羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。
<今週の有名人>
「(さんまさんの老後が)本当に心配で!」森三中・黒沢かずこ
『週刊さんまとマツコ』(10月9日、TBS系)
10月9日放送『週刊さんまとマツコ』(TBS系)では、森三中・黒沢かずこが「芸能人から業界人までが集う夢の老人ホーム」のプレゼンを行っていた。さんまは高収入だからか、多くの人に「(業界関係者用の)老人ホームを作ってくれ」と頼まれるそうだが、多忙なさんまがそれを実行に移すことは難しい。そこで黒沢サンがさんまの希望をヒアリングして、それに沿った老人ホームの建設を始めたいというのだ。
黒沢サンのビジョンでは、さんまはスター棟と呼ばれる棟に住み、4フロアを自由に使う。黒沢サンやその他元テレビ関係者は8畳のワンルームがある寮に住み、スター棟と寮は渡り廊下でつながっている。その渡り廊下に、さんまがよく行く焼肉店・游玄亭などの飲食店を誘致し、ギャラ飲みしてくれる女性を呼んで簡易キャバクラを作る。さんまは「セカンドライフ漫談やないか」とツッコんでいたが、暗くなりがちな老後の話を、明るく、真面目に妄想している黒沢サンは面白かった。
が、黒沢サンって相変わらずだなと思う。
黒沢サンは、今回の企画を番組の構成作家に直談判したそうだ。そこまでの熱意を持つ理由を、黒沢サンは「(さんまさんの老後が)本当に心配で!」「幸せになってほしい」からだと言っていた。つまり、さんまへの愛、さんまのための行動としているが、黒沢サンはもともと“心配グセ”を持っているのではないだろうか。
2015年2月放送の『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)で、黒沢サンは、仲の良い芸人・椿鬼奴が交際中(当時、同5月結婚)のグランジ・佐藤大について、「経済力のなさが心配」と言っていた。
佐藤はギャンブルが好きで、借金もあるとのこと。黒沢サンは鬼奴のパートナーにふさわしい人物か心配になったらしく、「本当に鬼奴と結婚するつもりがあるなら、この世界を辞めて普通の仕事をすればいい」「彼氏は雇われのバーテンくらい、いつでもできると言うけれど、商売なめんなよと思うんです。生活費を稼げるようになってから言え」となかなかの口調で佐藤を批判していた。
金銭的な苦労があると、夫婦仲が悪化する原因となり得るので、夫婦そろって安定した職に就くのは、確かに望ましいことだ。しかし、誰と結婚するか、どんな結婚をするかは鬼奴の問題であり、友だちといえども、黒沢サンが口を挟む権利はない。
テレビなのでわざとキツく言ったのだと信じたいが、自分の彼氏を悪く言われて、鬼奴もいい気持ちはしないだろうし、“心配”を理由にあれこれ友だちに口を出すことは、一歩間違えば友情の破綻につながる場合だってある。暴力を振るわれているとか、脅されて金品をむしり取られているというなら、友だちを助ける必要があるだろうが、そうでないのなら、心配してあげる必要はないだろう。
『おかげでした』の別の回でも、黒沢サンは暴走していた。芸人として成功したという実感が持てないので、恋愛や結婚に興味が持てないと話していたのだが、だんだん方向がずれていく。感情がたかぶった黒沢サンは、番組のプロデューサーに対し、「飲む金あるなら制作に回せよ! 上に媚びるな! もっと若手スタッフにチャンスやれ」と訴えたのだ。なぜここまで熱くなるのかというと、黒沢サンいわく「テレビが好き」だから。テレビ離れが叫ばれる時代に、フジテレビの行く末を心配して暴走したのだろう。
テレビはショーなので、番組の偉い人が黒沢サンに黙って怒られるというのは、いい見どころを提供したといえる。しかし、発言の内容はどうだろうか。
元フジテレビ社員・長谷川豊氏がYouTubeチャンネル「街録Ch~あなたの人生、教えて下さい~」で、同局低迷の背景について、上層部はキャバクラで大金を使うのに、現場にはお金がないなどと話していたから、おそらく制作費が足りない、もしくは制作費を飲み代など不当に使う人がいるのは本当のことなのだと思う。しかし、それはフジテレビ内部の問題なので、社員ではない黒沢が口を挟むべきことではないだろう。
「心配」という善意が起点になっているとはいえ、黒沢サンは鬼奴の件でもフジテレビの件でも、「超えてはいけない一線」を無視して、口を出してしまうところがあるように思う。なぜ黒沢サンがそんなことをしてしまうのかというと、黒沢サンが自分の本音に気づいていないからではないか。
黒沢サンは「(さんまさんの老後が)本当に心配で!」と話していたが、私にはさんまの老後に不安な要素があるとは思えない。女優・大竹しのぶと離婚して独身ではあるものの、親しくしている人がいるようだし、今後、結婚する可能性もある。娘のIMALUもいるし、資金力もあるので介護施設に入ることもできるだろう。なぜ黒沢サンが、さんまを心配するのか意味がわからない。
心理学の世界に「投影」という概念がある。自分の抑圧された感情を他人のものとすり替えてしまう防衛機制を指す。例えば、妻の浮気を疑って、あまり外出させない、携帯をチェックするなどの行動を取る夫がいるとする。「それだけ執着するのは、よっぽど妻のことを愛しているからだろう」と見る人もいると思うが、実は自分が強い浮気願望を持っていることに気づかず、「妻が浮気したがっている」と話をすり替えてしまうのだ。
この投影理論に黒沢サンを当てはめて考えてみると、黒沢サンが誰かを「心配している」と言うのは、相手も不安を抱えているという前提からなのだろうが、これはつまり、自分自身が抱える不安を相手に投影しているのではないか。つまり黒沢サンは、さんまの老後を心配しているわけではなく、自分の老後を心配しているように思う。
『上田と女が吠える夜』(日本テレビ系)で、黒沢サンは「一人が苦手だけど、結局一人になっちゃう。一人っ子だし、パートナーもできたことがない。だから、みなさんは究極の一人を知らない」と話していた。
一人でいることはまったく問題ないし、テレビで自分の心にもない発言をするのもアリだと思うが、自分の本心に気づかないままでいると、メンタルヘルスを損ねる可能性がある。どうか自分の心に向き合う時間を作ってほしいと願わずにいられない。