• 月. 12月 23rd, 2024

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エリザベス女王の棺の中は……ヨーロッパ王族に流行した、国王の特殊な埋葬方式とは?

「皇族はスーパースター」と語る歴史エッセイストの堀江宏樹さんに、歴史に眠る破天荒な「皇族」エピソードを教えてもらいます! 今回は、番外編として英王室に関するお話を聞きました。

――9月9日、英国女王エリザベス2世が96歳で亡くなりました。日本からは天皇皇后両陛下がイギリスでのご葬儀に参列なさいましたね。

堀江宏樹氏(以下、堀江) 天皇陛下はご即位の翌年にあたる2020年、エリザベス女王から国賓としてイギリスに招待されていたものの、コロナ禍の影響で渡英を断念なさったとか。陛下にとって、女王はイギリス留学時代から交流のあった大切なお方だと存じます。そのエリザベス女王のご葬儀が、ご即位の後、最初の外国訪問になってしまうのは本当に悲しいことですね。

――天皇陛下、そして雅子さまの喪服がヨーロッパでは評判になったそうですが。

堀江 日本の皇室は、いわゆる明治期の「文明開化」以降、当時のヨーロッパの王侯貴族の冠婚葬祭のドレスコードを輸入しています。雅子さまがネックレスとイヤリングに着用なさっていた“黒い宝石”こと「ジェット」がヨーロッパのメディアでは注目されたのですが、もともとこれは19世紀のイギリスで、愛する夫の死を悼み、自身が亡くなるまでの約40年間も喪服を着続けたヴィクトリア女王が愛用することで人気が出た宝石なんですね。日本では「黒玉」といわれたりもします。

 エリザベス女王の葬儀に参列なさったイギリス(など)の女性王族の方は、黒の喪服に真珠を合わせておられるケースが目立ちましたが、雅子さまは彼女たちよりも古式ゆかしいジェットのアクセサリーを身に付けておられたので、品格が違うと話題になったのかもしれません。雅子さまだけでなく、女性皇族の方々が葬儀でお付けになるアクセサリーもジェットが中心のようですね。

――「黒の喪服」と今、おっしゃいましたが、それ以外のカラーの喪服も昔はあったのですか?

堀江 はい。白や黒というモノトーンは、欧米では「色をもたない色」という扱いなので、白の喪服もあります。ヨーロッパで白い喪服が黒い喪服にとってかわったのは、歴史の教科書では「近世」とざっくりとした説明がなされていますが、上流階級向けのドレスのデザイン見本などを見た記憶からは、17世紀くらいには変化があったような気がしますね。

 ちなみに、日本では白い喪服の伝統は地方にもよりますが、20世紀半ばくらいまでは存続しており、2014年のNHK連続テレビ小説『花子とアン』にも登場したことを記憶しています。

――喪服やアクセサリーのTPOもずいぶんと変化するものなのですね。しかし、今回のエリザベス女王の葬儀で、一番疑問に感じてしまったことは、亡くなってから10日以上も保管されていたご遺体は大丈夫だったのかな……ということなんです。ヨーロッパでも寒冷地にあたるイギリスですが、今年は暑さが厳しく、40度を超えたともいいますし。

堀江 女王の家系はウィンザー家と呼ばれ、ヨーロッパの中でもとりわけ秘密主義の傾向が強い家風で知られています。私もすこし気になって調べましたが、ご遺体のエンバーミング(防腐処置)については当然ながら、何の情報も出されていないですね。

 女王の棺は、亡くなったバルモラル城からロンドンのウェストミンスター寺院へ向かい、しばし安置された後、19日に同地で天皇皇后両陛下もご参列になった国葬が営まれました。最後は埋葬地にあたる礼拝堂があるウィンザー城まで運ばれた……ということで、日数も移動距離もあり、いくら密封してあるとはいえ、外気の影響を受けると考えて当然です。

