草野球(キーボードのpeppeは趣味の寺観光へ行ったため不在)を行い、リフレッシュしながら親睦を深めた。「最高っす」「自然が一番っすね」と楽しむベースの穴見真吾&小林。歌詞だけでなく、コメントも素直でまっすぐで、なんともまぶしい。

 そして迎えた初の武道館ライブ。リハーサル後のミーティングでは、「長屋が『仕事仲間みたいな感じになってないか?』と。『やっぱり友だちじゃないけど、ちゃんとそれ(友だち)に戻りたくないか?』みたいな」「その辺を取り戻そうという話し合いがあった」(穴見)とのこと。

 そこで友情を再確認した様子のメンバーは、開演直前に円陣を組み、「俺らが一番楽しむぞ」「ミスなんてどうでもいいんだ」「楽しむぜ」と声をかけ合っていた。

 “ステージはお客さんを楽しませるものであって、自分が楽しむものではない”“お金をもらう以上ミスは許されない”“プロとしてやるならば友だちではいられない”といった昭和的な価値観は、すでに緑黄色社会のメンバーには存在しないと実感させられた。

 緑黄色社会の『情熱大陸』をまとめると、次のようになる。ボーカル失踪→優しく受け止めるメンバー→スポーツで親睦を深める→念願の武道館→「私たちは仕事仲間ではなく友だち!」。そして目標に掲げるのは「国民的な存在になること」。

 誰からも文句を言わせない、清く正しい青春ドラマのような構成にうなった。『クレヨンしんちゃん』の主題歌に抜てきされるのも納得できる、わかりやすい明るさ、前向きさがある。昭和の自己犠牲的プロ精神よりも “楽しむ! 友だち! 夢に向かって走る!”といった青春ドラマがウケる世になったのだなぁ……としみじみ感じた。

 また、バンドにありがちな尖った感じや、ひねくれた感じがまったくないのも、幅広い世代にウケるポイントなのかもしれない。穴見がオフ日に、1人で岡本太郎美術館へ行くシーンからも、素直な人柄が感じられた。というのも、自意識をこじらせた人間であれば、岡本太郎美術館に行き、作品を鑑賞しながらゆっくり頭を揺らす――という、いかにも『情熱大陸』的な行為は、カメラの前でできないのではないか。

 ナレーションは「永遠の高校生たちは、見たことのない高みを目指し続ける」と締めくくられていた。優しく前向きな4人には、永遠に友だちのまま、永遠に岡本太郎美術館で頭を揺らせる素直さを持っていてほしい……。

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