多田佑実さんは産後ウツとワンオペ育児に悩んだ経験から、「産後TOMOサポ」を主宰し、孤独な育児に奮闘している母親たちをサポート、支援する人や場所につなげている。
多田さんとともに活動している古川美紀さん(仮名)も孤独な育児と夫との関係に苦しんだ一人だ。妊娠中から浮気とDVをしていた夫が無断で家を購入しようとしたことをきっかけに、子どもを連れて家を出る決心をした。
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本当に支援が必要なのは自分だった
家を出ることを決めた古川さんだったが、行くあてはなかった。ひとまず、友人の家に身を寄せた。
「一歩間違えば母子3人が路頭に迷うわけですから、不安は大きかったです。幸運なことに、産後TOMOサポで知り合った方が使っていない家を無償で貸してくださったんです。本当に助かりました」
古川さんと子どもがいなくなったことを知った夫は激怒し、生活費も入れなくなった。「殺されるんじゃないか」と恐れた古川さんは、これも産後TOMOサポの活動でつながりのあった警察に相談した。
「これまでに夫が子どもに暴力を振るっていた動画があったので、警察の方に見せたら、すぐに児童相談所に連絡してもらえました。これまで多田さんと一緒に産後TOMOサポで活動し、孤立しているお母さんたちを支援してきたのに、私自身が夫に『暴力もしつけだ』と言われて反論できなかったんです。閉じた家の中で、夫婦のパワーバランスが崩れていたんだと思います。児童相談所や警察が入って、私や子どもたちを見守ってくれたことで、追い詰められていた気持ちがラクになりました。これまで私は、ワンオペ育児で苦しんでいるお母さんたちを支援する側だと思っていましたが、実は私が一番助けてもらわないといけなかったんだと、ここまで来てようやくわかりました」
今は離婚調停中だ。夫は「子どもたちと会いたい」「子どもたちと遊びたい」と主張しているが、DVをしたことに反省の色はない。子どもと会えばまた暴力を振るうのが目に見えている。慰謝料もそうだ。夫は自分が悪いと思っていないので、慰謝料を払う必要はないと主張している。離婚が成立するにはまだ時間がかかりそうだ。
それでも、多田さんをはじめ、活動を通じてつながった仲間やサポートしてきたお母さんたちがいることが心強い。
「当事者として苦しんだ経験があるから、同じように苦しんでいる女性により寄り添えるだろうと前向きに考えています」
多田さんは自身の経験や古川さんを通して、「夫婦関係はブラックボックス化しやすい」と感じている。
「夫に『お前が悪い』と言われて、萎縮してしまうこともあります。すると外に助けを求められなくなってしまう。『助けて』と言えなくなるんです」
支援する側が、そうした状況を理解していないことも少なくないと指摘する。
「困っているなら困っていると言えばいい。嫌ならそこから出ればいい。そこにいることを決めたのはあなたなのだから、自己責任だと断定してしまう。夫のコントロール下におかれた状況では、そこから逃げるのは並大抵の努力ではできないんです。だからこそ、客観的にその人の状況を把握、判断して、サポートする第三者の存在は重要なんです」
相談する相手も大事だという。
「やっと支援につながったと思ったら、市役所でたらいまわしにされたケースもあります。まずは安心して話せる関係づくりが大事だと思っています」
古川さんが急に家を出ないといけなくなっても、スムーズに支援者につながることができたのは、それまでにさまざまな人につながって、多少なりとも状況を伝えていたからだと多田さんはいう。だからこそ、本当に困る前に誰かにつながっておくことが大切だと伝えたい。そして産後TOMOサポは、いつでもなんでもフランクに相談できる相手でありたいと考えている。
多田さんは、不登校の子どもをサポートする活動もはじめた。子どもの年齢にかかわらず、母親や子どもが社会から孤立している状況をもたらす問題の根本は同じだと考えているからだ。
助け、助けられて、今の自分がある――多田さんの実感だ。多田さんの思いがより多くの人に届いてほしい。
産後TOMOサポ:https://yuumin2020.com/