――イギリスの世論でも疑問が見られました。実はあの棺の中はカラッポで、実はほかの場所にご遺体は安置、保管されているのでは、という声もありました。

堀江 9日に亡くなり、埋葬……というか、ウィンザー城の聖ジョージ礼拝堂の地下に棺が安置されるまで約10日。いくら特注品の棺で、その内部は鉛張りで完全に密閉されているとはいえ、不安があるのはわかります。

 女王のご遺体の保管法について、英王室の広報官の発表はこの後もないでしょう。ですから、これから述べることは私個人の見解にすぎませんが、中世からヨーロッパの王族、ときには貴族の間でも流行した「三分割埋葬」と呼ばれる特殊なエンバーミングの一種が女王にも施されていたのかもしれません。当地ではラテン語で「Mos Teutonicus」などと呼ばれる方式です。

――それは一体、どんなエンバーミングなんですか? 

堀江 中世ヨーロッパ……とくに当時のイギリスとフランスで人気を呼んだ手法なのですが、国王が亡くなると、すぐさまそのご遺体から心臓、内臓を取り除いてしまうのです。内臓はアルコールで満たされた容器の中で保管するのですね。古代エジプトのミイラづくりでも、腐敗が始まる前に大急ぎで腐りやすい内臓を体から除去することが重視されたのですが、ある意味それと少し似ているかもしれません。

 一方で、12世紀のイギリス国王・リチャード1世(リチャード獅子心王)が亡くなると、彼の心臓はアルコール漬けではなく鉛の箱に納められました。その調査が近年行われていて、それによるとリチャード1世の心臓は、一度乾燥された後、デイジーやミント、ギンバイカの葉といったハーブ類やフランキンセンス(乳香)、そして水銀を使っただけにもかかわらず、腐敗せずにミイラ化して残っていました。

――ええっ! 心臓のミイラ化ですか!

堀江 徳の高い王様ほど、内臓、遺体が腐敗しないという伝承もあったりしたんですよ。現代でも、心臓、内臓、肉体を分ける三分割埋葬に近い埋葬法は、ハプスブルク家の一部の方の葬儀では行われていることがわかっています。

 ハプスブルク家は20世紀初頭に革命によってオーストリアの帝位を失いましたが、最後の皇帝の皇后だったツィタさんが1989年に亡くなった時も、厳格な三分割埋葬ではなかったにせよ、それに類する分割埋葬が行われています。また2011年、ハプスブルク家の当主であり、欧州議会議員を長い間勤めたオットー・フォン・ハプスブルクさんの葬儀でも同じように、分割埋葬が実行されています。

――つい最近まで継承されていることが判明してるんですね。

堀江 実はハプスブルク家も19世紀には、まるで遺体解剖のような三分割埋葬を廃止していたのですが、20世紀後半以降、なぜか復活を遂げたという……。

 ただ、これら三分割埋葬は主にカトリックの王族の間で主に行われている風習で、イギリス王家は16世紀以降、カトリックから英国国教会に宗旨変えしているため、エリザベス女王のご遺体については「よくわからない」というしかありません。

――ちなみに、心臓や内臓は容器に保管されると聞きましたが、それはその後、どうなるのですか?

堀江 フランスの王家だったブルボン家の例でいうと、ランスという都市にある聖ドニ大聖堂に、心臓や内臓を納めた壺を置いていた場所、遺体を納めた棺を安置する場所がそれぞれ別にあったようです。

 18世紀末のフランス革命期には、お棺の中身は暴かれてしまっていますし、心臓などを収めた壺は貴金属製だから、売り飛ばされました。その中に入っていた内臓も、絵の具に混ぜて使うと深い陰影が出るという考え方が当時はあったので……。潰され、油絵の具に混ぜられ、薄暗い雰囲気の静物画になっちゃったものを見たことがありますよ。

――すごい話ばかりですね。革命が起きるとそれまで庶民が知ることのなかった王室の秘密が明らかになるということでしょうか。イギリス王室はどうか安泰でいてほしいものです……。

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